栃木県河内郡 上三川町 (2)

学校間相互の理想的な資料の流れを作り上げた町

上三川町立坂上小学校

所在地: 〒329-0613 栃木県河内郡上三川町坂上628
電話: 0285-56-2074
蔵書数:6975冊(2016年9月現在)

左:余間さん(学校司書責任者兼明治中学校学校司書)
右:菊田さん(学校司書)

めざせ5000冊

全学年で、1年間に5000冊本を読むことを目標として、図書室内に掲示物を貼っている。
1人の児童が学年の目標冊数を読破するごとにシールを貼ることで、児童の読書意欲を刺激している。

図書室内に大きく掲載された、めざせ5000冊の状況

3年生になったら

坂上小学校では3年生になると、借りたい本をリクエストするカードを書くことができる。
1・2年生の児童はこのカードを書ける日が来るのを非常に楽しみにしているそうだ。

リクエストカードは記入後ポストに入れる

図書室クイズ

10月第4週までは読書週間としている。この期間に坂上小学校では読み聞かせや、図書委員会が「放送を使用した読み聞かせ劇」・ボランティアさんが「自作のペープサート」を行うほか、「図書室クイズ」というイベントを実施する。図書室クイズの内容は、低学年には本の持ち方や、返却日の問題、中学年には、図書室にある本の冊数を当てる問題や、本の内容に対する分類番号の問題、高学年には本の各部位の名称や、ある内容について書かれた本の請求記号を書き写す問題など、学年に応じた内容が作られている。児童全員がクイズに参加できるよう、全学年を2つに分け、それぞれ参加日を割り当てている。

図書室クイズの日は子どもたちでごった返す
学校司書がヒントを与えてくれることも

上三川町、学校図書館活性化にむけた取り組み

教員とのやりとり

学校図書館を活性化させる為に欠かせない要因として、先生方における学校図書館活用意識があげられる。学校図書館を「本を読む場所」のままで終わってしまいがちになる子どもたちに「知識」の場所であることも実感させるためには、先生方が授業の中で学校図書館を活用するという事もポイントであるからだ。
その点、上三川町では学校司書の積極的な働きかけにより、授業で学校図書館の利用が盛んに行われている。また学校図書館の利活用を継続させて行くためには、蔵書構成を充実させることはもちろんのこと、学校司書と先生との密なコミュニケーションも必要になってくる。
上三川町では、学校司書と先生とのコミュニケーションツールとして連絡ノートを使っているという。忙しい先生と、図書室に居られる時間に制限のある学校司書とを繋ぐ重要なツールとなっている。

レファレンスの記録

学校図書館に来てもらい、その効果を発揮する為にはどのような本を揃えておくか、といった点も考える必要がある。
上三川町では教員から、学校司書が直接学習内容に関する本のリクエストを受け付けているが、それだけではなく受けたリクエストの内容と、用意した本のリストを作成している。更にそのリストには書名だけではなく、「実際に授業で活用出来たか」といったコメントも記録している。このリストは選書の際の重要な参考情報となる。

緻密かつ効果的な学校間連携

学校図書館で一年間に使うことのできる資料予算にはやはり限度がある。ほとんどの学校は欲しいと思ったものを全て取り揃える事が出来ないのが実情だ。
これに対応するために上三川町が出した結論は「みんなで集めてみんなで使う」、「学校間の資料相互貸借のシステムを完璧に作りあげること」である。
各校では最低限これだけは必要だと思われるものは購入する。そして購入していない資料が必要となった場合には、別の学校からその資料を相互貸借して対応する。相互貸借の回数が多く常備しておく必要があると判断した場合は、借り受け館のほうでもその本を購入する。全校で所蔵するものと各校でそれぞれそろえるものとを意識して、蔵書構成をそれぞれの学校で作り上げているのである。限りある予算や配架スペースで、無駄なく、子どもたちに十分な教育支援を行える、理想的な資料の活用方法と言える。

