千葉県 袖ケ浦市立図書館

市民が集う図書館運営で明日の袖ケ浦市を拓く

(2018年11月22日取材)

袖ケ浦市と市立図書館

袖ケ浦市は人口およそ6.3万人あまり。千葉県のほぼ中央部に位置。東京湾に面する西部は石油コンビナートが建ち並ぶ京葉工業地帯。東部は肥沃な水田と畑地が広がる丘陵地帯。近年、宅地化が急激に進み人口が増加している。また東京湾アクアラインの開通によって対岸・川崎市と結ばれ、交通ネットワークの整備が一気に進んだ。
袖ケ浦市立図書館は中央図書館(全体総括)、地域館として長浦おかのうえ図書館、平川図書館、根形公民館図書室、平岡公民館図書室の3館、2公民館図書室で運営。蔵書数や貸出冊数等のサービス指標は全国的にもトップクラス。また、袖ケ浦市は「調べ学習」でも高い評価があり、子どもたちから高齢者まで多数の市民が図書館を活用している。

中央図書館(統括館)

所在地:〒299-0262 千葉県袖ケ浦市坂戸市場1393番地-2
TEL:0438-63-4646
HP:https://sodelib.jp/access/chuo/

長浦おかのうえ図書館(地域館、物流担当館)

所在地:〒299-0243 千葉県袖ケ浦市蔵波634-1
TEL:0438-64-1046
HP:https://sodelib.jp/access/nagaura/

イメージキャラクター「トショロ」

市立図書館のイメージキャラクターは本の森に住む妖精。平成4年10月に公募で決定。おすすめ本リスト「トショロ通信」や図書館だより、催し物のポスターなどに登場。特に夏・秋には”トショロ月間”が設けられ大活躍する。
(袖ケ浦市立図書館 提供)

取材にご協力いただいた方々

(左から)
長浦おかのうえ図書館 主幹:梨本 和彦 様
中央図書館 館長:嶋田 育子 様、奉仕班長:小倉 かおり様

特徴

「自立と協働のまちづくり」を担う図書館運営

出張おはなし会の様子

図書館運営は年度ごとに”読書普及事業”として推進、多くのイベントが計画的に開催される。特に力を入れているのが児童サービス。各図書館ではさまざまな工夫がされたおはなし会を実施。とりわけ「出張おはなし会」は市内の保育所や幼稚園、学童保育所に出かけて行う出前型。平成29年度は24カ所282回、参加者は7,000名を超えた。

秋のトショロ月間サークル展示

このほかにも文芸講座や映画会(3図書館で67回、3,000名が集まった。)なども開催。中央図書館での資料展示は2ケ月に1回、3館での特設コーナーなどのテーマ展示は月1回入替。イメージキャラクターであるトショロはさまざまなイベントで大忙し。年に2回”トショロ月間”と銘打って、夏に子どもたち向けのイベントを、秋に大人向けのイベントを集中開催。多くの市民が家族連れで図書館を訪れる。

「はらぺこあおむしの手づくり工作」の様子

図書館運営で、さらに優れている点は市民参加にある。図書館職員と協力してイベント開催等にあたる社会教育推進員(13名在籍)。”はらぺこあおむしの手作り工作”などの独自企画も実施。おはなし会ボランティア、ブックスタートボランティア、映画会ボランティアなどボランティアの活動分野が7つあり、86人が登録。平成29年度の活動回数は557回を数える。また、資料の展示にもボランティアが参加。「(図書館を運営する上で)ボランティアは強い味方です。」と小倉さん。ボランティア研修会などでスキルアップとコミュニケーション向上を図り、活動を通して人と人とのつながりを生み出している。

袖ケ浦市立図書館ボランティアについて

平成30年11月現在 87名が登録

おはなし会ボランティア 22人

小中学校、幼稚園、保育所等への出張おはなし会での素話、絵本の読み聞かせ
季節ごとの館内おはなし会(「なつやすみとしょかんであそぼう」「秋のおはなし会」「春休みおはなし会」の開催)、「えほんのへや」、「わらべうたであそぼう」での絵本の読み聞かせ、わらべうた遊び、手遊びなど。「大人のためのおはなし会」の開催。


ブックスタートボランティア 29人

毎月1回実施されている4か月児教室において、子どもとその保護者に絵本の読み 聞かせを行い、乳児絵本とバッグ、おすすめの絵本リスト等を配布


絵本の読み聞かせボランティア 9人

平成30年度おはなしのボランティア養成講座初級編を受講し登録要件を満たした方。平成31年度から保育所等で活動開始。


映画会ボランティア 13人

市内の3つの図書館で年間60回以上開催される図書館の映画会について、上映作品の選定や上映日の受付、作品解説などを行う。


展示ボランティア 8人

中央図書館展示コーナーの展示作品の作成や入れ替え作業。年5回実施。図書にまつわるテーマをとりあげて実施している。


朗読ボランティア 4人

視覚障がいのある方への朗読ボランティア


工作ボランティア 2人

  1. 定期的に図書館内で「かみのおはなやさん」を開催。おりがみで花を作り来館者にプレゼントしたり、カウンターに配布用の紙花を作ったり、クリスマスイルミネーション等の飾りつけを行っている。
  2. 「なつやすみとしょかんであそぼう」「春休みおはなし会」の中の、子ども向け工作の指導や夏休みの実験教室の開催

平成29年度の活動実績は557回、延べ1,046人

子どもたちが”図書館づくり”に積極参加!

