鳥取県 鳥取県立図書館 ―学校連携―
子どもたちを思い、学校・先生を支える県立図書館とは
所在地:〒680-0017 鳥取県鳥取市尚徳町101
TEL:(0857)26-8155
FAX:(0857)22-2996
E-mail:toshokan@pref.tottori.jp
HP : http://www.library.pref.tottori.jp/
(鳥取県立図書館の全景)(写真提供:鳥取県立図書館)
鳥取県と鳥取県立図書館
(1) 子ども読書活動推進ビジョン
鳥取県では平成16年に「鳥取県子ども読書活動推進ビジョン」を策定し、子どもの読書推進活動をスタート。現在、第3次(平成26年~平成30年)のビジョンに取組んでいる。これまでの取組で、読書機会の提供や読書環境の整備、支える人の育成を図ってきており、読書推進の基盤が確立されてきた。しかしながら、司書を含む学校図書館関係職員の経験の違いなどから、学習支援での活用状況に差がみられるようになってきており、加えて中高生の読書離れ、図書館離れが進んでいる。
(2)「学校図書館支援センター」と「とっとり学校図書館活用教育推進ビジョン」及びその実践を進める「学校図書館活用ハンドブック」
このような中で、平成27年度に児童生徒の主体的な学ぶ力を育成するため、県立図書館内に「学校図書館支援センター」を開設した。そして、就学前から高等学校まで一貫した学校図書館活用教育のあり方の検討を始め、同年度末に「とっとり学校図書館活用教育推進ビジョン」を策定した。このビジョンの優れている点はめざす子どもの情報活用能力をその成長に沿って、明確に記されているところにある。縦軸に4つのカテゴリー(①育てたい子ども像、②課題の設定と情報収集、③情報の活用、④情報の伝達と評価)と横軸に子どもの教育段階(幼稚園~高等学校)を表すマトリックス型の体系となっている。
このビジョンをすすめるために、学校現場で実践的に役立つ「学校図書館活用ハンドブック」が作成されている。本ハンドブックには学校図書館を活用した授業づくりのヒント、年間計画、各種行事や図書館業務、学校司書と司書教諭の役割などが載っている。また、各学校における事例も多く紹介されている。
これらのビジョン、ハンドブックは現場起点でまとめられている。県内の教育委員会、小中高等学校長、司書教諭や学校司書、及び協力校など関係者の英知を結集してあるので、初心者からベテランまで幅広く活用できる、最も「お勧めしたい一冊」である。また、先生方の研修や市町村との連携などにも触れている。
(3)鳥取県立図書館
①鳥取県立図書館の組織(平成28年4月1日現在)
運営は直営方式であり、5課体制で運営している。
②組織連携の人材配置
最大の特徴は、学校図書館活用をはかる推進体制にある。県立高校に勤務する司書主任を県立図書館兼務とし、高校を支援する。また、支援協力課に所属する学校図書館支援員は、高等学校課、小中学校課の指導主事でもある。
鳥取県の学校数(平成28年度)は以下のとおりである。県立図書館は直接、高等学校・特別支援学校(市立米子養護学校を除く)を、公立の小中学校は市町村立図書館を通じて支援を行っている。
(鳥取県の学校数)
(県立図書館の基礎データ)
学校支援、これまでの歩み
平成14年
- 県立高校に学校司書を正規職員として配置を始める。特別支援学校は、非常勤職員として全校に配置。
- 小中学校は市町村にて雇用し、配置。
平成15年
- 学校の規模にかかわらず、全学校に司書教諭を配置。
- 小中学校の司書教諭には図書館活動の時間として週5時間を確保。
平成16年
- 「鳥取県子ども読書活動推進ビジョン(一次)」を策定。
平成18年
- 県立高校に学校司書を正規職員として全校に配置完了。
- 東部、中部、西部地区の県立高校に勤務する司書主任が県立図書館の係長を兼務。図書館職員とともに、高等学校や特別支援学校を訪問し、図書館の運営相談を開始。(平成23年度からは学校の求めにより「いつでも、何度でも」という訪問相談を行っている。)
- 高等学校課、各地区係長、図書館で連絡会を年2回、実施。
平成21年
- 「鳥取県子ども読書活動推進ビジョン」2次策定。
平成26年~ 継続
- 高校司書と図書館で「鳥取県高校生クイズ」を実施。
平成26年
- 学校図書館支援員兼小中学校課指導主事、高等学校課指導主事を配置(各1名)
