埼玉県高等学校図書館研究会(高図研)

高図研が高等学校の図書館教育を支える!

(2018年7月6日取材)

はじめに

埼玉県では1960年代から、高等学校への学校司書配置が進んできた。1975年には、県教育委員会が司書採用試験による県立図書館と一括独自採用を開始し、1979年までには高等学校全校に司書職の配置を完了している。

司書は図書館教育を進めていくうえで、重要な役割を担っている。そして、日々活動をしている。埼玉県では教諭・司書が一体となった高等学校図書館研究会が活動を牽引。また、県下18の図書館ネットワークが学校をつないでいる。

取材に協力いただいた方々

宮崎 健太郎 様

埼玉県高等学校図書館研究会研究部長、
県立入間向陽高等学校 主任司書

埼玉県高等学校図書館研究会とは

埼玉県内の高等学校と特別支援学校に勤める教職員・学校司書で構成している研究団体。略称、埼玉高図研。参加校は182校。(市立、国立大学付属と、一部の私立、特別支援学校を含む。)事務局は会長の指定する学校内に置いている。

(2018年4月現在)
会長 山本 美千代(埼玉県立富士見高等学校校長)
事務局:埼玉県立富士見高等学校内
e-Mail:tosyokan+q【★】krk.spec.ed.jp
(【★】を@に替えてください)
HP:新しいウィンドウで開きますhttp://www2.spec.ed.jp/krk/tosyokan/

研究会は今年(2018年)で設立60年になる。活動内容等を記した年報は、埼玉県立熊谷図書館等で閲覧できる。

教諭・司書の両輪で組織を運営

支部や総務部、事業部、研究部などを組織におく。役員は教諭職、司書職それぞれから選出され、双方の職で両輪となった活動を行っている。

支部は東部、西部、南部、北部の4地区にある。

各種研修会や交流会、コンクール、研究集会、専門委員会など多くの活動を主催。専門委員会には、読書指導委員会、レファレンス委員会、特別支援教育研究委員会、図書館協力委員会、文化活動委員会、資料委員会、白書委員会、ISBN総合目録委員会、高図研サイト委員会、「読書案内」改訂委員会、私学高校図書館活性化委員会など多くの委員会がある。

夏季研究集会(全体会)の様子
夏季研究集会(分科会)の様子
夏季研究集会(分科会)の様子

活動は毎年、会報「埼玉高図研年報」にまとめ、発行。この中には予算や資料、利用状況など加盟校の図書館に関わる情報と分析や司書に関する調査をまとめた「高図研白書」も掲載している。司書のみで構成する司書部会もあり、新任の司書研修や情報交換会などを開催している。また、高等学校図書館の振興・充実、司書試験などについて県教育委員会に要請(意見書の提出)を行っている。
近年、教員の多忙化もあって、司書主体の活動が徐々に増加傾向にある。

高図研のWebサイト

Webサイトは埼玉県の情報セキュリティポリシーに沿って運用され、外部向け(一般)のページと、「高図研.net」と呼ばれる、埼玉高図研の会員(参加校182校の担当教諭と司書)向けページからなっている。

会員向けページは、会務の連絡などや委員会等の組織ごとに情報共有を行うグループウェアとして活用されている。

また、会員向けページ内にはISBN総合目録がある。元埼玉県立図書館職員の間部豊氏の協力を得て立ち上げたこの目録を使って、探している資料が県内の他校にないか、探せるようになっている。

この蔵書を相互に活用し、授業に役立てているのが、”図書館ネットワーク”であり、情報と物流を支えている。

“図書館ネットワーク”が学校図書館を支える

司書の全校配置と図書館ネットワークの発足

1970年代以降、生徒の急激な増加によって、埼玉県では高等学校の新設が続いた。それまでは、各校が必要に応じて学校司書にあたる職員を配置していたが、1975年県の方針で司書職の採用(任用替えを含む)を開始し、1979年までに全日制すべての高等学校に司書職の配置を完了した。

※詳細な経緯は、埼玉県高校図書館フェスティバルHPに記載されている。

1985年ごろから、西部地区では司書仲間の自発的な学習活動が本格化、発展し、地区独自の相互貸借を始める。効率的な図書の利用を図る総合目録を整備。もはや学校図書館も単館運用の時代ではない、専門職(司書)を生かしたいとの考えから、草の根的な活動を継続。総合目録の整備までは進まなかったものの、同様な活動は東部地区でも広まり、学校間の申し合わせの形で、ネットワーク活動は西部地区、東部地区を中心に定着した。

