村上恭子氏
「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」7年目の運営から
東京学芸大学附属世田谷中学校司書・学校図書館問題研究会会員。
今回は、「学校図書館活用データベース」について、更に図書館を活用するということについて、詳しくお話しいただきます。
村上 恭子 氏(むらかみきょうこ)
茨城県生まれ。1979年より、東京学芸大学附属世田谷中学校司書として勤務。
学校図書館問題研究会会員。2009年より東京学芸大学学校図書館運営専門委員会として立ち上げた「先生のための授業に役立つ学校図書館活用データベース」の運営に関わる。
また、2010年より、東京学芸大学公開講座「学校司書入門講座・応用講座」を大学教員、附属学校司書と共に運営。共著に『先生と司書が選んだ調べるための本』(少年写真新聞社 2008年)、『鍛えよう!読むチカラ』(明治書院 2012年)、単著に『学校図書館に司書がいたら;中学生の豊かな学びを支えるために』(少年写真新聞社 2014年)などがある。
私たちが勤務の傍ら、このデータベースを継続できたのは、自分の学校での授業実践を蓄積することで、学校図書館を活用する授業を振り返り、授業者である先生だけでなく、司書同士で共有することに意味を見いだせたからです。
さらに私たちは、蓄積された事例から、図書館を活用するとは、具体的にどのようなことなのかを分析しました。その結果、図書館を活用するとは、次の三つの要素に大別されるのではと考えました。
その1. 図書館の資料を活用する。
もっとも基本的な活用が、資料活用です。授業の目的に沿った多様な資料(含むデジタル情報)を用意することで、児童・生徒は自ら読みたいと思う資料に出会えます。調べる課題においても、用意する資料は、視点が多様で、難易度も違うため、児童・生徒の理解度や興味・関心にあった本を手渡すことができます。また、事例の中には、複数の本ではなく、教員のねらいにぴったりの1冊を提供し、そこから授業が広がっていった実践もあります。これは、授業者の意図を理解した司書による資料支援と言えます。
いずれにしても、課題の発見や解決の場で、図書館の資料を役立て、生徒の主体的な学びを引き出すことが可能となったことが、教員の授業感想からも読み取れます。そして、不足の知識を資料によって補うことで、深い学びに繋がっていくのは、本の力によるものと言えます。
その2. 図書館という場を活用する。
図書館が資料提供することで完結する授業は、教室でも行えます。事例には、あえて図書館で授業した実践が数多くあります。たとえば読書にふさわしい場として、現代のエッセイを読んだり、英語の多読授業を図書館で行うなどです。英語であれ日本語であれ、読書する環境は図書館には整えられています。その後の児童生徒の利用にもつながります。また、課題解決型の授業の場合、あらかじめ準備した資料を別置したとしても、図書館での授業であれば、教員や司書が想定していなかった資料に目を向ける可能性があります。自分のテーマを絞る、あるいは必要な資料を自力で探すことができるようになるのは、このように学校図書館の中で授業が行われる利点と言えます。学びの場として学校図書館がこれからもっと注目されるのではないでしょうか。
その3. 児童・生徒へ直接的に司書の専門性を活用する。
もっとも多い事例が、司書の専門性を活かした直接的支援です。本の楽しさを伝える、あるいは課題への興味関心を引き出す目的で、授業での「読み聞かせ」や「おはなし」、「ブックトーク」の実践。調べ学習や探究学習において、情報の扱い方に関する指導や助言。授業内外でのレファレンスなどがこれにあたります。このような支援を可能とするためにも、学校司書は、その専門性を高めることが求められているといえます。
この3つの活用のしかたは、単独の場合もあれば複合的な場合もあります。いずれの事例でも特徴的なことは、授業をする教員と、支援する司書・司書教諭との事前の打ち合わせがしっかりとできていることです。それによって、児童・生徒へのレファレンスが可能となります。さらに、事後の授業感想を共有していることの意味も大きいと感じます。
私たち学校図書館で勤務する司書は、その学校に適した蔵書をつくり、様々な機会をとらえて本の楽しさを伝えようと日々工夫を凝らしています。しかし、子どもたちが自ら読みたいと思う本はまだまだ限りがあります。そのため、授業のなかで、本を読む機会を持つこと自体に価値があります。必要に迫られた読書であっても、意識していなかった自分の興味関心に気づき、読書の幅をひろげ、読むチカラを育てることにつながることが少なくありません。教員の工夫を凝らした授業は、課題解決のために必要な知識やスキルを得るだけでなく、最終的には情報活用能力を育てることになります。そのためにも先生方とのコミュニケーションは欠かせません。
こうして、事例や記事が、蓄積されたことで、このサイトが、学校図書館の働きを可視化することができたというのが、大きな収穫でした。全国に配置されている学校司書は雇用条件も勤務体系も研修のありかたも実に様々です。そんななかで、ネット上にあり誰でもアクセスできるこのサイトが、先生のため…と銘打ってはいますが、実はよりよい支援を子どもたちや先生にしたいと思っている司書たちの役に立っているということは、とても嬉しいことです。そして、先生と一緒に組んでこんな授業ができました!という実践を少しずついただけるようになったことが、私たちに継続する意欲を持たせてくれます。
学校司書の法制化により、授業支援まで視野に入れた働き方が求められているにもかかわらず、まだまだ静かな読書の場というイメージを持たれがちです。私たちは、未来を生き抜く子どもたちにとって、図書館が強い味方であるためにも、その使い方を学校にいる間にぜひ獲得し、公共図書館やインターネット上の情報を使いこなせる人、そしていろいろな時に本を頼もしい味方にできる人になってほしいと願っています。
(関連サイト)学校図書館活用データベース