仲尾涼子氏

「これまでの図書館サービスが及ばなかった人々」を支援する 沖縄県立図書館の「空とぶ図書館」

沖縄県立図書館 仲尾様

仲尾 涼子氏(なかお りょうこ)

沖縄県庁(2010年4月~2014年3月)
沖縄県教育委員会(2014年~現在)

1981年 福岡県飯塚市出身。2010年 沖縄県庁に採用され、沖縄県南部福祉保健所(現 沖縄県南部福祉事務所)へ配属。2014年に教育庁に異動し、沖縄県立図書館へ配属となる。
配属3年目の2016年に司書資格を取得。カウンター業務、レファレンス、障害者サービス、イベント、広報、離島読書に関する予算管理業務、市町村支援などの図書館業務を担当。2017年頃より、図書館業務のSNS発信を担い、フォロワー数を県立図書館では全国1位にまで伸ばす。令和4年度より毎年、文部科学省主催新任図書館長研修でTwitter運営について事例を発表している。

1. はじめに

私が住んでいる沖縄県は、東西約1,000キロメートル、南北約400キロメートルに及ぶ海域に、38の有人離島が点在する広大な海洋島しょ圏で、その海域の範囲は本州の3分の2に匹敵するほど広大です。そのため、行政組織自体が離島にある町村もあり、他県とは異なる特殊な環境が課題となり、図書館未設置町村が多数存在しています。沖縄県立図書館は、県内のどこにいても「知る自由」を保障するために、図書館未設置町村離島を巡回する移動図書館(以下「空とぶ図書館」という)を運営しています。

2. 『空とぶ図書館』の対象エリア(2024年時点)

本島北部の伊平屋島、伊是名島、伊江島、国頭村、東村、大宜味村。本島周辺にある離島、渡嘉敷島、座間味島、阿嘉島、粟国島、渡名喜島、南大東島、北大東島が含まれます。さらに、八重山地域には竹富島、小浜島、黒島、波照間島、西表島東部、西表西部、船浮、鳩間島、与那国島があります。令和6年度には、これらの地域で開催希望のあった21か所での開催が予定されています。私は、県立図書館在籍11年目で、船浮以外全ての会場を回ることができ、沖縄県の広さ、離島ならではの苦労を少しですが実感することができました。

3. 空とぶ図書館

空とぶ図書館は、県立図書館の職員が図書館未設置離島に1泊2日で出張し、公民館などの会場を借りて、簡易図書館を開設する取り組みです。移動図書館と言えば、BM車で巡回するイメージですが、離島へ行くことが多い沖縄県立図書館の場合は、本や文房具などの事務用品を先に開催地へ郵送し、当日職員が飛行機等で現地に向かう方法をとっています。そのため、「空とぶ図書館」という愛称をつけて運営をしています。

この取り組みの主な目的は、図書館のない島の人たちに、沢山の本から読みたい本を選んでもらう体験をしてもらう事や、思ってもみなかった本との出会いを提供すること、それと、図書館の存在を知らない島の人々に「図書館」を知ってもらい、図書館設置の機運醸成のために行っています。公立図書館が無い島の子どもたちは、公立図書館という施設を生まれて一度も体験しないまま、15歳の春(島に高校がないため島を出て、沖縄本島や石垣島、宮古島などで下宿し通学すること)を迎えるため公立図書館のルールとマナーなどを練習してもらうことも必要になってきます。

4.空とぶ図書館運営のながれ

空とぶ図書館の運営のながれをご紹介します。

①県立図書館による開催希望日調査(前年度末)
次年度の開催日希望調査を図書館未設置町村に対して行います。離島では行事やイベントが多く、離島町村職員のイベント参加も多いため、日程が重ならないように調整します。空とぶ図書館に行ったのに、中学生が部活遠征で島から出てしまっていた。など、アクシデントもたまにあり、島との連携の難しさを感じます。

②開催町村からのリクエスト受付(開催日2週間前まで)
県立図書館が開催町村から「持ってきてほしい本」のリクエストを受け付けます。貸出中で持っていけない場合は、司書の判断で似たような本を「代替本」として持っていきます。読みたい本が無かった場合でも、読書意欲が落ちないように工夫しています。

③本の発送
持っていく本は、時勢や島ごとの特徴・課題に応じて、県立図書館の司書が選書します。過去に訪れた職員が雑談などで島の「困りごと」を聞き取った情報や前回の開催アンケートなどを選書の参考にします。島の居酒屋さんから「魚の盛り付け、デザイン」の本を依頼されたり、台風で壊れた住居の修理のために「DIY」の本を希望される方もいました。島に持ち込む本の数は、島民の人数にもよりますが、600冊から2,000冊になることもあります。

④会場設営、開館
1日目:県立図書館の職員と開催地町村の教育委員会担当職員は、現地で合流し、会場の設営を行います。移動や昼食の時間があるため、1日目は通常、午後2時ごろから開館します。閉館時間は午後7時ごろです。 売店でお弁当を買うことがほとんどですが、運がよければ島の食堂で昼食がとれます。久米島で食べた「車えびそば」はコクがありとても美味しかったです。みなさんも久米島に行かれる際はぜひご堪能ください。

空とぶ図書館では、よみきかせやワークショップを同時に開催することもあり、連動した展示も行われ、イベントに参加した利用者が関連図書を借りて帰ることがあります。近年では、「沖縄美ら海水族館」や「沖縄こどもの国」などの関係機関と連携したワークショップも好評です。

2日目:9時にオープンします。1日目に人気の本はほとんど借りられてしまい、冊数が減りますが、早い者勝ちであることをご理解いただいています。1日目に借りた本をすべて読み、2日目に返却して新しい本を借りる方もいます。閉館後、貸し出されなかった本は島の読書拠点施設(教育委員会や学校図書館)や地域文庫、保育園などで一括貸出(団体貸出)を行うこともあります。

5. 利用者の様子

空とぶ図書館利用者アンケートを行っており、「移動図書館の満足度は98%」と好評です。一括貸出(団体貸出)を活用している小中学校や地域文庫なども継続して利用しています。また、1日目の開館前から会場に来館してくださる島のリピーターの方も数多く存在し、スーツケースを持って家族で40冊も借りてくださる方もいらっしゃいます。

6.今後の課題と目標

沖縄県は国境に近接している離島もあることから、正しい情報の探し方や見極め方など、ネットリテラシーの向上が特に重要だと感じています。図書館を知らない島の人々に公立図書館をPRし続ける「空とぶ図書館」の活動は今後も要チェックです!