鳥取県 智頭町立智頭小学校

教育環境の土台は「学校図書館」にあり

鳥取県智頭町立智頭小学校 外観

所在地:〒689-1402鳥取県八頭郡智頭町智頭320
電話:0858-75-0044
E-mail:tizu-e@mailk_torikya.ed.jp
設立:平成24年(2012年)4月1日
(旧智頭・山形・山郷・富沢・土師・那岐小6校を統合)
児童数 281名 学級数 16学級 教職員数 36名 学校司書1名
(平成28年5月1日 現在)

教育目標

「夢に向かって のびる 杉っ子」
○子ども一人一人が夢や希望に向かって、主体的に自分の能力を高め、発揮しながら学習や生活をし、今日一日の学校生活を満足している子ども
○自立した、心豊かな 子どもたちを育てるために
~郷土を愛し自ら学び、知・徳・体のバランスのとれた子ども~

◇取材には鳥取県立図書館の支援協力課、小林課長に同行いただいた。

学校長インタビュー

鳥取県智頭町立智頭小学校 校長先生
取材に対応いただいた 谷口道行 校長先生

はじめに、学校の教育目標と図書館の位置づけ、活用についてお聞かせください。

【校 長】

本校は、平成24年度、町内の旧智頭・富沢・土師・那岐・山郷・山形の小学校を統合し、新たな智頭小学校としてスタートしています。統合当初から、八頭郡小学校教育研究会(若桜町、智頭町、八頭町の小学校数10校で組織)より、平成28年度の智頭小学校の研究発表の指定を受け、研究教科を国語と道徳に定めて研究を進めてきました。研究テーマを「つながり合う言葉と心の育成」とし、「書くこと」「伝え合うこと」「振り返り」を柱に、国語研究と道徳研究の両面から、「めざす子ども像」の具現化をめざしてきました。このテーマを具体化していくためのベースとして学校図書館の活用をあげ、授業の充実・町立図書館との連携・親しみのある図書館づくりを進めました。各教科の授業については、予め年間計画を作成して進め、並行読書も行って子どもたちが多様な本に触れるようにしています。地域のボランティアによる読み聞かせ、智頭図書館の司書と学校司書の連携によるおはなし会、図書館の時間や親子読書などもさまざまな工夫をして行っています。

学校では朝読をしています。多くの子どもたちは登校すると図書館に集まります。特に雨模様の日などは、大変混雑します。とにかく、図書館が好きな子どもが多いです。

学校を統合して、どのような効果が見られますか。

【校 長】

教員が集約され、人材の厚みが一層増しました。司書教諭の資格を持つ者は6名おります。同時に蔵書が充実しました。
教育委員会や県立図書館とのパイプも以前よりも太くなり、相談しやすくなったと感じています。

学校司書の森下さんが熱心に図書館業務に取り組んでくださっています。図書館にほしい本がない時には、すぐに町立図書館と相談し、町立図書館が県立図書館に依頼して翌日には本が届けられます。学校から見ると、”町立”や”県立”を意識することはなく、対等の立場で運用にあたっています。県立図書館も智頭小学校の学校図書館の一部と思っています。

行政トップの理解、関係職員のスキルと熱意、充実した図書館の環境、それぞれがバランスよくあると感じます。ありがとうございました。

図書館の特徴

学校図書館を支える人・資料・環境

図書館・図書館資料を効果的に活用し自ら学ぶ力を育てる。
鳥取県智頭町立智頭小学校 百科事典の使い方を学習する3年生
百科事典の使い方を学習する3年生

0~8類の資料が充実しており、いつでも調べ学習ができる蔵書構成になっている。

鳥取県智頭町立智頭小学校 郷土資料コーナー
郷土資料コーナー(写真提供:智頭小学校)

郷土資料も充実している。(本だけでなく地域の広報・パンフレットやリーフレット、新聞記事の切り抜きファイルなども整備)また、児童向けに作成された郷土資料「わたしたちのふるさと智頭町」が50部置かれ総合的な学習で利用されている。

鳥取県智頭町立智頭小学校 智頭町資料 
(写真提供:智頭小学校)

