石川県 白山市立松任図書館・学校図書館支援センター

子供たちや市民に親しまれる図書館を目指す松任図書館! その為の工夫に迫る。

(2018年1月25日取材)

白山市では「白山市図書館を使った調べ学習コンクール」に力を入れており、様々な努力によって、開催当初に100点弱であった応募数は、今や2000点を超えている。

職員の方々へのインタビューを行うことで、調べ学習だけではなく、様々な仕掛けを通じて松任図書館をもっと知ってもらい、さらに図書館を使ってもらおうと努力されている姿勢を垣間見ることができた。

インタビュー

白山市立松任図書館・学校図書館支援センター インタビューを受けてくれた方々
(左から)図書サービス課長:大宮 英幸様 主査(司書):窪田 和恵様 館長兼総務課長(2018年1月25日時点):
中村 久昭様 支援センター専任司書:大橋 留美子様 支援センター専任司書:森本 直子様

学校図書館支援センター設置、市内小・中学校に学校司書を配置

松任図書館内には学校図書館支援センターが開設されており、また市内の小・中学校には学校司書が全校配置されているとお聞きしました。まず、その点についてお聞かせください。

「白山市の基本方針・松任図書館の施策について」で、学校図書館支援センター導入の目的に言及していますが、2007年に松任図書館内に学校図書館支援センターを設置しました。
また、市内小・中学校28校に専任で学校司書を配置しています。1997年、旧松任市(現白山市)の小中学校に、専任の学校司書が配置されるようになりました。その動きが近隣町村に広がり、2005年2月白山市誕生とともに、市内小・中学校への学校司書配置を達成しました。

白山市立松任図書館・学校図書館支援センター 司書部会
<司書部会>
毎月、学校司書と関係者で開催。1人職場の司書にとって情報交換や研究を行う場は貴重です。

学校司書と学校図書館担当指導主事、市立図書館学校支援担当者、支援センター職員が月に1回集まり司書部会(主催:学校教育課(教育委員会事務局))を開いています。 司書部会の全体会では情報交換や協議、学習会などを行い、分科会では今日的課題をテーマに共同で研究しています。 お互いの情報を共有し、協力して研究することによりスキルアップし、すべての学校で同じ図書館サービスを提供できるようにしています。

調べ学習を積極的に推進

白山市では、調べ学習に積極的に力を入れていらっしゃるようですね。

調べ学習についても「学校連携に関するこれまでの取り組み」に記載がありますが、白山市では2006年から調べ学習コンクールを開催しています。
開催当初、応募総数はあまり多くなかったのですが、右肩上がりに増え続けており、2017年には2,706点の応募がありました。

それはすごいですね。なぜ応募総数が増え続けているのでしょうか?

白山市立松任図書館・学校図書館支援センター 調べ学習コンクール作品複製
<調べ学習コンクール作品複製>
全校に配付。モデル作品があるとイメージでき、
子どものやる気につながります。

コンクールに携わる審査員の先生方や司書教諭、学校司書やコンクールの事務局(松任図書館)の連携協力により、先生方や児童生徒、保護者の方にコンクールの存在が認知されたという背景があります。 他には、

  • 兄弟が応募していた
  • 同じ学校の他の生徒が賞を受けていた
  • 応募した作品で賞を取って嬉しかった

という理由も挙げられると思います。受賞作品のレプリカを各学校に配置していますので、それを見ることで応募意欲につながっているのかもしれません。

調べ学習が定着することで、図書館を使ってくれるお子さんも増えていると思うのですが、忙しさも増したのでは。

夏休みのレファレンスカウンターは戦場です(笑)。
初めは「○○の本、ありますか?」と質問してきていた子が、調べ学習を続けていくうちに、司書への尋ね方も的確になってきて、図書館の使い方が上手になっているなと感じることも多くて。それはとても嬉しいです。

ビブリオバトルの中学生大会を市立図書館主催で開催

ビブリオバトルの中学生大会を、市立図書館主催で毎年開催されているそうですね。どのようなきっかけがあり、始まったのでしょうか?

2015年3月頃に松任中学校の学校司書さんとPTA会長の方から、「市立図書館でも大会を開催してみませんか」というお話が、学校図書館支援センター経由で伝えられたのがきっかけです。

実際に導入するにあたり、教育委員会との連携もあったのではないかと推測されますが、いかがですか?

