埼玉県 県立越谷総合技術高等学校

「社会と企業が求める産業人材の育成を目指す」実践的な教育で図書館を活用する高等学校とは。

(2018年6月27日取材)

学校紹介

所在地:〒343-0856 埼玉県越谷市谷中町3-100-1
電話:048-966-4155/FAX:048-960-1185
設立:昭和61年4月
E-mail:q664155【★】pref.saitama.lg.jp
(【★】を@に替えてください)
HP:http://www.ksg-h.spec.ed.jp

学科:電子機械科(79名:平成31年度募集は39名)
情報技術科(40名:基本情報技術者試験の午前試験免除の認定校)
流通経済科(40名) 情報処理科(40名) 服飾デザイン科(40名)
食物調理科(39名:厚生労働大臣指定調理師養成施設)
なお、取得可能な資格が多数あり。詳しくはこちらをご覧下さい。
司書:1名(専任、正規職員)

教育目標

社会の有為な形成者として、人格の完成をめざすとともに、産業経済の変化に対応できる、健康で明るくたくましい、創造性豊かで柔軟性を備えた、人間性に富む産業人材を育成する。

教育方針

  1. 全職員の英知を結集して、生徒一人一人を生かした、特色ある実践的な教育を行う。
  2. 生徒一人一人の心情をよく理解するとともに、教職員・生徒・保護者が互いに強い信頼に結ばれた、他の人権を尊重し心の触れ合う教育を行う。
  3. 学習や勤労による達成感を体得させる授業の創造をはじめ、学校生活に張りを持たせる教育を行う。
  4. 学科間の交流を図り、多様な人間関係を通して、豊かな人間性を育てる。

取材にご協力頂いた方々

校長 市村 洋子 様
服飾デザイン科主任 加藤 ユミ 様
服飾デザイン科 大竹 晃子 様、竹田 真奈美 様
主任司書 横山 史江 様
図書委員(生徒)の皆さん

学校長インタビュー

市村校長は以前、教頭として越谷総合技術高等学校に勤務。その後特別支援学校に転任し、再度、校長として赴任された。

――学校の経営方針と図書館教育に対するお考えは

先輩たちの課題研究資料は
展示棚に面出しして手に取りやすい場所に配架

校長:本校は工業系、商業系、家政系からなる専門学科の高校ですので、多くの生徒たちは目的意識をもって入学してきます。3年生になると、課題研究がありますが、自らテーマを決め、学び、調べ、研究し、発表を行います。図書館には各学科に関する専門書が多数用意されています。授業をすすめる上で「図書館の力」は大きいと考えます。

――図書館を活用する上で、教職員の理解、協力は

横山司書

校長:毎日、朝8時半から全職員でミーティングを開いています。その中で、各学科から外部講師などの特別な授業の案内がなされ、各学科の先生方が協力体制をとったり、授業に参加したりしています。当校は6学科がありますので、情報共有を図ってこのメリットを生かしています。こうした場で、横山先生(司書)は他の教職員に図書館をいつも、アピールしてくれていますし、明るい。お陰で、「楽しい図書館」であると思っています。

――埼玉県には図書館ネットワークがありますが

校長:各学校には司書が一人ですが、学校間でつながることは活動の幅が広がります。前任校は特別支援学校でしたが、残念ながら司書がおりませんでした。しかし、(図書館ネットワークの)司書さんたちの協力で授業に使える沢山の本を届けてくれました。大変ありがたく思いました。

――最後に生徒さんにメッセージを

校長:本校では卒業後、半分程が社会人となります。先行き不透明で難しい時代となるとは思いますが、自分の夢、志を持った社会人となってほしい。そのためには情操教育の場である図書館を大切にしていきたいと考えています。