読書に親しみ読書を楽しむことを通して豊かな心を育てる。

図書館の時間を活用して毎学期に1回、智頭図書館司書と学校司書が連携したおはなし会やブックトークが行われており、本とつながる機会のひとつとなっている。

2年生の図書館の時間を見せていただいた。担当は学校司書の森下さんと図書館司書の前田さん(館長補佐)の2名。

ストーリーテリングをする森下さん
ストーリーテリングをする森下さん
この日のお話はグリムの昔話「森の家」
「へらない 稲たば」を読み聞かせする前田さん
「へらない 稲たば」を読み聞かせする前田さん

関係者のチーム力で図書館を運営している。

さまざまな調べ学習の成果物が多く保存されており、どのテーマもレベルが高い。
「先生のおすすめ本」「先生のMyBook」などが毎年展示されており全職員の協力がみられる。

インタビュー

インタビュー対応いただいた方々
対応いただいた司書教諭の蓮佛 享子 先生(右)、学校司書の森下 英子さん(中)
図書館司書(館長補佐)の前田 美由紀さん(左)(敬称 略)

先ほど、校長先生から八頭郡の小学校教育研究会について説明がありました。
その中で学校図書館の方針が述べられ、図書館活用計画表について触れられました。大変貴重な資料で、内容に感心しました。

【蓮 佛】

図書館活用計画は以前からありました。先生方と相談しながら作成していましたが、教育研究会も契機になって、整理、明文化して運用を行っています。全学年、全教科、学期別、月別に誰が支援するかも決めており、図書館活用の基本となっています。

学校ではどのような分野に重点をおかれて、本を整備されていますか

【森 下】

教育課程の展開に寄与する学校図書館になるよう、基準に照らしながら蔵書構成をめざしています。そのなかで本校の図書館は特に自然科学を充実させています。また授業で用いられる本は優先して購入しており 図書館の分類に沿っておいてあります。調べ学習などで、子どもたちが自分で必要な本を探し調べる力をつけることに役だっていると思います。今後、充実していきたい分野は”歴史””芸術”です。読み物は子どもたちの成長の糧になる本を中心に選書しています。文学の蔵書は「息の長い本」が核となっています。

【蓮 佛】

学校では「調べ学習」を重点方針にしています。「調べ学習」は「課題を見つける、整 理する、解決する方策を見つけ出す」など、子どもたちの成長にとって大切な分野です。
中学生や高校生になる前に、小学校で「調べる」ことを身に着けることが重要です。まだ、本当に始まったばかりです。(笑)調べ学習の活動成果は図書館入口に掲示しています。

活動記録の中に、「著作権」の掲示がありますが、驚きました。

【蓮 佛】

私も急きょ、勉強しました。大人ももっと勉強が必要です(笑)

【森 下】

先日、ポスターを描いた子が、(絵に)©マークを入れていました。(笑)

森下先生は図書館活用の授業にあたってどのような考えをされていますか。

【森 下】

図書館年間活用計画をもとに授業について、事前に先生方にヒアリングをしています。授業のねらいに沿った資料であることが大切だからです。同じ単元でも先生方によって使われ方が違うこともあるので、より詳しく聞くようにしています。自校の図書館にない本や複本が必要な時は、公共図書館や中学校からも借り受け準備します。また、今までの授業の記録やこれまでの経験、知識も入れて、授業をイメージして本を取りそろえ、授業に備えています。本は必ず子どもたちの目に触れる、子どもたちや先生方に役立つのであれば「労」を惜しみません。つながること・図書館への信頼を築くことを大事にやっています。

鳥取県では司書教諭に5時間の図書館活用枠がありますが

【蓮 佛】

5時間の枠は十分意識しています。学校ではこの時間を活用し、様々な授業の教材研究や資料作り(電子黒板でのプレゼン等)などに充てています。学校司書と連携して、いつでも図書館で授業ができます。教科書も図書館においていますので、教材研究に役立てることができます。この制度なしでは図書館活用が困難と思います。

智頭小学校は6校が統合された経緯もあって司書教諭の資格を持つ者は6名おりますが、すべての先生方が図書館活用に熱心で協力的です。もう少し時間があるといいですね。(笑)

