伊東直登氏

図書館が編むネットワークから生まれる図書館サービス

今回は、『元気な学校図書館プロジェクト』で取り上げた塩尻市立図書館において、前図書館長を務めていらした伊東氏に、公立図書館と学校図書館の連携について詳しくお話しいただきます。

伊東 直登 氏(いとう なおと)

松本大学図書館長・前長野県塩尻市立図書館長・長野県図書館協会副会長・松本市図書館協議会会長

りぶしるホームページで、公立図書館と学校図書館の連携について、塩尻市の事例を取り上げていただきました。
行政の縦割りを知っている方には、市立図書館と学校図書館の職員を一元化するなどという取り組みに、さまざまなご意見やご心配をいただいているのだろうと想像するに難くありません。その内容については、紹介ページに任せるとして、そもそもそこにどのような図書館経営の考え方があるのかという点について、ここで触れてみたいと思います。

(参照)「長野県 塩尻市立図書館 ―学校連携―」

図書館がめざしたい知のネットワーク

図書館は、図書館サービスを駆使して地域に役立ちたい、役立つものになるべきだと考えています。そのための図書館の武器は「資料」と「人(職員)」です。
資料は、蔵書に限りがあっても大きな図書館ネットワークに支えられています。しかし、さらに外側の知識や人の限界に対しては、資料のようにシステム化されたものはありません。それを補うのが、館外との人的ネットワークです。
少し図書館風に言えば、図書館サービスは、0類から9類までのあらゆる分野を網羅し対応しなければなりません。しかし、たとえ何人もが役割分担をしたとしても、森羅万象に対応できるはずはありません。だからこそ、それぞれの分野につながる多様な人や組織と積極的につながってこそ、今までに無いサービスを創造し、地域に役立つ総合的なサービスが生み出せると考えるわけです。

地域に貢献するための公立図書館と学校図書館の連携

そうした多岐に渡るつながりの中で、公立図書館と学校図書館が、連携しようと考えることに無理はあるでしょうか。公立図書館の職員と学校司書が一緒になって、子どもたちや学校のために汗を流してもいいではないかと。
連携への一歩を踏み出し、両者が一つのチームになることで、情報交換、人事交流、共同の研修や事業等々、今までやれなかった、あるいは考えもしなかった様々な効果や可能性が姿を現してきたのです。
もちろん、組織、予算、慣例等々、さまざまな課題も並行して具現化します。事実、この取り組みで最初に得られたものは、お互いが同じ地域にあって、しかも同じ「図書館」という機能の中で活動していながら、いかにお互いを知らなかったかというショックでした。これは大きな課題です。しかし、自身の館から外へ目を転ずる意識が生まれたからこそ初めて気づいた発見であり、それが分かったことは大きな一歩です。

ネットワーク化が生む多様な図書館サービス

どんな図書館サービスでも、その土地や図書館のさまざまな事情や背景なくしてはありえません。他館の取り組みを、自館流に再編集することこそが大切であり、それを支え、方向付けるものが図書館の経営方針です。塩尻での取り組みが、どこかで何かの参考になれば幸いです。
図書館利用の促進やサービス向上に向けては、さまざまな機能とつながるネットワーク化が重要なのでは、と書いてきました。公立図書館と学校図書館の連携は、その一例です。図書館がサービスの視野を地平線の先にまで伸ばし、その存在意義を発信するのであれば、考えうる多様な主体とつながり、地域になくてはならない施設となる、という想いが塩尻市立図書館の諸事業を支えています。

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