図書館は実践的な教育の場

服飾デザイン科・調べ学習発表会に参加

◇テーマ
生活産業基礎(教科)の中から、「1950年から年代毎に、流行のファッション」を学び、調べ、新聞を作成し、発表する。

◇グループ編成
1グループ3~4名で合計7グループ。
それぞれのグループに1950年以降、10年刻みで調べる年代を割り当て。

◇学習の観点と図書館からのサポート
その年代の出来事、流行の色調・デザインやことば、活躍したデザイナー、ライフスタイルなど、新聞に盛り込むべきポイントを予め服飾デザイン科の先生方に確認し、そのポイントごとに関連資料コーナーを用意する。コーナーは調べ期間が終了するまで館内に常設してあり、休み時間や放課後でも利用可能。
今回の新聞づくりに先立ち、この授業では、”ファッションに関わる職業・資格”の調べ学習を5月に行っている。そのため、図書館の使い方について生徒も慣れたところではあるが、司書もフロアに出て適宜資料の紹介や相談に応じた。資料の動き、使われ方も観察し、翌年に向けて、質量ともにブラッシュアップするようにしている。

年代別ファッション調べのための
資料コーナー①
年代別ファッション調べのための
資料コーナー②

◇情報の源
図書、雑誌、新聞など。インターネット、公立図書館なども活用している。
1950年代以降のテーマなので家庭での会話も想定される。

◇新聞製作

A3 1枚。イラスト付きで記事化。キャッチコピー(タイトル)、紙面構成をグループで議論し、作成。

◇発表・採点
1グループ7分程度。(タイムキーパーあり)。発表者はその年代の服を実際に着用したり、BGMを流したりと、趣向を凝らす。予め、全員に採点表が配られており、相互に評価を行う。

1950年代に流行した真知子巻きを実演
1960年代のファッションを芝居も交えて紹介
当時のみゆき族スタイルを忠実に再現
ファッションだけではなく、メイクも当時流行した
“ガングロ”を再現。

◇講評

加藤教諭

発表後、学科主任の加藤先生より講評。
「キャッチコピーが良くできており、新聞の編集に工夫がみられる。発表は自分の意見を述べることが大切。少々、棒読みのグループがある。発表には長時間の学習と討議があったと思うが、分担して作業し、情報共有を図って全体を作り上げるのは3年生のファッションショーでも必要なこと。今回学んだことをファッションショーにもつなげていってほしい」


単に、図書館を本や雑誌などの情報インプット源だけではなく、新聞製作や発表等のアウトプットの場として活用するすばらしい授業である。しかも、先生方が一つのチームとして授業にあたっている。この授業を一歩進めればアクティブラーニングになるのではないか。埼玉県はアクティブラーニングの先進県。図書館は最適の場でもある。

図書館を「場」として活用

新歓ミニコンサート(音楽部とのコラボ)

調べ学習発表会でも見られるように、図書館を「場」として最大限に活用している。服飾デザイン科では発表会を図書館で行うことで、場を劇場化し、ショー・ビジネスの舞台と変えて楽しさを演出。また、音楽部がコンサート会場として図書館で新入生の歓迎会を行っている。さまざまな活用アイデアで横山司書の頭の中は一杯。あれもこれもと話される表情は楽しさ一杯。校長先生の話される「楽しい図書館」は横山司書がプロデュースしている。

各学科の学びに役立つ蔵書づくり

司書が新聞から日々の出来事を切り抜き
学科に合わせたジャンルごとにストック

6つの学科に関する日々の出来事を新聞から拾い、切り抜いてストック。課題研究の対象になることが多い地元・越谷や埼玉県のローカル資料も収集・保存。調べ学習や進学のための小論文対策にも活用している。

知識・技術の進展と学習内容の変化に対応し、また、資料が使いやすく並ぶ書架であることを大切にしている。特に、IT技術は日進月歩。古い本は適切に除籍し、最新の図書を追加。部分的に分類付与をNDCから変更し、学科の本をまとめて資料を見つけやすくする工夫をしている。「専門的な分野の本は、街の本屋さんより多いかも(笑)。」と横山司書。確かに、例として工業技術分野をみると、各種マイコン、プログラム言語、ロボット、トランジスタ、レーザー加工など専門書が沢山ある。これらの本は高校生には高くて買いづらいものが多く、リクエスト(購入希望)も活発だとのこと。

