長野県 塩尻市立図書館 ―学校連携―

コンセプトは「知恵の交流を通じた人づくりの場」

(2017年6月27日 取材)

塩尻市立図書館 外観

所在地 〒399-0736 長野県塩尻市大門一番町12番2号
TEL:0263-53-3365
FAX:0263-53-3369
E-mail:tosho@city.shiojiri.lg.jp
HP:https://www.library-shiojiri.jp/

塩尻市と塩尻市立図書館(えんぱーく)

◇塩尻市は長野県中部(長野県では中信地方とよぶ。)に位置する人口6.7万人、面積290平方キロメートルの市である。古くから奈良井宿、塩尻宿などが街道筋に連なる宿場町で交通の要所。現代は鉄道、高速道路、空港など主要な交通路が交差し、多くの製造業が立地、物流の拠点にもなっている。松本盆地南部を囲むなだらかな扇状地形はブドウの栽培が盛んで、多くのワイナリーが存在し、そこで造られる「桔梗ヶ原ワイン」はジャパンワインを牽引するブランドとして評価されている。

◇塩尻市は平成22年7月、「知恵の交流を通じた人づくりの場」をコンセプトに塩尻市民交流センター(愛称名:えんぱーく)を開館。センター内に市立図書館が移転オープンした。えんぱーくでは市民生活に密着した各種の行政サービス(子育て支援、住民票などの交付)の提供や、市民の活動拠点(ビジネス支援、シニア活動、青少年交流)等として幅広く利用されている。利用者本位の建物は「2012年日本建築学会作品選奨」を受賞。また、市立図書館はLibrary of the Year 2015(ライブラリー・オブ・ザ・イヤー)優秀賞を受賞している。

◇筑摩書房の創業者、古田晁(ふるたあきら)は塩尻市の出身。社名は生まれ故郷の長野県東筑摩郡筑摩地村(現・塩尻市)に由来し、塩尻市立図書館では遺族から寄贈されている筑摩書房の出版物を、コーナーを作るなどして配架している。また「古田晁記念館」(国登録有形文化財、市立図書館が所管)では多くの文化人との交流や当時の時代背景などを知ることができる。長野県ではこのほかに、岩波書店を創業した岩波茂雄(諏訪市出身)、みすず書房を創業した小尾俊人(茅野市出身)などがおり、出版王国としての歴史を持つ。

◇塩尻市の学校数は小学校9校、中学校5校、高等学校が3校、大学が1校である。この他に辰野町と組合方式運営による小中学校が各1校ある(小学校は辰野町に立地)。

図書館の組織

塩尻市立図書館 図書館の組織

市立図書館の基礎データ

塩尻市立図書館 年度別蔵書冊数
塩尻市立図書館 基礎データ

図書館年鑑2017によると、塩尻市は人口8万人未満の市区において、常に全国ランキングトップクラスに入っている。蔵書数、資料費、個人貸出冊数、予約受付数では2011年以降トップ20入りし、さらに年々ランキングを上げて進化を続けている。

学校連携、これまでの歩み

◆平成16年

「読書大好き塩尻っ子プラン 塩尻市子ども読書活動推進計画」を策定。

◆平成22年7月

えんぱーくに「塩尻市立図書館」がオープン

◆平成23年~24年

学校図書館にコンピュータ導入

◆平成25年4月~

学校司書を図書館所属に一元化。学校と市立図書館の連携が大きく進展。

◆平成27年3月

第2次塩尻市子ども読書活動推進計画」を策定。

館長インタビュー

塩尻市立図書館 館長 中野 実佐雄 様
対応いただいた
館長 中野 実佐雄 様
塩尻市立図書館 副館長
副館長 上條 史生 様
塩尻市立図書館 司書さん
司書 青山 志織 様(左)、司書 上野 満 様(右)
(子ども読書支援 学校担当)

図書館が入っている塩尻市市民交流センター(えんぱーく)では幅広い市民サービスを提供していますね。

【館 長】

塩尻市市民交流センター の基本コンセプトは「知恵の交流を通じた人づくりの場」です。この前提で、従来の行政組織にとらわれない、さまざまな市民サービスを提供しています。ビジネス支援や子育て支援、青少年の交流支援やシニアの活動支援などです。図書館はこれらの行政サービスを網羅する役割があります。ビジネス支援では、定期的にビジネス相談会を開き、事業者との結びつきを深め、子育て支援ではカウンターが隣接する子育て支援センターのサービスをサポートしています。また、農政部門との情報交換で専門書をリストアップ、学校教育では小学校で始まった英語教育を担当する教育指導主事と相談し、小学生向けの英語の本を配架するなどの市民サービスを実現しています。えんぱーくでは、住民票の交付も受けられますし、青少年やシニアの活動拠点としても利用できます。

市立図書館の学校連携について、取組の経過や特徴などご紹介ください。

【副館長】

市ではこの図書館がオープンする以前から、学校司書を全15校に配置していました。教育総務課が所管しており、近隣市町村に比べ早くから取り組んでいたと思います。 内野安彦元館長、伊東直登前館長は常々、「図書館はひとのちから」の考えを述べておりました。学校図書館をさらにステップアップするため、平成25年度に学校司書の人事・予算を市立図書館に一元化し、以降、学校図書館と市立図書館との職員交流や情報共有などで学校司書や図書館職員のスキル向上に努めてきました。また、「早寝早起き朝ごはん」運動では、市独自のプラスワンとして「読書」を加えて、子どもの育成に取組んでいます。

