白河市長・教育長インタビュー(1)

―未来を拓く子どもたちへ―

福島県白河市

<白河市役所>

所在地:〒961-8602 福島県白河市八幡小路7番地1
電話:0248-22-1111(代表)

  • 白河市は福島県南部に位置し、栃木県と隣接している人口6.2万人、面積305キロ平方メートルの市である。かつて藩主であった松平定信公は、子弟や庶民の教育にも力を注いだことでも知られ、今でも市民から慕われている。
  • 鈴木市長は現在、3期目。教育文化分野も重要な政策の柱である。中心市街地活性化基本計画にて、平成23年7月市立図書館を移転し、開館した。福島県内では最も早く、学校司書を配置して学校図書館の環境整備と人材の育成を進める。

(参考)白河市ホームページ

鈴木市長インタビュー

白河市長 鈴木 和夫 氏

【略歴】
・昭和24年(西暦1949年)11月12日生。
・早稲田大学法学部卒業(昭和47年3月)後、福島県庁に入庁。
 商工労働部政策監、相双地方振興局長、企業局長などを歴任。
・平成19年7月29日に白河市長に就任。現在、3期目。

本日はお忙しいところ時間を割いていただき、ありがとうございます。
仲間とさまざまな地域の課題を議論してきましたが、最終的には「教育」にたどり着き、この活動『元気な学校図書館プロジェクト』を始めました。
はじめに長年、教育行政分野に尽力されている鈴木市長のお持ちになっている「子ども像」についてお聞かせください。

【市 長】

いつの時代であっても、国家、地域そして過去、現在、未来にわたって「教育」が最重要であることには変わりありません。特に、今この時代に子どもたちが成長していく中で、市としてどのようなことが支援できるか、育っていく環境をどのように作っていくことができるかだと考えています。
そこで、白河市では平成27年4月1日に教育大綱をつくりました。要約すると「知力」「体力」そして「五感を育む感性」、バランスの取れた人間を育てていこうという指針です。困難なことを乗り越える、新しいことを切り拓いていく、「人間力」をどのように身に付けて育ってもらうか、それが重要だと考えます。人間力とはまず、「知力」と、それに併せた「体力」です。算数や国語、理科ができることは、社会に出ていくうえでの基礎学力で、体力もそうです。それと、人間が長い歴史の中で磨き上げてきた「五感」「感性」です。これらのことがバランス良く身についた子どもに育ってほしい。将来的に、世界に羽ばたく人もいるでしょうし、ここ白河市の地域を支える人もいると思います。

白河市はコンピエーニュ市(フランス共和国)と姉妹都市であり、幾度か訪れていますが、強く感じるのは「フランスは、故郷、歴史・文化に強い思いを持っている」ことです。世界を俯瞰しながら自分たちの生まれた故郷のことをとうとうとお話しされ、二つの視点を持った人を育てている。イギリスにも見られますように、ヨーロッパでは伝統的なエリート教育に定評がありますが、「歴史観」や「人とは?」「音楽等の芸術」を子どもたちに徹底的に教えている。芸術は感性です。そして、人間力のある人を育成している。ここ福島、白河の地でも人間力のある人を育成したい。教育大綱にそのような思いを込めています。

白河市では「子ども読書活動推進計画」をたて、具体的な事業をすすめています。学校には司書の配置が進んでいますが、どのような経緯であるのか、目標などはどのようになっていますか。

【市 長】

「バランスの取れた感性豊かな子どもを育成していくこと」を先ほど述べました。いまはネット社会であり、誰でも情報が取れます。古典を始めとして本と出会う、本を読みこむことで子どもたちの感性、想像力は研ぎ澄まされてくる。本だけではなく、芸術、お芝居もそうです。感性を豊かにし、感動を呼びおこす意味で、本は重要です。その本と出会う、めぐり合うところは街の中にある図書館ですが、子どもたち誰でも、いつでも行けるわけではない。本はやはり学校や家にあるべきです。学校のなかには、本も整理されておらず、あまり子どもたちが利用したがらない図書館もあります。

そのため、基礎的な環境を整備すべく学校司書をおくことにしました。学校には司書教諭がおりますが多忙であり、残念ながらその役割を発揮できない。ならば、市の方で学校司書を配置しようと判断し、小学校から順次配置しております。今年度小学校は11校まで配置し、来年度(29年度)は残り4校と中学校に配置を始めます。学校司書がいれば、図書館が整備され、見やすく使いやすい環境を用意してくれる。このようなことで本と出会い、触れ合う中で、「子どもたちの限りない才能を引き出して伸ばす」具体策が取れることだと思います。このような環境をつくり、子どもたちに提供していくこと、これが行政の仕事です。

先日、市立小野田小学校に伺い、図書館をご案内頂きました。ビブリオバトル等の活動も始め、すでに学校図書館の整備効果が生まれているように感じました。また、校長先生は地域の子どもたちの表現力、発信力を高めたいとお話しされていました。学校図書館、学校司書さんにどのような期待をお持ちですか。

【市 長】

図書館はコミュニケーション力を高める場でもあります。本と出会う、触れ合うことを述べてきましたが、長文を書く力は基礎的な力であり、ネット社会であればある程、コミュニケーション力が求められます。図書館はさまざまな役割を持った「場」でもあると思います。

図書館は4つのファクターで支えられています。つまり、学校、市立図書館、教育委員会、それと地域ボランティアです。これまで市立図書館の整備には注力してきましたし、館長も公募で優秀な方に来てもらいました。学校には学校司書が順次配置・強化され、調整役である学校教育課もその任を進めながら、本を揃え、環境も整備して子どもたちをバックアップしています。その中で、特に雰囲気づくりが必要で、保護者や地域の人たちとの関係が大切です。これは、最も難しいことでもあります。例として、佐賀県の伊万里市民図書館は多くの地域図書館ボランティアで支えられています。これから必要なことは地域の人たちと共に、学校・学校司書、図書館を支える雰囲気づくり、場づくり等、関係者のコンセンサスをつくりだすことだと思います。

行政、政治ではどうしても「形の有るもの」を作りがちになります。ハコモノ、ハードは一定年数あればできます。しかし、人作りや教育、感性の育成は形のないものです。形があるものだけでなく、形のないもの、見えないもの、人の内面を創り出すものも大事にすることが必要だと思います。

最後に白河市の子どもたちにメッセージをお願いします。

【市 長】

何事にも興味を持つこと、疑問をもつこと、好奇心をもって進むこと。「なぜなんだろう」「どうしてなんだろう」と問いかけながら毎日を過ごしてほしい、基本的な原理・原則を学んでほしいのです。エリートを育てるイギリスなどでは徹底して自国の歴史、世界の歴史を学ぶ。法律や経済はその後でも学べるので、ベーシックな分野(歴史や文化)を大切にしている。そのために、本をたくさん読んでほしいですし、演劇も映画もお芝居もたくさん見てほしい。自ら足を運び、自分の目で見て、自分で考えること。「どこかの本にこのように書いている」ではいけない。社会はワクワクすること、分からないことがたくさんあります。大人は分かったようなことを言っていますが、それを正しいと思ってはいけません。幅広く興味を持って、課題を見つけ、そして解決していく、そのような人間になってほしいと思います。

お忙しいところ、ありがとうございました。