秋田県立図書館 ―学校支援―

県立図書館の「人」「工夫」「知恵」

所在地:〒010-0952 秋田市山王新町14-31
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秋田県と秋田県立図書館

(1)秋田県の読書活動推進に関わる条例と基本計画

秋田県では、「秋田県民の読書活動の推進に関する条例」を定め、平成22年4月1日(2010年)より施行している。都道府県レベルでは全国で初めてできた、唯一の読書推進に関わる条例である。この条例を受けて、平成23年度から「秋田県読書活動推進計画・第1次基本計画(平成23年度~平成27年度)」をスタート。図書の充実や体制整備、県民の読書活動推進の土台づくりをすすめた。この中で得られた成果や課題を整理し、第2次基本計画(平成28年度~平成32年度)に移行。第2次基本計画では、その主要テーマを「土台づくりから読書を通じた人づくり」を掲げ、「家庭における読書活動の推進」「学校・職場における読書活動の推進」等を柱として、読書活動を推進している。

この基本計画の推進にあたっては、庁内に「秋田県読書活動推進本部」を企画振興部総合政策課(知事部局)に設置し、知事を本部長とする関係部門総参画型の組織体制をとっている。教育機関に位置づけられる県立図書館教育庁の関係各課と連携し、高等学校・特別支援学校へは直接的に、小中学校へは市町村立図書館等と協働で具体的な読書活動をすすめている。

なお、この推進本部の事務局は企画振興部総合政策課県民読書推進班であり、県立図書館とコミュニケーションを図っている。

11月1日は、「県民読書の日」として定め、県民総ぐるみで読書に取り組んでいる。今年の11月1日は制定記念として、「制定記念コンサート」を実施した。

(2)秋田県立図書館

運営は直営方式であり、5班体制で運営している。

秋田県立図書館の組織(平成28年4月1日現在)

秋田県の学校数(平成28年度)は以下の通りである。県立図書館は主に高等学校・特別支援学校を、公立の小中学校は市町村立図書館を通じて支援を行っている

基礎データ

(注)学校貸出冊数はセット貸出・特別貸出の総冊数で記載。

学校支援、これまでの歩み

◆平成15年度
・県立図書館内に秋田県子ども読書支援センターを開設。センター職員は県立図書館職員が兼務。

◆平成19年度
・高等学校・特別支援学校向けのセット資料を整備、貸出サービスを開始(現在も実施中)。
・県立図書館職員が学校図書館訪問を行い、ニーズの把握と利用の促進の働きかけを開始(現在も実施中)。
・県内3教育事務所に地区子ども読書支援センターを設置、読書ボランティア向け研修会を開催。
・学校図書館職員研修会を開始(現在も実施中)。

◆平成21年度
・県の読書推進施策である「子ども読書夢プラン事業」により県内市町村に25名の司書を派遣(平成23年度まで実施)。
・旧イトーヨーカ堂図書館から児童資料約1万冊と書架等の寄贈を受け、子ども読書支援センターに専任非常勤職員を配置。
・県立図書館職員による小中学校向けの出前研修会を開始。(現在、市町村を中心に支援として実施中。図書室を1日で改善するビフォーアフター研修等)。

◆平成23年度
・秋田県立図書館内に県総合政策課県民読書推進班が設置される。

◆平成26年度
・11月1日を「県民読書の日」に制定。県立図書館において知事が宣言。

◆平成27年度
・県立図書館長が校長会等で図書館利用をアピール。

◆平成28年度
・特別支援学校にアンケートを実施し、特別支援学校向け資料を大幅に整備。
・現在、県内の全市町村(25市町村)で読書活動推進計画が策定され、運用。

高橋館長にインタビューを行った。

(敬称 略)

[高橋館長の略歴] 
高橋 貢(たかはし みつぐ)
秋田県大仙市生まれ
早稲田大学教育学部卒 
秋田県教育庁高校教育課管理主事、同課主幹、秋田県立湯沢高校長、秋田県立秋田高校長等を歴任
平成26年度から秋田県立図書館長