4地区18ネットワーク、参加校はのべ146校

2011年より、県教育委員会による県立学校図書館ネットワーク事業が始まり、順次、ネットワークが設置された。各地で自発的に行われてきた活動は、県の事業へと発展し、全県的に展開されるようになった。現在のネットワークは4校~12校で構成されている。東部地区は4ネットワーク39校、西部地区は6ネットワーク44校、南部地区は5ネットワーク41校、北部地区は3ネットワーク19校(2017年末)が参加。ネットワーク活動は基本的には県立高校のみで構成されているが、地区によっては一部の市立、私立学校も活動に参加しているほか、隣接する2つのネットワークに属している学校もある。

県の事業で設置されているネットワークには拠点校があり、リーダ役となる司書が配置されている。

巡回展示(東部Aネットワーク)の様子

主な活動は教員への情報提供、専門研修、読書啓発、レファレンスサービスなどである。また地区によっては相互貸借や総合目録の整備、テーマ展示を熱心に行っている。また、各ネットワークの状況に応じて、ネットワーク間連携や市立図書館との連携が行われる。

物流と情報

相互貸借については、県によるネットワーク事業の成立以前から、埼玉高図研で会員校図書館間の資料相互貸借に関する協定と相互貸借要領を定めてある。具体的には、貸出を希望する学校から資料名やテーマ名をメールで発信(FAXでも可)。ネットワーク内の司書が検索や選書を行って貸出の可否を回答。特にテーマでの選書は専門職・司書のスキルが授業に役立つ。

地区によって、物流は相互の資料を運搬する連絡車を司書が輪番制で巡回し定期集配。巡回は司書同士の日頃のコミュニケーションづくりにも一役買っている。但し、東京都に隣接する地域では慢性的な交通渋滞。高図研から、県による巡回車配置の検討を県に要請している。

かねて総合目録を作成してきた西部地区のいくつかのネットワークでは、現在でも総合目録を維持している。高図研.netのグループルームを利用して各校の所蔵データを1ヶ月に1度交換することで、館内のOPACで所属する地区の蔵書検索が可能。例えば入間向陽高等学校が参加する西部Dネットワークは西部Aネットワークと合同で蔵書データを交換しており、両ネットワークに所属する学校では、15校、40万冊の蔵書が検索できる。授業利用の際には、この各校に資料提供を要請することで、高校生向け(特定年代向け)に選書された幅広い蔵書を多数集めることができる。

このほか、県立図書館による協力貸出も受けることができる。専門性の高い、希少な資料は県立図書館の蔵書を検索。貸出依頼をすると、県立図書館の連絡車が最寄りの市立図書館などに配送。ここで受け取る。

こうした現場起点の物流に支えられて、埼玉県内の高校では授業に向けて幅広く厚みのある資料を集めることが可能になっている。この基盤が越谷総合技術高校はじめ各校での授業をより豊かなものとしている。

まとめ

埼玉県では正規職員を中心に、司書を全校に配置(全日制高校)。全国的に数少ない事例であるが、この施策の下に図書館教育が自発的・自立的に進められてきた。高図研はこの中心的な推進役であり、さまざま実践的研究活動を行っている。また、各地域の図書館ネットワークは現場起点の小集団活動とも言える。これらの活動をさらに継続・発展させることが授業を活性的にし、「主体的・対話的で深い学び」に向けた学習活動においても新たな図書館の活用へとつながる。

取材後記

今回の取材で、久喜市や越谷市、入間市を幾度か訪れた。気づいたことは、埼玉県は広いということ。特に、横(東西)に移動すると1~2時間かかる。交通ネットワークは東京から放射状に縦(南北)に伸び、数分おきに電車が行きかう。この地で司書仲間によって、草の根的活動として起きた”図書館ネットワーク”。地域のつながりでグループを形成して、活動を粘り強く継続してきた。埼玉県は人口733万人を抱える超大規模県。トップダウンではなく、ボトムアップで実績を積み上げきた高図研、図書館ネットワークは大規模組織のマネージメントとしても教訓を与えてくれる。

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