千葉県 袖ケ浦市立昭和小学校

「チーム力」「学習指導案」「学び方ガイド」で子どもたちの課題解決力を育む

(2018年11月22日取材)

学校紹介

袖ケ浦市は人口およそ6.3万人あまり。千葉県のほぼ中央部に位置。東京湾に面する西部は石油コンビナートが建ち並ぶ京葉工業地帯。東部は肥沃な水田と畑地が広がる丘陵地帯。近年、宅地化が急激に進み人口が急増している。また東京湾アクアラインの開通によって対岸・川崎市と結ばれ、交通ネットワークの整備が一気に進んだ。

市内には小学校7校、中学校5校があり、昭和小学校はJR袖ケ浦駅に程近く、青々と茂る鎮守の森・坂戸神社に接する、児童数686名(平成30年4月)を数える大規模校である。20年余にわたる市の教育方針「調べ学習」を継続的に全学年・全教科で実践し教育指導法として高い評価を得ている。また、平成28年度子どもの読書活動優秀実践校として文部科学大臣表彰を受けるなど、優れた成果をおさめている。

所在地:〒299-0262 千葉県袖ケ浦市坂戸市場1431
電話:0438-62-2055/FAX:0438-62-4218
設立:1928年4月
E-mail:sws10100【★】sodegaura.ed.jp
(【★】を@に替えてください)
HP:http://www.sodegaura.ed.jp/showa-e/
児童数:686名
学級数:25学級
教職員数:43名
学校司書:1名(読書指導員)

(2018年4月現在)

教育目標

「自ら学び、豊かな心で たくましく生きる子ども」の育成
~笑顔いっぱい 昭和小!~

研究主題

思考力・表現力を高める学習指導のあり方
~主体的・対話的で深い学びを目指す算数科・学校図書館活用を通して~

取材にご協力いただいた方々

校長 鴇田 道雄 様
(左)読書指導員(学校司書) 和田 幸子 様
(右)学年主任・司書教諭 佐藤 香 様   

校長:鴇田 道雄 様
学年主任・司書教諭:佐藤 香 様
読書指導員(学校司書):和田 幸子 様
授業研究会で子どもたちを指導された教科担任、学級担任の先生方

チームワークで「読書教育(図書館活用教育)」を創る、支える、つなげる。

袖ケ浦市では市立総合教育センター内に学校図書館支援センターを設け、学校図書館を継続的に支援。市立の7小学校、5中学校全校に読書指導員(学校司書)を配置し、「人のいる温かい学校図書館づくり」を行っている。市教委主催による読書教育推進会議(年2回)、司書教諭研修会(年2回)、読書指導員研修会(年6回)などで情報共有をすすめ、授業力や相互のコミュケーション力向上に取り組んできた。

学校では司書教諭、読書指導員(学校司書)、教科担任・学級担任は次のような役割分担で運営。また、学校教育課や市立総合教育センター、市立図書館等の教育行政機関が学校を支え、「人」「もの」「情報」のネットワークを構築し、相互協力関係(チームワーク)を図ってきた。

司書教諭 佐藤先生

袖ケ浦市の最大の特徴は学び方ガイドを活用した授業にある。
(詳細は、第4章 読書教育(図書館活用教育)を支える”学び方ガイド”を参照)

佐藤先生は”学び方ガイド”の改訂や活用をすすめる中心的な存在。調べ学習の進め方、ワークシート作成の仕方、資料カードの使い方などで子どもたちへの指導や先生方へのアドバイスなどを行う。また、司書教諭としても週2時限(木曜日と金曜日、5時限目)学校図書館を活用した授業を受け持っている。授業は、担任の先生方からの相談を受けて検討し協働で進める。学校図書館や教室など場所はさまざま。この間、佐藤先生の教室(司書教諭が受け持つ学級)は教務主任の先生が代行する。先生方のチームワークがあっての授業形態で、昭和小学校ではすでに5~6年前から取り入れている。