上三川町立図書館

所在地:〒329-0611 栃木県河内郡上三川町大字上三川5040
電話:0285-56-7825 FAX:0285-56-7826
蔵書数:125262冊(2016年9月現在)

右:前館長:谷口さん
左:館長補佐:高山さん

上三川町立図書館では、学校の授業で使う資料収集は学校が行うため、公立図書館として大量にそろえる必要がない。その結果本来の目的である「幅広い年代を加味した資料収集」に特化することが出来ている。 また授業に使う本が公立図書館から多数借りられて、一般利用者へ提供できなくなってしまうといった事態がなくなったことも公共図書館としては嬉しいことだ。 学校図書館の開いていない長期休み期間中に、公立図書館で学校図書館の本を借り受け、学習関係のイベントを実施する際に利用しているという点も面白い。

上三川町では他のまちの公立図書館に比べて、学校で使うような資料の所蔵冊数が少なく済んでいる、と職員さんが言われる通り、それぞれが自館の必要な資料を把握し、公立図書館と学校図書館、そして学校間の繋がりができたことが、理想的な資料活用を可能とした要因と考えられる。

また上三川町の学校間連携を支えるものとして町立図書館の役割は大きい。学校司書責任者が町図書館を本拠地として動いているので、各学校司書も町図書館に頻繁に来館する。また業務用携帯電話等のツールも利用している。これにより学校司書どうしの情報共有を図ることができる。 また学校間相互貸借を行う際の大きな障壁となるのが「物流」であるが、上三川町ではシルバー人材センターと「物流配送」の委託契約を行い、図書館の車「なかよし号」を運営している。これにより一般の物流企業に依頼するよりコストが抑えられ、かつ雇用の面でも効果を発揮している。その「なかよし号」に学校司書も同乗していく、という点もポイントだ。同乗している学校司書は配送先の学校へ本を届けると同時に、その学校で資料を使えるように受入処理を行うのである。なかよし号に乗車している学校司書がこの処理が行うことで、各学校の学校司書・特に教師たちは配送された資料をすぐに使うことができる。

町立図書館の館内には、子どもたちが喜びそうな工夫がいたるところに散りばめられている。

上三川町立図書館のマスコットキャラクター、ちびロボ。
階段の手すりにちびロボを置いて
子どもが手すりで遊ばないように工夫している。
ぬいぐるみおとまり会でプレゼントされるアルバムのサンプル。
子どもの小さな手でも持ちやすい大きさで、色や形も楽しげなデザインになっている。
カウンター前にはチラシや、本日のBGMとして使用しているCDなどを設置している。
チラシはA6サイズ前後と小さめのデザインになっており、本にはさんで持ち帰りやすい大きさになっている。
ぬいぐるみが置かれたベンチ付近の書架には、絵本が配架されている。
上三川町立図書館で配布されている読書通帳。
本を借りるとポイントが貯まり、貯めたポイントを景品と交換することができるというもの。
通帳は、図書館のマスコットキャラクターである、「かんぴょーた」デザインと「ちびロボ」デザインの2種類から選べる。
通帳を開いてもキャラクターが描かれており、楽しいデザイン。
左下のページを拡大したもの。

※読書通帳のイベントは実施期間が決まっているため、詳しい実施時期や期間については上三川町立図書館ホームページにてご確認ください。

あとがき

今回は「学校間連携」をお伺いしようと思っていたが、ここまで完成させているのか、という驚きをもって取材を終える事が出来た。
もちろん、このような物流システムを作り上げるには相当のご苦労があったことは想像に難くないのだが、その成果は自信を持って全国に紹介できると確信している。学校図書館図書標準はクラス数に合わせた学校図書館でそろえるべき蔵書数をいうが、ただ冊数だけにとらわれることなく、真の意味で「いかに必要な時に必要な本を利用者に届けられるか」にフォーカスし、人・物・情報の連携システムを作り上げた上三川町の学校司書、公共図書館職員、それを支える人たちの功績を改めて賞賛したい。
今回の取材に快く応じて下さった皆さまに感謝いたします。