新谷良文氏
自治体による学校司書の体系化と位置づけを
北広島市図書館長として退職の後、指定管理者である市立釧路図書館長を経験し、平成29年4月より再度北広島市図書館長として復職するという珍しい経歴の持ち主です。今回は、自治体における学校司書配置の意義と課題についてお話ししていただきます。
新谷 良文 氏(あらやよしふみ)
北広島市教育部図書館計画担当参事(北広島市図書館長)・近畿大学通信教育部学外スクーリング講師、札幌国際大学図書館学コース非常勤講師。パスファインダー倶楽部・北海道 副会長。ビジネス支援図書館推進協議会理事。
―執筆(共著)―
図書館の生産性「市場化の時代を生き抜く図書館-指定管理者制度による図書館経営とその評価」H19 時事通信社
北広島市の図書館ネットワーク「困ったときには図書館へ2 学校図書館の挑戦と可能性」H27 悠光堂
学校司書配置の先を見る
平成26年の学校図書館法改正以降、学校司書配置に対する議会などでの追及が盛んになってきています。特に全国平均を大きく下回る配置率の北海道では無理もないことと思いますが、子どもの居場所は学校だけではありません。
平成20年に図書館法の改正が行われ、図書館は「学校教育を援助し、及び家庭教育の向上に資することとなるよう」にと定められました。子どもの読書活動推進については、公共図書館もまた非常に広くて重い責任を負っていると言えます。 公共であれ、学校であれ、私たち図書館員は、地域の子どもの読書活動を推進するという全体の目的を見失わないようにしたいものです。
北広島市学校図書センター
平成13年「子どもの読書活動の推進に関する法律」が施行され、翌年「子どもの読書活動推進に関する基本的な計画」が閣議決定されました。その後、各地方自治体で計画の策定が行われ、北広島市も、平成18年から第1次、第2次と策定してきています。北広島市の場合、計画の学校図書館に関わる部分は、市図書館内に設置された「学校図書センター」を中心に組み立てられているのが特徴で、センターは以下の業務を行ってきました。
①学校図書の発注から受入に関わる物流の一本化
②蔵書データの一括管理とネットワークシステムの公共との一体化
③授業等での資料活用等での相談・協力窓口の一本化
センターが上記の➀~➂を一元的に行うことで、学校(司書教諭)は必要な本を選び、その活用を考えることに専念することができると考えたからです。当時、国が推奨していた「学校図書館支援センター」とは別物で、北広島市は「支援」いう言葉を、あえて名称に付けませんでした。多少乱暴な考えですが、連携しなければならない仕事を作り、それを本来業務とする基盤(センター)を作ることで、これは市の仕事でもあり学校の仕事でもあると理解していただきたかったからです。本当に「支援」が必要なのは子ども(の読書活動)であり、地域の図書館と学校がその課題を共有することこそが重要だと思います。
センター立ち上げから5年後、学校図書館の基盤整備に一応の目途が立った段階で、中学校6校で図書館司書3名の巡回を始めました。さらに今年度からは、今後の学校図書館の動きを読んだ上で、地域の子どもの読書活動推進の計画を再度練り直すという作業に取りかかり、次年度からの事業化を図っています。
「温度差」を埋める
法制化された以上、学校司書配置は必定とされていくでしょう。私たち図書館員が考えなければならないのは、その先だと思います。
公共図書館にすれば児童サービスは大きなウェイトを占めていますが、学校側にすれば図書館以外にも切迫した課題が多いというのが現状でしょう。職業である以上、待遇や人事面も重要な要素ではありますが、経験上、司書としてのモチベーションを下げる一番大きな要因は、この「温度差」だと思っており、それを埋めるようなバックアップを、今後も公共側が続けていく必要があると思っています。
例えば、学校司書の場合、簡単にカウンターを離れられない一人職場であることが以前から大きな課題となっており、それを止む無しとするような「低温状態」が続くことで、学校図書館(司書)の動きが鈍り、「孤立化」・「風化」・「ガラパゴス化」してしまう事例をずいぶんと見てきました。このような事例の発生率が下がらないまま配置件数だけが増えていくという状況だけは防がなくてはならないと思っています。
自治体計画による学校司書の体系化
学校司書配置には、学校教育側が責任をもって整理していかなければならない今後の課題が未だ多く残っています。
一方、自治体は「子どもの読書活動推進計画」などに学校司書配置を組み込み、推進体制に位置付けるなどの体系化が必要です。この計画は、学校という「関所」をくぐらなければ連携の門を叩けない私たち司書にとっての有効な「通行手形」になるものと考えます。
しかし、どんなに良い計画を立て、人や事業費を費やしても、肝心の図書館員がカウンターを離れ、地域社会に根付いていく意欲を持たなければ課題解決に向けた連携は成り立ちません。
電子書籍の普及や貸出業務の自動化・セルフ化など、図書館のカウンターが、いわゆる業務カウンターから案内カウンターへと変貌しつつある時、これを好機と見るか失地と見るか、図書館員の仕事自体も大きな分かれ道に近づいているという気がしています。