秋田県では、読書活動推進本部を知事部局の企画振興部において施策を推進されている。他の都道府県では見られない組織形態であるが、そのお考えを伺いたい。

館 長

読書推進に関わる県条例は、国の方針を受けて県議会で議論されてきた。この条例の具体的な検討や取りまとめにあたっては、議会と密接にやり取りを行うことが求められる。また、施策を推進するうえで予算化は重要であり、予算化の実現性も考慮しなければならない。読書活動推進本部の本部長は知事であり、市町村への施策展開も効果的に行える。このような理由で知事部局に配置している。但し、施策の推進や具体化・具現化は教育庁及び県立図書館等が行っており、効率的な行政運営ができる組織形態と考えている。

法律ができたからと言って読書をする訳ではないが、少なくとも条例化されることによって「環境整備」は飛躍的に進む。県が環境整備を行えば、それと連動して市町村も施策を進められる。11月1日の「県民読書の日」も一例である。

事務局:学校教育をどのようにサポートしていくか、県立図書館の方針をお聞かせいただきたい。

館長

小中学校

小中学校は、市町村立図書館・分館・公民館図書室を通じて支援している。県立図書館が市町村の支援を行うことを図書館法等で明記されているわけではないが、文部科学省告示によれば、市町村への指導的役割を担う必要があると感じる。市町村への資料の貸出は年2万冊~2万5千冊。今後も学校現場の要望に市町村立図書館と協力して対応していく。

高等学校・特別支援学校

高等学校・特別支援学校の読書環境を充実する必要がある。特に、特別支援学校は小中学校と比べても、図書費の予算が少なく、大型絵本も買えない状況である。今年から、県立図書館で各学校からアンケートをとり、要望をもとに資料を購入することとした。現在、各学校を訪問し、要望を取りまとめて購入の準備をすすめている。高等学校は専門高校と普通高校では整備する資料は異なるが、どの高等学校にも「県立図書館コーナー」を作ってもらっている。ここには目的やテーマに沿って「セット貸出」方式で配本している。配本(輸送)はコンテナを利用し、箱を開けるとそのまま、魅力的な展示ができるようになっている。セット貸出の人気例に「キャリア教育関係のテーマ別セット」や「入試問題の分析シリーズ」などがあるが、これも県立図書館の司書が選書にあたっている。

高校現場の先生は、「借りた本の紛失」を心配されており、このことが高校への貸出で考慮すべき点となっている。県立図書館では、「無くなることを心配せず、積極的に利用を図りましょう」という方針を取っており、継続的に館長及び司書が学校を訪問し説明をしている。

図書館は小売業といった業種に近いものがある。全生徒から読みたい本をアンケートで取得し(市場調査・ニーズ把握)、必要と思われる本をタイミングよく購入(最適な品揃えをタイムリーに行う)、棚レイアウトや効果的な配架(ディスプレイ効果の高い棚配置)で児童・生徒・先生等(お客様)に利用していただく。先日、訪問した大曲農業高校の図書館はすばらしい。

整った読書環境に加え、教員の高い授業力が合わされば、生徒の読書モチベーションを更に高めることができるだろう。また、読書推進に対し熱心な司書教諭がいると、授業とリンクして生徒の読書モチベーションを上げられる。

セカンドスクール

秋田県ではセカンドスクール(インターンシップ)制度がある。これは「児童・生徒が夏休みを利用して少年自然の家で活動する」「図書館などの公共施設で働く」などの体験型学習で、10数年前から実施している。県立図書館も体験先となっており、年間50校ほどの中高生を受け入れている。教師用にも別メニューを設け、昨年は認定こども園・幼稚園の初任者教員研修として130人程受け入れた。

