秋田県立大館桂桜高等学校

大館市内3校を統合し、総合学科の拠点へと進化する。

至誠 創造 錬磨

創立:2016年(平成28年)4月1日
県立3校(旧大館桂高等学校、旧大館工業高等学校、旧大館高等学校)を統合し、開校。
所在地:〒017-0872 秋田県大館市片山町三丁目10番43号
電話:0186-59-6299
E-mail:odatekeio-h@akita-pref.ed.jp
HP:http//www.odatekeio-h.akita-pref.ed.jp/
生徒数 752名 普通科(8クラス)、生活科学科(3クラス)、機械科(3クラス)、電気科(3クラス)、土木・建築科(3クラス) 教職員数 81名

大館市は秋田県北部に位置する城下町。人口7.8万人。校名の「桂」は城が「桂城」と呼ばれていたこと、「桜」は鉱山の町として栄えた「花岡」に由来。

教育目標

生徒一人一人の能力を最大限に伸ばし、地域社会を愛し、自立してふるさと秋田の発展に貢献できる人間の育成を目指す。

  1. 学校での教育活動と地域社会での体験を通して、一人一人の社会的・職業的自立に向け、確かな学力と必要な基盤となる能力と態度を育てる。
  2. 地域の環境、文化、福祉などの学習を通して、科学技術の進展と生活様式の進化に対応する技術を身に付け、文化の継承と生活改善の両面から地域社会の発展に貢献する能力と態度を育てる。
  3. ものづくりなどの体験学習を通して、豊かな創造性を育み、社会や産業の変化にも主体的かつ柔軟に対応する資質を身に付け、地域社会の発展に積極的に貢献する能力と態度を育てる。

学校長へのインタビュー

取材に対応いただいた校長
成田 榮樹 様
同 教頭 片岡 俊仁 様
同 教頭 一関 智子 様

校舎が完成し、新設・大館桂桜高等学校が4月からスタートしました。学校の教育方針や図書館への期待などをお聞かせください。

【校 長】

読書をする大切さをさまざまな機会を捉えて生徒に伝えています。これからの社会では新しい発想やクリエイティブな活動が求められます。言語などによって脳を刺激することは科学的にも明かされていることですが、言語の脳を鍛えるために役立つ場所は図書館です。当校は幅広い学科(*1)があります。教育活動のベースに「キャリア教育」を据えていますが、図書館はすべての学科に通じ、教育活動を進める大切な役割を担っています。このため、大館国際情報学院(*2)から有能な学校司書である平川さんを迎え、指導者としての力に期待し、学校も図書館を支援しているところです。

(*1):学科は普通科、生活科学科、機械科、電気科、土木・建築科の5科。普通科と生活科学科の1年次は同じ科目を学習。
     2年次に進学や資格取得を目指す普通科(文理・ビジネスコース)と衣・食・福祉のスペシャリストを育成する生活科学科(生活実践・福祉コース)を選択する。
(*2):大館国際情報学院は秋田県立大館国際情報学院中学校・高等学校のことであり、公立・中高一貫校。

大館桂桜高等学校は学科の幅が広く、大変な面もあるのではないでしょうか。

【一 関】

専門的な学科(工業科や生活科学科)は課題研究やその事前調査で専門書が必要であり、図書館を有効に活用しています。インターネットでも学習のための調査が可能な部分はありますが、やはり活字で記した本を読み解くことが大切です。普通科の進学先に看護系もあり、幅広いバリエーションの本が必要であるため、専門分野の本は多くの種類を購入しています。また、県立図書館のセット本は有効に利用しています。県立図書館の館長からも利用促進の説明を受けています。先日、生活科学科の保育の授業に大型絵本を借受け、使用しました。(県立図書館では高校生向けに絵本パックや大型絵本も用意している。)

統合時に旧大館桂高校と旧大館工業高校から本を移管しました。学習セット資料、文学全集など、蔵書にそれぞれ図書館の特色がありました。同じ本が多くなることもありましたが、さまざまな本が揃ったことで、各分野の本が補完されることにもなりました。また、統合前の3校では、図書館が必要な時に開館される運用で、学校司書はおりませんでした。2016年度からは専任の学校司書がおりますので、確実に環境整備が進んでいます。

【片 岡】

長らく、普通高校に勤務してきたためか、本校の生徒に驚き、新鮮さを感じます。普通科と専門学科がお互いを良く知る、職業に必要な多くの資格に挑戦する、さまざまな職業を学ぶなど、一つの実社会を見ているようです。また、先生方も穏やかな人が多く、協力的です。
普通高校にのみ勤務していたら、わからなかったことがたくさんあると思います。(笑)

