新潟県 新潟市立万代高等学校

「国際化」「情報化社会」を切り開く人材を新潟から!図書館はキャリア教育の情報拠点。

(2017年7月5日 取材)

志を高く掲げ 新たな世界へ

沿革:1921年6月1日(創立)新潟市実科高等女学校として創立
新潟市立高等女学校へ改称(1925年4月1日)を経て、新潟市立沼垂(ぬったり)高等学校へ。2003年4月1日新潟市立万代高等学校に改称・改組し、現在地へ移転。

所在地:〒950-8666 新潟県新潟市中央区沼垂東6丁目8番1号
TEL:025-241-0193
FAX:025-241-0197
E-mail:h301bandai06a@city-niigata.ed.jp
HP:http://www.bandai-h.city-niigata.ed.jp/
生徒数 722名 英語理数科(3クラス)普通科(15クラス) 教職員数 66名
英語理数科は1年次から英語コースと理数コースに分かれ、少人数で教育。普通コースには選択科目制(3年次)が導入されており、個性を大切にしながら、生徒の進路実現を目指し取り組んでいる。

教育理念

  • 国際化及び情報化社会の進展を踏まえ、環日本海中枢拠点都市はもとより、日本と世界の新しい時代を切り開く有為な人材の育成を図る。
  • 生徒の個性、能力及び進路の多様化に対応した高等教育をめざし、国際理解教育及び情報教育を充実することにより、勉学への意欲を喚起し自己実現を達成させる。

教育目標

  1. 確かな学力を身につけ、自ら学び自ら考える能力を育成する。
  2. 社会性に富み、他と協調できる心豊かな人間性を育成する。
  3. 志を高く掲げ、たくましく生き抜く気力・体力を育成する。

学校長へのインタビュー

取材に対応いただいた
校長 渡辺 富男 様

学校の教育方針と図書館の位置づけ、活用についてお聞かせください。

【校 長】

教育理念に基づき、教育目標を3点掲げています。(前掲)
教育目標に沿った学校運営方針ですが、”国際化”と”情報化”にあります。”国際化”では国際理解教育にもつながる英語教育の発展形として、毎年海外で語学研修を(希望のある生徒が対象)実施。昨年はイギリス、今年はフィリピン・セブ島に行きます。”情報化”では、情報機器を活用した分かり易い授業の展開をしています。普通教室、すべてに電子黒板を導入。コンピュータ室、図書館マルチメディアコーナーなどにはパソコンを配置し、活用しています。カリキュラムですが、普通科では生徒の興味、関心で自ら選択できる総合選択制をとっています。英語理数科は2コースで、英語コースは主に文科系国公立大学へ、理数コースは主に理科系国公立大学への進学に向けた学力を養成しています。

校長として今年(2017年)4月に着任しましたが、統一したスローガンとして「志を高く掲げ 新たな世界へ」を掲げました。本校の校歌「旅立ちの時は、今」を作られた新井満先生(新潟市出身)にも通じるものです。学校運営方針は3点、①国際理解教育 ②ICT教育 ③キャリア教育 です。専門高校は実践的なキャリア教育をしていますが、本校ではより具体的なキャリア教育へ取組むことが大切と考えています。生徒一人一人が将来のライフワークを考えて、”なぜ、大学進学をするのか、なぜその大学の学部を選ぶのか、そして将来どのような職業を目指すのか、それは県内か・県外か・海外か”、こだわりを持って、考えてもらいたい。その際、”先人の考え(哲学)を知る、郷土を知る、世界を知る”には、図書館が一番。キャリア教育に一番大切な情報を提供してくれます。生徒が疑問に思ったこと、知りたいこと、その時には図書館を活用するよう指導しています。

さまざまな発表やコミュニケーションを図る場としての”図書館活用”をどのように考えておられますか。

【校 長】

図書館は、多目的な利用ができる学習の場です。総合的な学習や教科等で授業の一環とした図書館の利用があっていい。すでにそのような利用はされていると思います。また、図書館には多様な活用ができるマルチメディアコーナーがあります。生徒や先生方の語らいの場にもなっています。展示コーナーには”進路コーナー”があり、キャリア教育での活用を図っています。自分を知る、職業を知る、その取っ掛かりになると思います。

マルチメディアコーナーのガラス壁面デザイン

美術の授業の一環としてデザインされた。2016.12~2017.1まで展示されたもの。現在(取材時)のものは、後述の”図書館の特徴”欄に掲載。

校長先生から生徒や図書館職員へのメッセージをお願いします

【校 長】

図書館は教育にとって、なくてはならない場所です。生徒の”学び”に情報提供をし、”知りたい”に、その手ほどきをしてくれる図書館のスタッフの皆さんに心から感謝をしています。そして、先生方、事務職員からの要望も受け入れ、反映をしてくれています。図書館だよりも出していますし、生徒にアンケートを実施し、図書を購入しています。図書館の運営管理にとどまらず、生徒との憩いの場、先生のプレゼンの場など、きめ細かに対応して頂いていることに改めて感謝します。