図書館の時間割表
木曜日、金曜日の5時校目が司書教諭に割り当てられている
司書教諭は図書委員会も担当している

市立総合教育センターが主催する司書教諭の研修会は年2回。年初に学校図書館運営方針の検討や方向性を、年度末に成果や課題などを検討・協議し、改善を図る。また、市内の各ブロック(中学校通学区単位)では授業研究会を定期的に開催。図書館を活用した実践的な授業などで情報共有を図り、授業力向上につなげている。

何事も”継続”することは容易ではない。学校図書館を活用した教育が継続し、進化を遂げるポイントは何か?という問いに、「図書館に人(読書指導員)がいること。」と佐藤先生が率直なコメント。このことは市の方針として、ぶれずに施策を続けてきたことの証でもある。先生方が異動されたとしても、他の先生方や読書指導員が新たな先生方をつなぎ、そして次の世代に継承していく。そのような仕組みができている。

読書指導員(学校司書) 和田先生

1年生の授業で子どもたちを指導する和田先生

読書指導員は図書館の運用や調べ学習でTT(チームティーチング)で授業を受け持っている。テーマに沿って担任の先生と協働で準備し、他の学校や市立図書館とも意見交換。インターネット、新聞なども活用して資料の取り揃えやブックリストなどを作成して授業に臨む。授業では、先生方を補佐しながら子どもたちを指導。TT授業は確かな事前準備と振り返り、そして日頃のチームワークが大切と認識した。

学校図書館の運用で大きな助けとなっているのが、袖ケ浦市イントラネット。ネット上に相談内容を書き込むと、他校や市立図書館の司書仲間がアドバイスやおすすめの本、貸出可能な冊数などを返信。内容を検討して貸出依頼をすると、図書流通システムで定期的(週一回)に配送される。

また、このイントラネットは市内小中学校、市立図書館、博物館、学校図書館支援センター間のさまざまな情報が共有されるコミュニケーション・ツールともなっている。現在、授業で活用されたブックリストのデータべ-ス化が進行しており、また新たな進化が加わる。

選書や除籍は、学校図書館協議会(SLA)の規準に沿って運用。調べ学習などの過程で必要とされた本、先生方のリクエスト、学校司書の推薦本などを取りまとめ、5月と9月に購入。

大切にしていることを和田先生に尋ねると「(私自身)学校には何かとお世話になっています。学校の外では、お話会ボランティアや社会教育推進員、市民学芸員(博物館)の活動に参加していますが、さまざまな人たちとつながり、相互に情報をつなぐことでよりよい学校図書館運用でお役に立ちたい。」と謙虚なコメント。袖ケ浦市の取組は、”人”によって支えられている。

学級担任、教科担任の先生方

タブレット端末を使用した授業の様子

学校図書館は授業で活用されてこそ、その役割が発揮される。袖ケ浦市の学習指導案では、”学び方ガイド(4章参照)”の具体的な活用策、時限数(例として 5年生では総合的な学習の時間10時間+国語4時間)等を記述し、授業を行う。つまり、特段意識することなく司書教諭や学校司書と連携しながら学校図書館を活用することにつながる。また、このことが先生方のチームワークの向上や教科横断型の授業につながる。

調べ学習では、資料をまとめ発表することにも注力している。学校には児童一人一台のパソコン(タブレット端末)が配置され、各学級担任が指導。学習ドリルなどもこのパソコンを活用。学習の様子は”ここまで来たか!”と強い感動を受ける。

学校図書館支援ボランティア

ボランティアの方によって装飾された図書館入り口

昭和小学校の学校図書館支援ボランティアの存在も大きい。本の修繕、掲示物の作成など図書館作りにその役割を発揮。廊下などにも優れたポスターなどが数多く張り出されている。市立図書館と同様に、学校でも多くの市民ボランティアが活動している。