大館は地域のつながりとしての図書館利用が盛んですね。

【一 関】

かなり以前から大館市立中央図書館を会場として、市内各高等学校の図書委員が一緒になって子ども向けに絵本等の読み聞かせ活動を行っており、本校からも参加しています。今年からビブリオバトルも始めました。地域とのつながりを持つことは大変良いことです。将来的には地域にも学校図書館を開放していければと思っています。

図書館の特徴

図書基本情報

※取材時点では他の記事で掲載している統計等の基本情報はありません.
(平成28年4月に開校.取材日平成28年12月15日)

学校図書館を支える人・資料・環境

対応頂いた学校司書の平川さん

図書館整備と活動経過

  1. 近年の新設校舎は図書館を最も利用しやすい場所に配置する設計となっているが、当校でも図書館は正面玄関の左側に配置され、校舎の中心的な位置取りとなっている。館内には木材が多く利用されたやわらかいデザイン。書庫や司書室なども用意されている。
  2. 開校は平成28年4月であるが、図書館の整備は今も続いている。歴史があり、幅広い学科のある高校の統合であるため、全集や寄贈本、古い専門書などが多い。
    ・開校時・・・旧大館桂高校から本を移管した。コンテナおよそ200箱。データ化が済んでいたため、図書委員の協力でおおよそ1週間で排架が完了した。
    ・4月15日・・・個人カードを作成し、貸出がスタート。しかし、旧大館工業高校からは本が届かず、蔵書不足の状態。県立図書館に依頼し、大量のセット貸出図書を借受ける。
    ・5月中旬・・・旧大館工業高校よりコンテナおおよそ120箱。データ整備やラベル貼りかえ、排架をすすめる。(継続)
  3. 本格的な図書館活動を開始
    ・ビブリオバトル第一回(7月1日)、第二回(9月28日)、大館大会(10月15日)
    全県大会(11月3日)(準チャンピオン)
    ・県立図書館主催の研修会参加(8月2日)・・県内各校とも交流。
    ・読み聞かせボランティア(8月4日)・・市立図書館で市内3校と共同開催。
    ・合同読書会(9月12日)・・市内3校合同。
    ・桂桜祭 図書企画(10月30日)・・古本市、POPコンクール、絵本の特集展示など。
    ・高校生の読み聞かせ会(1月6日)

今後もさまざまな活動が予定されている。

学校司書

  1. 図書館は図書視聴覚部に所属。図書館を担当する教職員は8名。専任職員は学校司書の平川さん。前年末までは大館市内にある秋田県立大館国際情報学院中学校・高等学校に勤務していたベテラン司書である。市内には新人の学校司書もいるため、様々なアドバイスを行っているとのことであった。
  2. 図書館整備は実質的にゼロからスタートしたが、これまでの環境整備や図書館活動の状況をみると、平川さんの大きな役割が感じ取れる。統合前の高校はいずれも、学校司書はおらず、図書館も常時開館ではなかったとのこと。また、新設校であるため生徒や先生方とのつながりを一から作り上げなければならない。その過程や努力の成果が、図書館だよりや図書館紹介の写真(この記事の巻末)を見ると、一目瞭然である。
    図書館内には県立図書館から提供された、高校生向けのセット貸出図書が多数展示されており、制度をうまく活用している様子が見受けられた。

図書館だより

参考

図書館だよりPDF!!

「図書館だより」は2016年5月19日にNo1を発行、2016年12月までにNo13を数える。月2回程度のペースである。学校司書の平川先生や図書視聴覚部担当の教職員が中心となって発行しているが、記事内容が充実している。図書館の整備進捗状況、おすすめ本、ビブリオバトルへのお誘い、県立図書館からのセット貸出図書情報、図書館利用統計、桂桜祭(文化祭)など。まさに有益な最新情報をタイムリーに発信している。図書館の大切な役割の一つ「情報発信」が文字通り行われている。図書館の成長を進める関係者の思いが伝わってくる。

地域との交流

大館地域は、以前から市立中央図書館と市内の高校が共同で図書館活動を行ってきている。(秋田県は県の所管である高校と市町村図書館の交流が盛んである。)「高校生の読み聞かせ会」は平成23年度から市立中央図書館を会場に開催しており、今年で6回目。市内3高校の図書委員有志が学校司書からの指導を受け、読み聞かせの技法を学びながら、多くの幼児たちを楽しませている。今年度は大館鳳鳴、大館国際情報学院、大館桂桜の3校から生徒10名が参加し保育園児ら約150人と交流した。また、ビブリオバトルも盛んで、大館桂桜高校では学内のビブリオバトルを勝ち抜くと、大館の地域大会(会場は市立中央図書館)、県大会と進み、全国大会へと進む仕組みになっている。今年度は大館大会で桂桜生がチャンプ、準チャンプとなり県大会に出場。県大会でも準チャンプとなり、惜しくも全国大会出場は逃したが、素晴らしい成果をあげた。