図書館の特徴

図書基本情報

学校図書館を支える人・資料・環境

学校司書
石原久代 様

参考

万代高等学校の 図書館利用案内 図書館だよりはこちらのホームページに掲載されています。

さまざまなニーズに対応した蔵書

学校運営方針(国際化、情報化社会への対応)に沿った、蔵書が豊富。英語理数科の専門性や普通科の総合選択制、10代の興味・関心ごとなど、生徒の幅広いニーズに対応した蔵書をコンパクトに取り揃えている。大型の美術全集、学習マンガ、教材CD、新書、哲学・歴史書、洋書などを分かり易く配架。先生方の調査・研究にも活用される。さながら、優れた(生涯教育も目的とする)”コンパクト市立図書館”のよう。「図書館報に各教科の先生方から『万代高校の生徒にすすめたい本』として推薦本を書いていただくことで生徒に役立つ本が選書でき、生徒も関心を持ってくれます。」と石原さん。多くの知恵が詰まった蔵書である。

大型美術本の書架。ほとんどが前身である沼垂高校から引き継いだ「財産」です。
参考図書の書架。昨年、「窓際が寂しいので植物を置いたらどうでしょう。」という図書委員の提案があり、植物を並べました。植木鉢には図書委員のお手製ラベル。植物名、名前の由来、花言葉などの植物情報が書いてあります。
期間限定展示コーナー。現在のテーマは「学習マンガ」。先生方が「生徒に読ませたい」と推薦する学習マンガを展示しています。
マルチメディアコーナーのCD・DVDの棚。1日体験入学の中学生が、毎年、歓声をあげる場所。
図書館入り口すぐの書架4連が進路コーナー。職業と進学に分け、本の内容がすぐにわかるような書架見出しを作って並べています。進路指導室がすぐ隣なので、進路に関する資料や情報をもらったり、相談にのってもらったりしています。
岩波新書コーナー。定期的に面出しの本を変えています。

進路コーナーなどのテーマ展示

図書館運営の中でもっとも重要なポイントである「テーマ展示」。2016年度版を閲覧すると、実に多彩なテーマがある。月替わりの企画展示、常設展示など2016年は26テーマ。関係者の主体的なアイデアを下に運営される。大学を知る手助けとして、大学ごとに著名な先生が書いた本を紹介するコーナーはユニークな発想。校歌を作詞・作曲した新井満氏(新潟市出身)の常設コーナーもある。

「大学名すらよく知らない生徒がいる…」という先生のつぶやきを聞いての企画展示。入試でよく取り上げられる本などから「著者が大学の先生」の本を選び出し、「大学名+書誌事項」のリストを作成して展示しました。
小論文対策本の展示架。現在は「第一小論Net」「学研模試」「ベネッセ・マナビジョン」の3つの小論文対策リストの中で、2つ以上のリストで重なって紹介されている18冊を展示しています。
校歌の作詞・作曲者である新井満さんは、開校時に34点の著作を寄贈してくださり、それ以降も新刊が出ると寄贈してくださっています。校歌のCD(新井満さんのソロ、女性とのデユエット、カラオケなどが入っている)もあります。
「英語力をつけるには多読。本を揃えてもらえませんか。」という英語科の先生の声がきっかけで作った洋書コーナー。多読用テキストはもちろん、マンガ、絵本、小説、雑誌(市立図書館の除籍配布)などが並びます。

英語教育

英語で書かれた、体育祭での各連合に向けたスローガン、新潟市の観光案内など英語教 育の成果が多く掲示されている。新潟市は日本海を挟んで大陸との交流も盛ん。語学教育重視は必然的。感心したのは、多読図書レベル設定。多読用テキストの語彙数と外部検定(英検やTOEIC)を対応させた7段階の表で、英語の先生が作成して掲示したとのこと。段階別に色を変えたシールを本の背表紙に貼り、色別に配架することで、自分のレベルに合わせたテキストが選びやすくなる工夫をしている。学習状況を記録する”ロードマップすごろく”もいい。(読書マラソンを連想する。)また、英語の絵本を読み、感想をビジュアル表現する取組も行ったことがある。