市立中央図書館、長浦おかのうえ図書館

市立図書館もまた、子どもたちの調べ学習を支えている。HPには”こどもぺーじ“に調べ学習を開設。さらに深く調べたいときや夏休みの課題、調べ学習コンクールなどで子どもたちに対応。また、相互貸借での資料の流通は長浦おかのうえ図書館が担当。博物館や市立幼稚園、そして市立学校全校へ図書流通システムを提供している。

読書教育(図書館活用教育)を支える”学び方ガイド”

(左)中学校用 (右)小学校用

学習指導案には、”学び方ガイド”の活用が記されている。”学び方ガイド”は子どもたちが主体的な学習をすすめるためにまとめられた学習本。総合的な学習や教科学習に広く用いられ、全国からも注目されている優れものである。

平成14年に初版を発行、平成30年に新学習指導要領に沿って第3版に改訂された。改訂にあたって、佐藤先生など4名の教諭が委員として編集。鴇田校長や学校教育課長が編集アドバイザーを務めた。

参考

学び方ガイドは袖ケ浦市総合教育センターのHPにて紹介されている。
また、購入可能。小学校版は2017年度末改訂済、中学校版は2018年度末改訂予定。

“学び方ガイド”のポイント

学び方ガイドに掲載されている
“情報カード”の活用例

ズバリ、分かり易い!そして、低学年・中学年・高学年に沿った記述で使う側の立場で作成されている。

「資料を集める」~「資料を整理する」~「調べたことをまとめる」~「調べたことを発表する」のプロセスごとに作成されている。また、使用するワークシートや資料を添付。すべてのページが1枚のカード形式になっていることも教育現場でのノウハウ。

「調べたことを発表する」が特にすばらしい。発表に使用するIT機器の使い方、友達との交流の仕方やワークショップ、パネルディスカッション、ディベートの仕方など。また、発表資料はPowerPointで作成。(一人一台のタブレットを設置)単に”調べ方を記したマニュアル”ではなく、学習指導案にリンクし、図書館の具体的な活用策として用いられる。

「テーマ決め」を行うドーナツチャートが学習の出発点

調べ学習ではテーマ決めが大切で、テーマを決める際にはドーナツチャート(調べ学習研究会「調之森」考案)を使用している。調べたい言葉と疑問に思うことを4つ書き、テーマ決めを行っていく手法である。発散することなく、また短時間で調べが終わることがないよう、先生方がバランスの取れた指導をする。

授業では予め「大きなテーマ」を先生が投げかけ、より具体的なテーマに絞ってスタートする。

※学校図書館支援センターでは、調べ学習タイトル名(テーマ名、単元名に相当)とキーワードをHPで公開し、検索の参考としている。

先生による大きなテーマの投げかけ
「オリンピック、パラリンピックについて」
ドーナツチャート記入例

“調べ方”を学ぶことが重要な学習

調べ方は多様な手段を用意している。テーマに沿った本や雑誌等をブックトラックなどに事前用意。新聞、地域資料、インターネット検索パソコン、手紙やE-mailでの問い合わせ、インタビュー、市立図書館などさまざま手段があることを学習しながら進める。それぞれの使い方・注意点などは対応する”学び方ガイド”のカードに記されている。

FAXやメールでも調べる
子ども新聞も豊富

調べる学習コンクール

図書館で調べたことを整理し、廊下にポスター掲示

学校では多くの子どもたちが調べる学習コンクールにチャレンジしている。学習のスタートはテーマを見つけ出すこと。そして、テーマを具体的に絞り、繰り返し調べる、より専門的な分野を調べることで学習の深堀を図る。学校図書館やインターネット、市立図書館・博物館そして知識を有する専門家へのインタビューなどで、自立性や自発性、そして判断力も育っていく。

昭和小学校は調べる学習コンクールで、優秀な成績をおさめてきた。

参考

第20回調べる学習コンクール(全国展)文部科学大臣賞 受賞
テーマ:アクアライン鉄道は実現できるのか?