高校生、一般を対象とした読書感想コンクールも市立中央図書館を会場として開催。平成28年度で第47回を迎えた。大館桂桜高校は優秀作1編と佳作2編を受賞。このように、大館市では高等学校と市立中央図書館が一緒になって地域の住民や先生、生徒たちの交流を進めている。

書庫

図書館にはスライド式の書棚が併設されている。数万冊の収納がされており、全集や古い技術本も数多く見受けられる。これを整理して排架するのは、大変な作業である。
学校図書館の場合は一般的にスペースも有限であり、古い本が多いと長期的にみると利用率の向上も難しくなる。そのためその各学校の状況に合わせた除籍規準なども検討し、定期的に資料を廃棄していくことも課題のひとつであると思われる。

図書館からのおすすめ本

No 図書名 著作者 レコメンド 主な対象学年
1医療・福祉の仕事
見る知るシリーズ
保育社発行看護師、介護福祉士、保育士など医療・福祉の分野で活躍する人の一日を写真で紹介し、その情報を伝えている。1~3年生
2ようこそドボク学科へ
ようこそ建築学科へ
佐々木集 他土木建築科の入門書。学び方から就活までわかりやすく解説。工業科1年生
3渋谷ギャル店員
ひとりではじめたアフリカボランティア
栗山さやか貧困で苦しむ世界の現状を知り、「ボランティアって何?」を考えさせる本。1~3年生
4秋田郷味風土記秋田農村漁村生活研
究会グループ協議会
県内各地の伝統料理を紹介する。秋田の食と農を知ることができる。生活科学科
1~3年生
5数学ガール結城浩3人の高校生が数学に挑戦する、数学と恋愛を融合した青春小説。数学が苦手な人にも・・1~3年生
6守り人シリーズ上橋菜穂子異世界ファンタジーの傑作。1~3年生

◇良く読まれている本

No 図書名 著作者 レコメンド
1アリス殺し小林泰三第一回校内ビブリオバトルのチャンプ本。最後まで結末が読めないミステリー小説。
2神去なあなあ日常三浦しをん校内ビブリオバトルで紹介された本。林業を全く知らない人も楽しく読めるお仕事小説。
3少女は卒業しない朝井リョウ廃校が決まった高校で最後の卒業式を迎える少女たちの恋、友情、成長を描く。

図書館のシーンあれこれ

カウンターのまわりに、今日返却された本、先生のお勧め本、ビブリオバトルのチャンプ本などを置き、手に取りやすいように工夫。創立100周年を記念して建てられた「鳳鳴記念館」。
図書館は一階にある
進路コーナー書架の隣に、先生たちの勧める「進路に向けて読んで欲しい本」をコメントとともに並べる。
県立図書館のセット貸出図書を利用した展示コーナー。
人気の映像化作品は、チラシと一緒に並べてアピール。
ほぼ全冊揃っている岩波ジュニア新書。「新書はちょっと難しい」という生徒にも入門書として最適。
桂桜祭で行った絵本の特集を継続。生徒がたくさん手に取り、家庭科の保育の授業でも活用された。
幅広いラインナップの雑誌コーナー。
新聞のコーナーには、校長先生が毎日まとめてくださる各新聞のコラム集も置いてある。
生徒たちが作成したPOPを図書館前に掲示。自分の好きな本の魅力を絵やキャッチコピーで伝えている。

取材後記

校長先生の名刺には、「至誠」「創造」「錬磨」の3つの言葉が印刷されている。いずれも歴史ある旧3校からの教え。旧大館桂高校からは誠実のあることの大切さ、「至誠」、旧大館工業高校からはものづくりにかけ、己を磨く、「錬磨」。そしていかなる時にでも「創造」することの姿勢。新しい校訓、校章に引き継がれている。

インタビューの際、校長先生から新聞の切り抜き資料を頂いた。全国紙、地方紙(東北主要紙)、郷土紙などの社説が多く載っている。日常の生活では社説を並べて読むことはないが、比較してみると実に興味深い。中央と地方の目線の違い、新聞社の編集方針の違いなど。この資料1枚で、数十冊の本に触れたような思いになる。

関連リンク