- 「鳥取県子ども読書活動推進ビジョン」3次策定。
平成27年 4月
- 県立図書館内に「学校図書館支援センター」を開設。
平成28年3月
- 「とっとり学校図書館活用推進ビジョン」を策定。
- 「学校図書館活用ハンドブック」を作成。
館長インタビュー
福本 慎一(ふくもと しんいち)
1958年生まれ大阪大学卒
教育総務課長、教育委員会事務局次長などを歴任
平成27年度から鳥取県立図書館長
「学校図書館センター」の開設、「とっとり学校図書館活用推進ビジョン」の策定や「学校図書館活用ハンドブック」の作成など、鳥取県での学校図書館活用の教育についてお聞かせください。
【館 長】
県立図書館に着任するときにはお話のありましたビジョンやハンドブックの作成は既に決定されていたことでしたが、堀川教授(青山学院女子短期大学教授)の熱心な指導をいただきながら、現場の先生方や司書さんの意見を反映してできたと考えています。
一方、各地の学校ではさまざまな理由で学校図書館活動についての温度差が生じてきています。このため、学校や市町村の事情によることなく、幼保から高等学校までの一貫性をもった考えでビジョン作成を行いました。
学校図書館支援センターは昨年(平成27年)開設しました。職員も9名配置され、蔵書も充実してきており、学校への支援が進んでいます。将来的には、各市町村に展開されると一層、学校図書館の利用が高まると思います。
ハンドブックやビジョンに、具体例や施策が多数掲載されています。このことについてお話しをお願いします。
【館 長】
図書館活用教育を述べている文献は沢山ありますが、大切なことは鳥取県の実情に合っているかです。「現場の声」を聞きながら作成しているので、県内の先進的な実践例を広く、知っていただけると思います。
また、図書館関係者は「声を大にすること」が上手ではないと思います。例えば、給食センターなどに勤務されている方で、その専門性の高さが認められて栄養教諭となって授業ができますが、専門性の高い司書であっても、そのようにはなってはいません。そこで、関係者が首長や財政部門に説明する際に「道しるべ」となるようなものがあって、後押しをするものが必要だと考えています。
一方、現場の先生方や司書さんに「これを見れば学校図書館が分かる」ような一冊があると、効果的です。
鳥取県では、智頭町に見られるように、早くからビジョンの主旨に沿う図書館活用教育に取り組んできた例もあります。今後そうしたモデル地域を具体的に検討し、来年度からでも実施していきたいと考えています。
鳥取県では組織や制度、人材配置の特徴について詳しくお聞かせください。
【館 長】
県では平成14年度から順次、学校司書を配置してきました。すでに、10余年経過していますが、当初の目的が薄らいでいると感じています。先生方の多忙感は”いじめ問題”に見られる心理的要因が大きいと思われますが、学校運営では学校司書を含めた”チーム学校”であたることを基本とし、先生個人に負担を強いることがないよう進めています。
また、県立図書館も学校と一緒になって、読書教育などに関わっています。図書館には指導主事兼務の職員もいます。学校教育担当課の指導主事は大きな存在です。
県立図書館内におります学校図書館支援員2名はそれぞれ、学校教育課及び高等学校課の指導主事でもあります。小・中学校の司書教諭には週5時間の学校図書館活用枠が設けられていますが、小中学校課の方針によるものです。幸い、この分野は歴代の知事の理解があり、予算確保や人員配置を進めやすい状況にあります。
図書館は「いじめ防止」に役立つとの意見がありますが――
【館 長】
そのように思います。鎌倉市図書館から発信された「学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい。」のツイートは大きな反響を呼びました。
ビジョンでは学校図書館の読書センター、学習センター、情報センターに次ぐ4つ目の役割として、「子どもたちの居場所、教員のサポート」を掲げています。今後、どんなことができるのか具体的な検討をしていきます。
教育センターの研修プログラムについてお聞かせください。
【館 長】
教育センターでのカリキュラムはセンター内の指導主事が作成していましたが、県知事の方針や県の重要課題について触れることが少なかったように思います。そこで、作成時のプロセスを変え、図書館を含めた関係部門への事前ヒアリングを実施してから作成することとしました。この中で、さまざまな課題に対応していくには図書館活用が重要であるとの認識に変わってきました。