「教育県・秋田」を引き続きキープしていくために、人材育成の方針を伺いたい。

館長

人材育成方針は次の3点である。

第1点目、それは「県の行政機関として役割をしっかり果たす」ということ。我々には、県民に奉仕するという使命感が不可欠だ。県立図書館では県内各地にある市町村立図書館や公民館図書室を年150~200回巡回をしている。そこで、ニーズを把握し、相談をし、さまざまな研修を行い、市町村の人材育成を継続的に支援している。

第2点目、「教育委員会所管の教育機関として、学校支援に力を入れる」ということ。資料面の充実をすすめ、読書推進の環境整備を図る。更には学校と連携を密にし、カリキュラムの展開に応じ本をタイムリーに提供する体制を整える。また、セカンドスクールの取り組みも継続していく。

第3点目、「図書館業界の中でも一流でありたい」ということ。このことが、人材育成につながる。今後は「ビジネス支援をはじめ、コンサートや金融・年金相談講座の開催、放送大学との連携、デジタルアーカイブなどの事業を進めたい。電子書籍にもチャレンジしていく。また、郷土資料の収集やデジタル化も図る」。このようなさまざまな取り組みによって、県民の幅広いニーズにこたえていきたい。

具体的な学校支援内容

企画・広報班副主幹(兼)班長の中山さん(左)
同じく社会教育主事の田中さん(右)

セット貸出

高等学校・特別支援学校へは平成19年から、セット貸出を行っている。テーマごとに30冊~40冊程度を選書し、コンテナ(プラスチック製の輸送用の箱)に収納している。そのまま展示できるよう看板(テーマ名を書いたパネル)も同梱している。 学校では、予め配布されているリストを参照し、県立図書館にFAXで貸出依頼をする。図書館は依頼を受けた後、随時、宅配便で発送している。現在、54のテーマで194セットを用意しており、毎年セット数を増やしている。中でも進路の選択や自己の成長・実現に関わるテーマが多く利用されている。

課題は、利用率の向上・利用の定着化である。学校の先生方は、「図書の紛失」を危惧されているが、「無くなることを心配しないで、利用してください。」とのスタンスで随時、説明をしており、利用者の利便性を常に考えた対応を心がけている。また、図書館の各種サービスをどのように学校現場の先生方に広く周知するかという課題もある。そのために、教育委員会や校長会、教育研修など、あらゆる多くのつながりと機会をとらえ、効果的な広報に努めていく。また、図書館職員の学校訪問を重ね、人と人とのコミュニケーションを最大限活用したい。先生方には図書館のサービスを利用することの価値を認識してもらうことが重要と考えている。

特別貸出

高等学校・特別支援学校へは、セット貸出以外にも、必要としている本の分野の希望に沿って貸出をしている。あるいは直接、書名の指定を受けて貸出を行う。調べ学習や教材研究などで利用され、随時発送している。必要に応じて、事前のレファレンス(調査相談)も行っている。今年度は「修学旅行のガイドになる本」「ディベートのための調査資料となる本」「調理実習で使用できるレシピ本」等の申し込みがあった。

小中学校への本の貸出は市町村立図書館が行っているが、蔵書がない場合や不足している場合は県立図書館に貸出依頼がされる。貸出・返却にかかる費用は県が負担している。

レファレンスサービス

児童や生徒、先生方からの問い合わせについて、図書館の資料によって解決策の相談に応じている。質問は、電話・メール・FAX(文書)・カウンターでの口頭などで受け付けし、特別貸出にもつなげている。

*年間レファレンスサービス件数は27年度で28,309件である。(学校以外の利用を含む)

学校訪問

図書館の訪問計画や学校からの依頼により訪問し、学校図書館の運営に関して助言や情報提供を行うとともに、県立図書館の支援サービスの周知に努めている。今年度は高等学校・特別支援学校を9校訪問した。また、訪問時にニーズの把握や貸出の利用促進などを働きかけ、学校関係者とのコミュニケーションも図っている。