(市では平成27年4月、「第2次塩尻市子ども読書活動推進計画」に改訂、活動のステップアップが図られている。)

豊富なサービスを学校に提供していますね。

参考(サービス一覧)

4. 塩尻市読書推進アドバイザー
(おはなし会、講習、ボランティアコーディネート等)ダウンロード

5. 見学や図書館利用
6. 調べもののお手伝い(レファレンス)
7. 専門書の充実(教員向け資料、雑誌、点字本、外国語絵本など)
8. 社会見学、職場体験受け入れ、高校連携

【青山司書】

サービスの多くは以前から実施されていました。ただ、周知できていなかったので、小中学校向けの利用案内を作成し、学校を訪問して、先生方と話をする機会を設けるなど「知っていただく、利用していただく」ことから始めました。先生方の意見を聞きながら、特に、授業にあわせた「調べ学習」に利用できる本を取り揃えています。

単元やテーマに合わせたブックセットも作成し、セット貸出もしています。

学校連携で工夫されたこと、苦労されたことは何ですか。

【館 長】

学校の理解を深めることが大切なので、特に連携を始めた2年間(平成25年~平成26年)は学校連携担当による学校訪問を強化しました。私と副館長も、継続的に学校訪問を行っています。

【青山司書】

年度当初、館長をはじめ担当職員が全校を訪問して、学校長と担当の先生方とのコミュニケーションを図っています。また、読書推進アドバイザーと担当者が、継続的に学校を訪問し、ニーズを把握しています。教室でのおはなし会やブックトーク、依頼に沿った本を市立図書館で選んで持っていくなど、現場での活動が先生方に口コミで広がり、評価につながっていると思います。平成23年~24年に全学校図書館にパソコンが導入され、システム化が図られましたが、図書の整理などで課題も残っていました。平成25年はそういった課題を把握し、連携の形を模索する年となり、「なんでもお手伝いします。」のスタンスで、平成26年~27年には集中的に現場に伺いました。この活動で、学校と市立図書館の相互理解が深まったと思います。結果、学校からの依頼や相談の機会が増え、現在も定期的に訪問し情報交換や相談を行っています。

さらに、大きな活動として学校図書館委員会があります。当初は、教育総務課(教育委員会)が事務局となって学校図書館委員会を開催していましたが、学校連携がはじまった平成25年に事務局を市立図書館に移管。学校長・教頭、学校司書、教育総務課、教育センター、市立図書館職員を委員とする体制としました。また、学校司書が独自に情報交換や自主研修を行ってきた司書部会は、現在も継続して行っており、市立図書館の職員も参加するなど活動の幅が広がってきています。

現在、学校図書館委員会と司書部会はそれぞれ年6~10回ほど開催しており、委員会で学校図書館の運営課題の検討や協議、視察や講演会などの企画・実施を行い、また司書部会では実務的課題の検討や協議を行っています。この委員会は良きコミュニケーションの場であり、職員のスキルアップや情報共有にも役立っています。また、市立図書館の重要な活動である「本の寺子屋」では学校図書館職員向けの講座も開催しています。塩尻市以外からの参加もあり、関係者の広い交流が図られています。

塩尻図書館における学校への支援状況

市立図書館では平成26年度から、「夏休みしゅくだいおうえん隊!」を結成。子どもたちの自由研究(調べ学習)を応援。一緒に調べ、考えてもらうことで、学びの楽しさを伝えている。(地元紙 市民タイムスに報道)

学校司書にどのようなことを期待されていますか。

【館 長】

学校司書の中で、とりわけ中学校についてです。今回取り上げていただいた広丘小学校をはじめ、小学校では読書支援が盛んに行われていますが、ご存知のとおり、中学になると読書量が大幅に下がります。さまざまな理由がありますが、中学は成長の過程で最も大切な時期です。中学に勤務する学校司書には「感性豊かな子ども」の成長を手助けするような読書活動を行ってほしい。「音楽や絵画等も取り入れて、感性を育む」といった指導をお願いしたいと思っています。

塩尻市立図書館(えんぱーく)のご紹介

市立図書館のさまざまな活動を紹介するパンフレット集です。ご覧になりたいところをクリックして下さい!

こどもとしょかんだより

若葉のコーナー紹介

WaKaBa(ティーンズ誌)

Book Fan Newsletter(書店員と図書館員がおくる本の情報紙)

取材後記

何事にも「分岐点」というものがある。塩尻市の学校連携は明らかに平成25年度である。学校司書を市立図書館に所属を一元化。市立図書館の職員と一緒になって、フットワーク良く活動。先生方とコミュニケーションをとって、互いに学校図書館の改善、利用促進に継続的に取り組む。やはり、「一歩足を踏み込む」考えと行動が改善の分岐点となっている。子供たちのため、市民のため、館長をはじめとする全職員のマインドが強く伝わってきた。確実に、「えんぱーく」は進化を続けている。

分岐点と言えば、鉄道好きの筆者にとって、「塩尻」は大きく創造がふくらむところ。駅の改札口は2階。南に向かって、左側(岡谷方面)に4線、右側(木曽方面)に3線の鉄路。中央線は塩尻で東西に分岐し、また、これらとは別に塩尻―辰野―岡谷の支線も分岐する、圧巻なビューポイント。線路を眺めながら、歴史、文化、交通、物流、人の流れなどに思いを巡らす。子供のころに買い求めた150円の国鉄時刻表。その中で最も興味を抱いていた塩尻の地に今、降り立ち、さまざまな人に出会えたことに感謝!

(菅原)