子どもたちの一番好きな場所として「図書館」をあげる子が多いですし、校長先生も図書館活用の大切さを理解されています。

お忙しいところ、ありがとうございました。

図書館基本情報

鳥取県智頭町立智頭小学校 蔵書数、貸出冊数

統計データ

鳥取県智頭町立智頭小学校 統計データ

⑦標準図書数:文部科学省の定めた学校図書館図書標準。7,960+400×(学級数-12)
⑧充足率:学校図書館図書標準冊数(文科省)による智頭小学校の蔵書数は9,560冊で実際の蔵書数は10,565冊である。
学校統合時に本が整理され、除籍も行われていることから、適切な充足率である。
⑩読書量:全国学校図書館協会の調べによると、多読月である5月を単月で調査。全国平均11.2冊である。(雑誌やマンガも含む)。年間の読書量127冊は現在までに取材した小学校では突出した量である。
⑪財政効果:全国学校図書館調査による図書平均単価(平成26年度小学校1,775円)
公立図書館からの借受冊数も、今までの取材校で突出している。読書量の多さを支えている要因に公立図書館との連携が数値として表れている。

智頭小学校からのおすすめ本

よく読まれているおすすめの本
図書名 著作者 簡単な内容と児童の様子
1愛蔵版
おはなしのろうそく1~10
東京子ども図書館編日本や世界の昔話が1冊に数話入っている。自分で読むだけでなく人に読んでもらったり、司書の語りを聞いたりして昔話の楽しさを味わっている。学年を問わず貸出され、親子で楽しむ児童もいる。(1~6年)
2ぼくはめいたんていシリーズマージョリー・
ワインマン・
シャーマット
探偵ネートが解決する事件は子供の身近な出来事ばかりで読みやすく、絵本から読み物へ移るおすすめの本のコーナーに置いている。何度も借りて繰り返し読んでいる児童も多い。(1、2年生)
3ものぐさトミーペーン・デュポア電気仕掛けの家に住んでいるトミー・ナマケンボは、着ること、食べることなど生活全てを自動装置にしてもらっている。ところが停電になって大変な目に合う。児童に人気の本で予約も多い。(3年生)
4大どろぼうホッツェンプロッツオトフリート=プロイスラーガスパールと親友のゼッペルがおばあさんの誕生日にプレゼントしたコーヒー挽きが盗まれてしまう。犯人はホッツェンプロッツ。2人は取り戻そうと追跡をはじめる。続編の2巻・3巻と読み進める児童も多い。(4年生)
5かくれ山の冒険富安陽子小学生の尚が、猫の鳴き声に誘われ林に入り込んだとたんまわりの景色が変わる。やがて森の中の一軒家にたどり着くがそこには女の人と8匹の猫がいた。その後思いもしなかった冒険がはじまっていく。本を借りた児童が遊ぶ間も惜しんで休憩時間に読んでいたと担任の先生から聞いた。(5年生)
6夏の庭湯本香樹実人は死んだらどうなるのか。興味を持った3人の少年は小学校最後の夏休みに一人暮らしのおじいさんを観察することにした。ところが見張られていることに気付いたおじいさんはどんどん元気になっていき、やがて老人と少年たちとの交流が始まる。本を読んだ児童が担任の先生に「ぜひ先生も読んでください」と薦めていた。(6年生)
7王への手紙
(上)(下)
トンケ・ドラフト騎士になるための最後の試練をむかえていた夜、見知らぬ老人から1枚の手紙を託された主人公ティウリ。騎士になることを捨て王へ手紙を届けることになった。それは何者かに追われる厳しい旅のはじまりだった。「無事に手紙が届くのかとハラハラドキドキしながら読みました。」と感想を聞かせてくれたり、誕生日のプレゼントで読んだ児童が友達に薦めたりしていた。(6年生)
図書館の時間に語ったお話 (ストーリーテリング)
図書名 出典 簡単な内容と児童の様子
1ふしぎなたいこ岩波 子どもの本げんごろうさんが持っているたいこは、人の鼻を高くしたり低くしたりすることができるが、人を楽しませることにしか使ってはいけないことになっていた。あるとき自分の鼻がどれくらいのびるものか試そうとして罰があたってしまう。鼻がどんどんのびていく場面では、思わず子どもたちが自分の鼻ものばして聞いている。(1年生)
2三まいのお札おはなしのろうそく和尚さんが止めるのも聞かず寺の裏山にクリを拾いに行った小僧さんは、ばあさまに誘われて家について行く。ばあさまの正体は鬼婆。和尚さんにもらったお札を使って必死に逃げる小僧さんがどうなるのか、子どもたちは聞き入り結末にほっと息をついている。(1年生)
3水晶のおんどりイタリア民族選
みどりの小鳥
世界1周の旅に出ようとしたおんどりが道端で見つけた手紙はひよこの結婚式の招待状。先々で動物に出会うたびに手紙を読み返し旅を続けていく。話を聞いた後、子どもたちは本を借りてよく読んでいる。(2年生)
4魔法の馬ロシアの昔話三人兄弟の末息子イワンは何の取り柄もないのだが、亡くなったお父さんの言いつけをただ一人守る。魔法の馬を呼び寄せりっぱな若者になったイワンは王様のひとり娘と結婚することになる。語ると約12分かかる話だが毎回子どもたちはとてもよくお話を聞いている。(3年生)
5世界でいちばんやかましい音おはなしのろうそくガヤガヤの都は世界でいちばんやかましい町でそのことが人々の自慢だった。ガヤガヤ王子の誕生日には世界中の人が一斉に叫んでお祝いすることになっていたのだが、世界でいちばん静かな町となり…誕生日のカウントダウンが始まる場面にくるとさらに集中して聞いている。5年生国語の教科書にも掲載されている話。(4、5年生)
6森の家子どもに語る
グリムの昔話
貧しいきこりが森に仕事にでかける時、昼飯を娘に森まで届けさせるように言いつける。きこりは道しるべに豆をまくがどれも鳥に食べられてしまい娘は3人とも道に迷ってしまう。たどり着いた森の家にいたのは、魔法をかけられ姿を変えられていた白髪のおじいさんと動物たちだった。思いやりがあり人間や動物にやさしくしてくれる娘が来ることで魔法がとかれる。語ると17分かかる話だが子どもたちは最後までよく聞いている。(3年生)
7アナンシと五子どもに聞かせる世界の民話アナンシは人間になったりクモになったりするわるいやつ。近くにすんでいる五という名前の魔女が5といったとたんに死んでしまう呪文をとなえているのを聞きこれを利用しようとたくらむ。通りかかる動物たちにさつまいもの山を数えさせ5を言わせるが最後には…子どもたちは話の先を想像しヒヤヒヤソワソワしている。(3年生)

