松矢美子氏

感慨無量ナリ ~図書館に引き継がれるもの~

松矢美子様

松矢 美子氏(まつや よしこ)

昭和61年4月から令和6年3月まで、
長岡市立互尊文庫、中央図書館等に勤務
日本図書館協会認定司書第2076号

【執筆】
「うちの図書館お宝紹介 第216回 反町茂雄文庫」
(図書館雑誌 2021年11月号)
【事例発表】
2019年6月 新潟県公共図書館児童部門研究集会
「長岡市立中央図書館のYAサービスについて」
【講師経験】
2022年6月22日  長岡三島郡学校図書館協議会講演
「子どもたちに本を届けるために」
2022年10月11日 長岡まちなかキャンパス
「本と図書館のホントのかしこい使い方」





私の住んでいる長岡市は昭和20年8月1日に空襲を受け市街地の約8割を焼失した。当時の市立図書館互尊文庫も蔵書と建物を失った。蔵書疎開の荷造りを終えたその夜被災し、焼失したのである。焼け野原となった町で、翌日から職員全員が集まり図書館の復興にむけて動き出したという。大八車で近隣を回り本の寄付を呼び掛け、机や椅子を集めた。そして1か月を経て9月11日に、外郭が残った第二書庫を使って仮開館したのである。戦災の様子や開館までの経緯は、職員日誌や資料に残されている。市民に親しまれてきた互尊文庫を失ったことについて「全部焼失シテ一物モ残サズ遺憾慙愧ニ耐エザル次第ナリ」と記されている。

互尊文庫日誌は昭和20年9月1日土曜日から始まっている。その日の来訪者、出来事等の記録が簡潔に記載されている。

9月1日 土曜
鋸・ナタ・マサカリ等買入、三条市立図書館ヨリ寄贈書籍受領ノ為三条市ヘ
戦災後一ヶ月ヲ経過ス、感慨無量ナリ

9月6日には長岡国民学校より机と椅子を借用、搬入されたとある。7日には地元紙新潟日報に広告を依頼し9月11日に「復興開館謹告」が掲載、「不完全ナガラ茲ニ復興第一声ヲ力強ク上ゲ市民ノ慰安ト修養ニ資シ度ク」とある。苦境の中で模索した当時の職員の気概が感じられる。

長岡市立中央図書館の書庫には「昭和20年9月15日三條市図書館氏寄贈」と記された本が保管されている。書庫でたまたまこの本を見つけ、戦災復興の歴史を伝える資料を手に、当時にタイムスリップしたような気持ちになった。

2016年の中越地震では、長岡市立中央図書館は臨時休館し避難所となった。自宅に戻れるのか、図書館は開館できるのか、先の見えない状況の中で、ある職員がこう言った。「空襲のあとの職員も、こんな気持ちだったかな」

そして私たち職員は当時の職員に負けないよう、避難所業務にあたりながら、避難所でのおはなし会、関連資料の寄贈依頼等、図書館再開に向けた企画を始めた。

昭和20年の日誌が、時を経て、窮地の図書館職員を奮い立たせてくれたのであった。これからも、住民のためにという図書館の理念は代々引き継がれていくことだろう。

(参考資料)
・「歴史的公文書は語る(1)互尊文庫の戦災復興 」桜井奈穂子
  長岡あーかいぶす第6号 平成20年 長岡市立中央図書館文書資料室発行
  https://www.lib.city.nagaoka.niigata.jp/?page_id=224
・「互尊文庫日誌」昭和20年~
  長岡市立歴史文書館所蔵
・『大正記念長岡市立互尊文庫 市立図書館の開館と戦災復興』
  平成30年 長岡市立中央図書館文書資料室発行
・「大正記念長岡市立互尊文庫一覧 復興開館一周年」昭和21年 互尊文庫発行
  国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1122681/1/2