新潟市立万代高等学校 石原久代様
万代高校の体育祭は6連合(赤・黄・橙・緑・青・紫)に分かれて競います。ESS部が各連合への応援メッセージを考えてくれました。各連合の決意ポスターと一緒にマルチメディアコーナーのガラス壁面に掲示しました。
新潟市立万代高等学校 英語の読書ボード作品
英語の読書ボード作品。有志の先生方と「どくしょ甲子園」をやってみました。その後、メンバーだった英語科の先生が、英語の絵本を読み、伝えたいメッセージを考え、ビジュアル化するという授業を行った時のものです。
新潟市立万代高等学校 図書館前廊下の掲示板
図書館前廊下の掲示板は、要望があれば先生方にも使っていただいています。今月は、自分の町の観光パンフレットをSimple Englishで作成するという、3年英語コース「時事英語」の課題作品を展示しています。

マルチメディアコーナー

図書館入口、右側はマルチメディアコーナーとなっている。インターネットのパソコンなどがあるが、実際は、生徒たちのよき”たまり場”。やはり、生徒たちが自然と集まってコミュニケーションする場があることは大切。それが図書館であればもっとも望ましい姿。廊下を隔てるガラスの壁面にデザインされた作品がすばらしい。年一回、3年生美術の授業としての制作があり、それ以外は図書委員会の制作とのこと。時節ごとに作品は変わり、季節が移る。

新潟市立万代高等学校 図書館前廊下から見たマルチメディアコーナー

図書館前廊下から見たマルチメディアコーナーです。下側は新刊展示コーナー。壁面に沿って、表紙を廊下側に向けた形で毎週新刊を展示し、図書館を利用しない人たちにも新刊情報が伝わるようにしています。

情報の発信(図書館だより、図書館報)

毎月、図書館だよりが発行され、年度末には、図書館報が発行されている。図書館だよりには、図書館からのお知らせ、新着本の案内、先生方の寄稿文などを掲載。図書館報は図書館委員会が編集して図書館が発行。年間のベストリーダなどの統計的な情報や各教科数冊、先生方が選定し推薦文を書いた「万代高校の生徒に読んでほしい本」といった本の情報もある。

市立図書館との連携

新潟市では、市内の高等学校(県立、私立問わず。)全校に貸出サービスを行っている。専門図書、レアな図書などは市立図書館から貸出され、幅広いニーズに応えている。商用データベース検索パソコンはないが、市立図書館では10社ほどのデータベース検索ができるので、その活用を期待したい。

「小中学校でいい図書館体験をしてきたのだろうと感じることが多い。」と石原さん。小中学校での司書経験を持つ石原さんは、「図書館は楽しくて安らいで役に立つ場所という信頼感は小中学校で培われてきているので、高校では、図書館をもっと使いこなしてもらいたい。生徒には、学校図書館は図書館ネットワークの入口なんだから、何でも相談してと伝えています。」とのこと。年代を俯瞰して見れる新潟市の学校図書館は子どもたちの成長と共にある。

各教科からのおすすめ本

No 図書名 著作者 レコメンド 推薦してくれた教科
1若き数学者のアメリカ藤原正彦絶好の異文化理解ガイド英語科
2夏目漱石「こころ」を読みなおす水川隆夫「こころ」が面白かった人はもちろん、文学研究ってどんなことをするの?という人にもおすすめ国語科
3歴史の愉しみ方 忍者・合戦・幕末史に学ぶ磯田道史「日本史B」を学ぶ上では何の役にも立たない情報満載 普段の授業がもっともっと面白くなる地歴・公民科
4元素生活寄藤文平授業とは違う元素に出会える!理科
5面白くて眠れなくなる数学桜井進「数学はどこで役立っているのか」がわかる 文系のひとにもおすすめ数学科

取材後記

正門の近くに、海抜1mの標柱が立っている。あの日(3月11日)の震災以降、海抜標記が多く見かけるようになったが、筆者は50年前の新潟地震を思いだした。丁度、小学校の遠足の日で、新潟から遠い地(北東へ200㎞)ではあったが、強い揺れで地面に伏したことを鮮明に覚えている。液状化現象で倒壊したアパート、燃える石油タンクなどテレビ画面から流れる映像は忘れられない。万代高等学校の校舎は災害経験を生かした建物で、普段から防災教育、防災訓練にも取り組まれていることと思う。あの日から、防災教育の拠点とした学校図書館の活用が随分増えたように感じる。

万代高等学校の生徒は恵まれていると思う。幅広い分野の貴重な蔵書類は優れた市立図書館並み。自由な活動ができる図書館の環境と雰囲気。いつも支えてくれる教員や学校司書、市立図書館の職員など。敢えて、「皆さんは恵まれた環境にいる。」と伝えたい。

(菅原)