今後の取組について、お聞かせください。
【館 長】
ビジョンやハンドブックは、そのまま、現場に定着するとは考えていません。これから が重要です。関係者の協力で具体的な実践をしてみる。そしてPDCAをまわしてみて、改善点を見つけ出し、ビジョンやハンドブックを改訂していく。このことを着実に進めていきます。あわせて情報公開をして、さまざまな意見も取り入れて、もっと先生方や司書さんとのつながりを高めたいと考えています。また、デジタルアーカイブについては、研究や啓蒙に取り組んでいきます。
今般、Library of the Yearライブラリアンシップ賞2016を受賞できたことは、励みになります。人が変わっても持続可能な「ビジョン+システム(組織、人材、情報、予算)」で進めていきます。
具体的な学校支援内容
鳥取県立図書館ネットワーク
学校図書館支援センター
県立図書館の支援協力課内に設置しており、他課の職員を含む9名で運用している。
(県立図書館での設置は全国初)センターは学校図書館支援員2名(小中学校課、高等学校課の指導主事を兼務)と児童書、郷土資料、障がい者サービスをおこなう専門性の高い司書とで構成されており、また「読書センター」「学習センター」「情報センター」としての役割を持っている。
主な業務内容は以下である
①市町村教育委員会や市町村立図書館の依頼に応じ学校図書館支援員や司書の講師派遣
②高校や特別支援学校への学校訪問相談(求めに応じ随時何回でも)
③各種研修会や講座の開催
④資料提供や情報提供 など
図書館ホームページ「学校図書館支援センター」内に学校や先生のためのお役立ちコーナーもあり、授業で使えるブックリスト、郷土学習ガイド、テーマ別資料一覧、図書館運営に役立つリンク集等を用意している。
学校訪問相談
高校や特別支援学校の図書館は「いつでも何回でも」訪問し、学校司書や司書教諭を支援している。
小中学校は市町村教育委員会や市町村立図書館を通じて支援している。
小中学校へは自治体ごとに開催する研修会の講師派遣が主であるが、高校・特別支援学校へ直接訪問相談を行う際には”授業での図書館活用の方法”や”学校行事と関連したテーマ展示””図書委員の活動例”などの具体的な相談に応じている。
学校図書館、市町村図書館の支援状況は以下のとおりである。
貸出
毎日宅配を利用して本の配送を行っており、最短1日で利用者の手元に届けることができる。貸出期間は最大3ヶ月で、500冊までの大量貸出が可能だ。雑誌のバックナンバーの貸出にも対応している。また、新聞記事検索や論文検索も行っている。(コピー代は有料)
配送は宅配便と定期巡回車の併用で行っている。巡回は年度当初に計画し、県内の高校や特別支援学校、市町村立図書館を6つのコースに分けて行っている。
学校への貸出、返却に関わる費用は県立図書館が負担している。
研修会等
司書教諭、学校司書等、学校図書館関係者向けに研修会を実施している。研修会での主な講座には”学校図書館活用教育普及講座” “学校図書館司書研修会”などがある。また、一般向けに講演会やおはなし会、各種相談会などを実施。大学とタイアップした講座も開催している。
学校図書館応援コーナー
図書館1F児童図書室奥に「子ども読書応援ルーム」を開設し、学校関係者、市町村図書館職員、読書ボランティアさんなどに向けた役立つ資料や情報を提供している。
書庫
書庫は地下にある。良く”整理・整頓の徹底”がされている。これが正確な貸出、及びレファレンスでの効率的な調査が行える所以だろう。
市町村図書館や県立学校からの貸し出し予約については、依頼のあった本を書棚から取り出して配送先ごとにまとめ、宅配便とトラック便を活用して配送している。この際にパネルなどもトラック便を利用して貸し出している。
取材後記
鳥取県立図書館を取材して感じたことに「情報公開」がある。取材をし、記事を書いていても、関係する情報源が多くあり、調べが容易であった。提供頂いた資料や冊子、詳細に紹介されているウェブサイト、そして取材に対応頂いたみなさん。記事のいたるところに引用させていただいた。県立図書館は、詳細、丁寧に・分かりやすく・多くの情報を公開している。是非、訪れてほしい。
(菅原)