取材後記

大分、昔のことになるが智頭町を通過した記憶がある。T市役所でシステムに不具合があり、徹夜でプログラムを修正。帰路、鳥取駅でカニ飯を買い込み、大阪行きの特急列車に飛び乗った。が、間もなく睡魔に襲われ記憶が薄らぐ。しばらくして社内アナウンス。「列車はこれから智頭急行線に入ります」。うつろの目でみた山間の風景がかすかに残っている。間もなく、これが大阪への最短ルートなんだと理解した。
今回、機会あって取材で智頭町を訪れた。案内頂いた県立図書館の小林課長の車は、高速道路を通って、瞬く間に到着。聞くところによると、大阪まで2時間程度でつくという。随分、便利になったものである。鳥取市もすぐ隣の町になっている。
しかしながら、この町は東北から遠く離れた町と思えない親近感を感じる。山には杉の木が、町には杉材を多く使った建物。いたるところから杉の香りが漏れてくる。そう、同じ杉の香りに満たされた秋田の町に良く似ている。そして、また教育に熱心で図書館で多くの人たちがつながっていることも良く似ている。そして、どちらも子どもたちを支えることが特別なことではなく、ごく当たり前のように普通に行っていることが最も共通している。これが学力トップクラスを支えていることのベースだと思う。

(菅原)