学校図書館職員研修会

高等学校・特別支援学校の関係職員、図書委員会の生徒などを対象に、図書館の運営やサービスについて研修会を実施している。2016年度は、「資料の展示の仕方と工夫」についてのワークショップと、職員、生徒それぞれでの情報交換という内容で実施した。スキルアップや関係者間でのコミュニケーション向上など、効果的な研修の場となっている。

市町村立図書館では、「子ども読書夢プラン事業」によって学校司書の人材育成を継続的にすすめてきたが、県立図書館でも講師を派遣し、研修を実施してきた。現在でも市町村側から支援依頼があると、随時「出前研修会」を開催している。

*子ども読書夢プラン事業は平成23年度をもって終えている。

*市町村側での研修会については、取材事例として由利本荘市中央図書館や能代市立図書館などの記事を当サイトで掲載している。

市町村立図書館の支援状況は以下の通りである。

ホームページ

図書館のホームページには「高等学校・特別支援学校専用ホームページ」が開設されており、「セット貸出」のリスト等を掲載している。

ホームページの更新は、担当職員それぞれで行い、館長の承認を経て公開している。

調べ学習に活用できるリンク集を作成している。リンク先のサイトはテーマごとに分類しており、多くのテーマが調査可能である。このサイトは、3人の教員が総合的な学習の時間等での利用を想定し、半年の年月をかけて作成した。現場で指導する先生方は時間的な余裕が少ない。このような中で、県立図書館のような機関が情報センター的役割を担って学校教育を支援することの意味は大きい。「東京学芸大学・図書館活用データベース」などと組み合わせて活用すれば、先生方の強い味方となる。

秋田県では、読書推進総合ホームページ「あきたブックネット」を開設している。

子ども読書支援センター

秋田県では国が推進した「学校図書館支援センター」を「子ども読書支援センター」として、県立図書館内に設置してある。職員は県立図書館と兼任であり、実質的に県立図書館が広く、学校図書館を支援している。

書庫

書庫は1Fと4Fに設置されており、明治32年の開館以来収集している郷土資料や貴重資料などを保管している。1Fには発送等のバックヤードがあるが、全スペース「整理・整頓」が徹底されている。県立図書館の”整理・整頓の徹底”は、長年の取り組みの成果。「ものづくり日本」にも通じる。このことが学校への随時貸出(デイリーでのサービス提供)、レファレンスでの効率的な調査などのサービス基盤となっている。

取材後記

県外在住者の筆者(岩手県在住)が初めて秋田県立図書館を訪れたのは、2015年の春。当時、副館長であった山崎さんとお会いするためであったが、少々時間があったので、館内を覗いてみた。入るとすぐに、展示コーナーの意味するところがわかった。東北の各県はどこも同じような課題を抱えている。人口流出、農業や漁業の担い手不足、健康・生活問題などなど。このような諸課題について、図書館がどの様に捉え、県民にどの様に情報提供を図って課題解決につなげていけるか、展示コーナーで、その意思を強く感じた。もみ殻で作った地場産品の展示ボード(現・ビジネス支援コーナー)、減塩をすすめる料理本や生活保護の申請手続本等(現・生活支援コーナー)の展示。図書館は課題解決を学ぶ場でもある。思うに、これは誰からの指示とか方針とかではなく、秋田県民である職員一人一人が企画し、選書・展示したものと推測する。現場力のある組織は、必ず支持され、発展していく。

先日、興味深いニュースがあった。県別、高校生地元就職率ランキングである。トップの愛知県は頷けるとして、2位以下に富山県以下、北陸の各県が入っている。その率、95パーセント以上。富山県では「14歳の挑戦(職場体験学習)」と題して、7時間/日×5日間(35時限)のカリキュラムを中学2年生で行っている。秋田県でもセカンドスクールとして同様な取り組みがされているが、人口流出対策等への工夫例として、感心した。読書推進からアクティブラーニングへ。図書館に求められる役割は一層、重要になる。