市内の中学生に大会に参加してもらうため、教育委員会との連携を行う必要がありました。
まずビブリオバトルがどのようなものか、開催することでどのようなメリットがあるのかを、教育委員会の学校教育課にご理解頂けるよう努めました。その後、各中学校に市立図書館で大会を開催する旨を伝達していただきました。
教育委員会のご協力によって、開催に向けた準備をより円滑に進められるようになったと考えています。

ビブリオバトルを導入して良かった点、また導入するまでに苦労された点についてお聞かせください。

良かった点は、

  • 各中学校でのビブリオバトル開催が増えたそうです。生徒の皆さんは自分の学校での大会に参加し、日々鍛錬されているので、市全体の発表レベルも自ずと高まっています。
  • 図書館での大会を観戦された一般の方々から、好評の声を頂けています。「発表者の考えがそれぞれしっかりしており、それを伝えていたのが頼もしい」「来年も楽しみにしている」など、心強い感想を頂けており、手ごたえを感じています。
  • 観戦した生徒の皆さんも刺激を受けているようです。「今日発表していた人に『これもおススメだよ』と話したい」「とても楽しかった。また見たい」といった感想もあります。観戦者の数もですが、参戦者の数も益々増えていってくれればと願っています。

もちろん苦労した点もありました。

  • 開催日の決定が大変です。学校行事の日程と重ならないよう、学校司書の方に行事予定をお聞きしながら調整していくことに苦労を感じました。
  • ほとんどの学校がビブリオバトル未経験でしたので、それが何かを知っていただくことから始めました。学校司書の方々の協力がなければ、十分にご理解頂けなかったかもしれません。学校司書の方々は、バトラー選出にも苦労されたのではないかと思います。

学校図書館支援センターの取り組み

学校図書館支援センターを2007年に設立されたそうですが、どのような目的で設立されたのでしょうか?

学校図書館と公共図書館とのネットワークを活かし、支援センターを拠点とした図書配送システムや情報の収集・発信、また学校司書と連携・協力して学校図書館を活性化するために設立されました。

白山市立松任図書館・学校図書館支援センター 学校図書館支援室書庫
<学校図書館支援室書庫>
学校が優先的に使える調べ学習用の資料が約9,100冊

図書の学校図書館への貸出は、どれくらいの頻度で行っているのでしょうか?

白山市立松任図書館・学校図書館支援センター 学校配達
<学校配達>
学校間の相互貸借資料や市立・県立図書館資料を学校図書館に届けます。
多い時は50箱を超えます。

白山市はとても広いので、図書の収集(水曜日)と配達(金曜日)を分けて行っています。学校図書館同士が図書の貸借を行う際にも、支援センターが中継基地として機能しています。
調べ学習のピーク時には、50箱ほどの荷物が出来上がることもあるんですよ。

『支援センターだより』を発行されているそうですが、どのような内容なのでしょうか?

『支援センターだより』は、月に1回発行していて、学校の先生向けの新聞のようなものです。図書館を活用した授業実践や調べ学習コンクールの情報、支援センターからのお知らせなどを伝える内容になっています。
学校の先生に図書館をさらに使ってもらうためのご提案として、また学校司書が学校で少しでも動きやすくなり、より一層充実した図書館サービスを提供できるように発行しています。

レファレンスの記録も保存されているそうですね。詳細に記録が残されたものは、あまり見たことがありませんので、とても珍しいです。

はい、その通りです。
収集しているのは、学校司書からのレファレンスになりますが、過去にあったレファレンスをすぐに参照できるように、記録を蓄積しています。既存のレファレンスからの情報に加えて、+αとして最近の情報を提供することができています。その他、「学校図書館を活用した授業実績」「利用指導実績」などのデータ集約もしています。

図書館内に市内の小学校で作られた展示物が貼られていて、図書館を訪れる方々の目を楽しませてくれていますね。

白山市立松任図書館・学校図書館支援センター 学校展示
<学校展示>
授業で作った作品を地域の方にも見てもらおうと松任図書館に展示。
来館者の目を楽しませています。

学校の授業で作った作品を、学校からお借りして、図書館内で展示しているんです。こういったものは学校内でしか展示されないものですが、市民の方にも是非見ていただきたくて企画しました。
図書館を訪れた方からは、ご好評をいただいています。「今の子供は、こんなことを授業で勉強しているのですね」と感想を述べられる方もいます。
安全上、市民の方々が学校に気軽に入ることはできない訳ですが、その学校に代わって、公共図書館が市民の方々に情報を提供できている手応えを感じています。