社会人として役立つスキルをサポートする蔵書
情報技術や電子機械関連の書棚
縫い方から衣装の種類まで豊富に揃う
服飾デザイン系の書棚
厚生労働大臣指定調理師養成施設でもある
食物調理科向けの本格的な蔵書

図書館を支える自主的で活発な図書委員会活動

図書館をもっと利用してもらうために司書と
図書委員会が協力して作成したカプセルトイ

委員は各クラス1名ずつ選ばれた、やる気いっぱいの精鋭たちである。カウンターでの貸出・返却受付、書架の整理、展示コーナーの設置、掲示物作成などを行う。専門学科の勉強は課題も多く、生徒たちは多忙な毎日であるが、その合間をぬって自主的・積極的に活動している。

学科間連携は学校の基本方針。学校の横断的な活動、イベントにも図書委員のつながりが一役。”調べもの””ものつくり”など、図書館を利用して仲間同士が協働作業を進めている。

図書委員長に少々、意地悪な質問。「何でも、スマホで調べられるよね?」。答えは「安心できるのは図書館の情報。位置情報確認などはスマホのほうが便利ですけど」。情報の洪水の中にある現代。安心して頼れるのは学校図書館である。ちなみに越総はスマホ校内使用禁止である。

アート部とのコラボ展示(POPも生徒作)
生徒企画「秋の読書祭」
おすすめ本コーナー(POPも生徒作)
読書推進企画
「おすすめ本100連発」

各校の図書館活動を支える埼玉県高等学校図書館研究会と図書館ネットワーク

埼玉県では高等学校図書館研究会(高図研)が極めて重要な役割を担っている。高図研は埼玉県高等学校連合教育研究会(高連研)に属する公的な組織で、図書館教育に係る諸事業、調査・研究、研修など、司書と教諭が協力して活動している。埼玉県の中で東部、西部、南部、北部の4地区に分かれている。

(取材協力 石黒 順子 様 越ヶ谷高等学校 主任司書兼担当部長)

また、各地域で長年の司書のつながりをもとに、地区によっては相互協力ネットワークが形成されてきた。現在では県教育委員会のバックアップもあり、全県を17地区に分割したネットワーク組織ができている。越谷総合技術高等学校は東部Aネットワークに属する。

このネットワークは、越谷市内7高校+草加市内1校で組織され、授業支援で多くの本が必要になると、高図研のサイト上にあるシステムやメールで求本ができ、他校からそのテーマの本が届くようになっている。また、同サイトにはISBN目録での検索機能も用意されており、他校の所蔵本がわかるので、ピンポイントでリクエスト本の貸出依頼をすることもある。物流は各校の司書の車での輪番制となっており、求本・配本システムとして定着してきた。より専門的で高度な資料は県立図書館にアクセスし所蔵していれば、県立図書館が最寄りの市町村図書館に協力車を使って届けてくれる。各校はここで受け取る仕組みになっている。

まとめ

教職員が協力して学校図書館を活用し、そして次につなげている優れた事例である。学校の教育方針に沿って、図書館を授業などの「場」としても多面的に活用し、実践的な教育をすすめている。図書館ネットワークの教育インフラもすばらしい。

取材後記

発表会が終わりかけた頃、「一言お願いしてもいいですか」とO先生。「えっ、(部外者の)私が・・」。一瞬、躊躇。その一方、「これは、チャンス。高校生の前で一言話せるとは何よりも若返りの特効薬」と、ずうずうしく生徒の前へ。そして、このようなことを話した。「(発表会のことに触れて)大切なことはどう伝えたかではなく、どのように伝わったかです。プレゼンは訓練すれば上達します。しかし、社会に出てお客様や仲間がどのように受け止めたかを感じ取る力が大切です」。さまざまな取材先で”感じ取る力、感性、五感”という言葉を聴いた。これを高めるには”本、読書、図書館”が重要です”と多くの方々が話されている。
越総には、すばらしい図書館環境があり授業で活用されている。多くの先生方、仲間がそれを支えている。”このような学校で学びたかった。”同行したアシスタントの渡辺が思わずポツリ。生徒の皆さん、社会に出たら必ず気づきます。「越総は、いい学校だったと!」

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