大阪産業労働資料館 エル・ライブラリー

2016年度Library of the Year優秀賞受賞館

(2017年2月25日 取材)

大阪産業労働資料館 エル・ライブラリー 谷合館長

2016年度Library of the Year優秀賞を受賞したエル・ライブラリーは、「逆境に負けない」という言葉がとてもふさわしい図書館である。運営資金が絶たれ、存続が危ぶまれるという困難にぶつかりながらも、様々な策を打ち出し、その壁を乗り越えていった。

インタビュー

エル・ライブラリーの概要

(敬称略)

【谷 合】

ここにある資料は大学図書館が持っていることが多い。でもそれでは一般市民は使えないです。ここはどなたでも使っていただけます。予約をしていただければ一点物資料もご案内します。その意味で市民に開かれた図書館であると思います。

これの一点物資料は普段も展示しているのですか?

【谷 合】

普段は展示していません。見学会の時に見ていただくのですが、定期的にはやっていませんので、事前に申込みがあればお見せします。

見学会で紹介するのは何かテーマを決めているのですか?

【谷 合】

どなたが来られるかによって、その相手の関心に合わせて案内するものとかも変えたりしますし、ざっくりどんなものがあるかをご案内するときもありますし、色々ですね。見学会も小人数しか入れないので、その人たちの顔色を見ながら。一方的に私が話すのではなくて、対話をしながらやっています。定期的な展示だと置いておくだけになりますが、それでは見ても分からないし、面白くないので、必ず解説付きで見てもらうようにしています。

取材時にも国民労務手帳についてご説明いただいた。

見学会はどういうところから、いらっしゃるのですか?

【谷 合】

図書館関係者から、見学させてくださいって申し込みが多いです。あとは研究者のグループとか個人です。個人で来られる場合に、こういう資料が見たいと事前にOPACで調査されてメールで送ってきます。その場合はこういうことを研究されているんだったら、他にこんな資料もありますからとご案内することもあります。
それはOPACでヒットしない資料が実はあるからです。専門図書館である以上、来館者に新たな発見とか気付きをしてもらえるような案内をしないとダメだと思っているので、専門性の高さをウリにしたいということです。

他にはどういう方法で紹介されていますか?

【谷 合】

資料専門ブログっていうのが作っています。資料を写真付きで案内していますが、タイトルもないものあり、難しいですね。どうしたらいいのかなっていつも思っています。それで今回サイトのリニューアルをして、トップページで資料を写真で出してみました。時々資料の写真を変えていけば、こういうレアな資料もあるのかと判ってもらえるかと思っています。

大阪の情報だけでなくて、全国のものを集めているのですか?

【谷 合】

全国の資料は自然に来たら集めるみたいな。積極的には集めていないですね。こういう一点物資料だって、積極的に欲しいとか下さいとか言ったわけでなくて、いつの間にか集まってきたというところがあって、たくさん集まってきたら、少し積極的に集めようかみたいな感じです。基本ほとんどの資料は寄贈です。

遺品とか、会社の中に眠っていたとかっていうのもあるでしょうね。

【谷 合】

そうそう、エル・ライブラリーじゃそういうのをちょっとずつ何十年もかけてアンテナを広げていって集めた結果です。機関型ではなく、蓄積・収集型ですね。自分で資料の収集先を開拓するか、もしくは持ってこられるのを待っているか。でも、資料っていうのはある程度、コレクションの核が出来てくると、あとは雪だるま式に増えるんです。資料が資料を呼ぶ。だからネットに、資料情報を紹介しておけば、自分の持っている資料を集めているところはないかなと思って、探している方に届き、それでまた集まります。

昔使われていた労働に関する書類。こういった資料がだんだんと増えていった。

こうして増えた資料は、今では書庫いっぱいに配架されている。

エル・ライブラリーの危機

【谷 合】

ここは、大阪社会労働運動史っていうのを編纂するためにできた法人なんです。1978年の設立ですが、もうすぐ40年ですね。私がバイトに来た時にはこのシリーズは1冊もなく、ちょうど第1巻を編纂するときでした。また、初代理事長が個人で膨大なコレクションを持っていまして、中江平次郎という労働組合の幹部だった人で、戦後すぐからずっと40年くらい幹部をしていた人です。その人の個人コレクションがものすごい量があって、コレクションの核になりました。

谷合館長が働き始めたころ、この大阪社会労働運動史が編纂され始めた。

平成12年からもともとうちが持っていた資料と大阪府が持っていた図書館の資料を合わせて提供することになって、利用者は増えて8年間で利用者を4倍にするという成果を生みましたが、橋下さんが知事になったらグレートリセットといって、大阪府の施設は全部売るとか、全部廃止するといったので、年度の途中でこの労働図書館は廃止されてしまいました。

それまでは府立だったのですか?

【谷 合】

大阪府から委託金をもらって運営していました。
それと、もともとここにあった非公開の資料室は、資料室運営の補助金が府から出ていて、両方合わせて年間運営費用の7割が公的資金だったのですが、これが0になったんです。

それは厳しいですね。

【谷 合】

その状態でエル・ライブラリーを立ち上げたわけですね。資金ゼロになりましたが労働組合等から、年1,000万円くらいは寄付があります。でもここの家賃があるわけで、家賃と光熱費・通信費を引いたら、人件費がまったくゼロになるわけです。だから私たちは自分の給料がほしかったら、とにかく稼ぐしかないっていう状態から始めたわけです。大阪府の労働図書館が廃止になった翌日の8月1日に「エル・ライブラリー設立の趣旨」を公表して寄付を集め始めました。寄付がないと運営できませんから。

古本や古着を販売し、資金集めに励む。
雑貨なども販売している。

利用者層

【谷 合】

利用者は、誰かというと企業の人事担当者、社会保険労務士、法律事務所、あと労働組合の幹部といったような人たちですね。特に今の時期は、新入社員研修のDVD。もう取り合い状態。これ貸し出ししているところがないですから。中小企業はやっぱり自分のところでDVDは買えないので、そういう人たちがサポート会員というかたちで寄付をくれて、利用しています。サポート会費を払えば借りられる仕組みですが、企業にしたら利用料のようだと思っているようです。

特殊な資料はやっぱり研究者が使うものですが、一般市民の方が見学したいと仰ったら、見学していただけるようにしています。ただし、ふらっと来られてもじゃあご案内しますとは出来ないので、予約してくださいとか、日を改めて来ていただけますかとかいうことになってしまいます。でもここまで足を運んでくださった人を手ぶらでお帰しするのは申し訳ないから、なんらかのかたちでは情報は少し持って帰っていただけるようにはしたいと思っています。

予約を行えば、非常に価値のあるポスターを閲覧することができる。