本日はありがとうございました。

図書館の様子

図書館をさらに使ってもらうべく、様々な仕掛けが図書館内に見られる。

白山市立松任図書館・学校図書館支援センター 移動図書館
<移動図書館のびのび号>
約2千冊を積み、週2回市内各所を巡回しています。
担当がこまめに本を入れ替えます。
白山市立松任図書館・学校図書館支援センター 正面展示
<正面展示>
石川県ゆかりの作家展示やマナーアップ展示、
学校展示など松任図書館で1番大きく目立つ展示です。
白山市立松任図書館・学校図書館支援センター いぬの本
<展示コーナー テーマ展示>
図書館入口で約1か月間、本を紹介。
壁面装飾も職員のお手製。センスが問われます。
白山市立松任図書館・学校図書館支援センター 児童館行事案内
<児童館 行事案内>
2階にはこども図書館と児童館があり、
子どもたちは自由に行き来することができます。
白山市立松任図書館・学校図書館支援センター ミニ展示
<ミニ展示>
カウンターのちょっとしたスペースに季節を感じる展示。
予想以上に貸出され、展示の力を感じます。
白山市立松任図書館・学校図書館支援センター 2階展示
<2階展示>
こども図書館でも本を紹介。
階段を上ってすぐの低いテーブルにブックリストと共に展示しています。

図書館情報

白山市立松任図書館 外観

所在地:〒924-0872 石川県白山市古城町305
電話:(076)274-9877
E-mail:library@lib.city.hakusan.ishikawa.jp
HP:http://lib.city.hakusan.ishikawa.jp/index.html
設立:1947年(昭和22年)5月15日

組織図

白山市立松任図書館 組織図

白山市の基本方針・松任図書館の施策について

白山市では、2007年3月に「第1次子ども読書活動推進計画」を策定して以来、子どもの読書活動を推進している。2017年3月には、これまでの課題や成果などを検証し、「第3次白山市子ども読書活動推進計画」が策定された。

松任図書館では、上記計画を踏まえたうえで、地域の情報拠点として、市民の多様なニーズを受け、きめ細かなサービスを実施し、市民に親しまれ役に立つ図書館を目指している。
たとえば、次のようなサービスが提供されている。

  1. 図書・資料の貸出
  2. 予約・リクエストサービス
  3. レファレンスサービス
  4. 対面朗読サービス(視覚障碍者への読み聞かせサービス)
  5. 宅配サービス(来館が困難な方に対し、図書館の資料を配達)

学校連携についても、子ども読書活動推進計画に基づき、子ども読書活動の全市的な推進を図るため、2007年に松任図書館内に学校図書館支援センターを設立した。支援センターを核として、各学校との連携を密に行い、資料の充実や迅速な情報提供を行っている。

毎年4月23日には「子ども読書の日」フェスタが、市内の公共図書館4館と1分館で開催されている。子どもたちに、読書の面白さや楽しさを知ってもらうためのイベントであり、スタンプラリー、しおりづくりなどを通じて、子供たちが本に親しむ機会を創出している。

学校連携に関するこれまでの取り組み

2003年
学校配達を開始(一部)
2006年
図書館を使った調べ学習コンクールを開催(2018年1月時点で12回開催)
2007年
学校図書館支援センター設立
2008年
学校配送を全校対象に拡大
2011年
学校図書館支援センターだより スタート
2012年
授業で作成した児童・生徒の作品を、松任図書館内に展示する企画がスタート
2015年
ビブリオバトル中学生大会を開催

基礎データ

2013年 2014年 2015年 2016年
受入冊数(冊)11,27012,31213,27211,555
蔵書冊数(冊)316,161322,019328,436330,184
視聴覚資料・
マイクロフィルム所蔵点数(点)
6,2436,3565,7955,779
入館者数(人)387,097364,995367,678350,888
貸出冊数(冊)542,578512,916508,913502,521
学校貸出冊数(冊)17,72514,95616,84914,352
レファレンス・サービス件数(件)13,83814,30216,44116,019

編集後記

数年に一度の寒気が押し寄せる中、白山市立松任図書館を訪れた。日本三名山の一つとしての白山は存じ上げていたが、白山市を訪問したのは初めてである。

図書館に入ると、図書館職員の方が作られたであろうPOPを添えたコーナーが歓迎してくれた。どのPOPも非常に手が凝んでおり、また手作りであるが故に温かみを感じ、つい本を手に取りたくなる。
図書館で働く方々も、とても朗らかに話をしてくださり、勉強になることばかりであった。その中で特に印象に残っているものは、調べ学習を通じて、未来の図書館ユーザーを育てようとされている点だ。

調べ学習を通じて、子供たちは図書館の使い方を習得していき、将来大人になっても自分や家族が、引き続き図書館を使ってくれる。
その為に、松任図書館では調べ学習を積極的に推進している。未来の図書館ユーザーを育てているため、即座に効果が現れる訳ではないが、着実に一歩ずつ努力を続けているその姿に、非常に感銘を受けた。

今もこれからも、図書館をずっと使い続けてもらおうと努力されている松任図書館の工夫や施策に、今後も注目していきたい。

(西岡)