市内の小中学校や高等学校の児童・生徒たちは積極的に図書館活動に参加。おはなし会やおすすめ図書のPOP 、展示イベントなどを企画・実施。平成29年度は根形小学校がおすすめ図書展示(場所:中央図書館、長浦おかのうえ図書館、根形公民館図書室)、昭和中学校が学校図書委員おすすめ図書展示と児童室飾りつけ(場所:中央図書館)、平川中学校が図書委員&1年生によるおすすめ図書展示(場所:平川図書館)などを開催。

県立袖ヶ浦高等学校はトショロ月間での絵本の読み聞かせや、おすすめ図書展示とYAコーナー飾りつけなど、それぞれの年代に応じた分野を担当。幅広い年代層の子どもたちが図書館運営に参加し、市民との交流を行っている。

また、図書館では市内の中学校から職場体験実習を、木更津高等学校からはインターンシップで生徒を受け入れている。一方、公民館の幼児家庭教育学級などにも講師を派遣。子どもたちや市民、そして近郊の街とも交流を行っている。

昭和中学校のおすすめ本POP

平川中学校のおすすめえほんPOP

“調べる”は図書館運営の基本方針

「調べ学習」で高い評価を受けている袖ケ浦市。図書館のHPにもその取組が窺がえる。

こどもページ「調べ学習」(主に児童向け)

「調べ学習」はテーマ設定が重要で、子どもたち一人一人に沿った支援が求められる。より詳しく深堀し、専門的な学習を進めるには学校図書館と併せて、市立図書館の活用が欠かせない。そして、学習期間も長期に及ぶ。このため、市立図書館では普段から子どもたちの調べ学習の相談に応じている。特に多くの相談が寄せられる夏休みには総合教育センター主催の”調べ学習相談会”に会場を提供し、館内で相談後の子ども達の問い合わせに対応している。「(子どもたちは勿論ですが)保護者の方々も、とても熱心です。」と館長。学校や家庭の熱意が図書館運営の支えになっていることは理想的な図書館の姿!

参考

学校での取組事例:袖ヶ浦市立昭和小学校

調べ方案内(レファレンスサービス)(主に一般向け)

「健康」や「医療」、「防災」などをテーマにパスファインダーを作成し、利用者の資料探しの手助けをしている。中でも、郷土資料分野である「袖ケ浦市の指定文化財」に感心した。この分野の情報は調査と確証に大変な労力と時間を要する。図書館が保有する郷土資料総数は2.4万冊余り。郷土の歴史、文化を大切に継承してきたことの表れ。専門的な研究のみならず、「総合的な学習の時間」がある学校でも大いに活用できる。

参考

「調べ方案内」のホームページ
「袖ケ浦市の指定文化財」(袖ケ浦市の地域資料調べ方案内から)

充実のデータベース検索、新聞各紙

日本経済新聞データベース、朝日新聞データベース、第一法規総合法令データベース等を利用できる。主要全国紙3紙、千葉日報の縮刷版を保管。また、マイクロフィルムは主要全国紙3紙の千葉版、千葉日報等の地方紙などと併せて、休廃刊となった房総時事新聞なども所蔵しており、より専門的で詳細な調査が可能である。中小都市でこのようなデータベースや新聞の資料を整えている図書館は少ない。大いに活用されたい。

物流ネットワークを担う長浦おかのうえ図書館

図書館流通システム

図書流通システムは千葉県市川市の事例を参考にして作られた。平成9年、全小学校と市立図書館で開始。以降、中学校、幼稚園、郷土博物館、総合教育センターに順次、拡大。博物館も教材パックを揃えて貸出を行っていることが特徴。

資料の配送に工夫がある。軽ワゴン車とドライバーを1日借受けるチャーター方式。配送する資料は1台で運行可能なこと、受け渡しはドアーツードアーであることなどの条件で市内業者に委託。市内業者の活用とローコストでの運用を可能としている。所管は学校教育課。図書の保管や貸出・返却などを長浦おかのうえ図書館が担当している。

物流に関わる情報は袖ケ浦市のイントラネットで処理。学校に配置されている読書指導員からネット上に貸出依頼。毎週水曜日、配送及び返却資料を搬送。物流と情報処理の両輪で重要な教育環境をささえるインフラである。

平成31年からは読書指導員の研修(隔月開催)に図書館からも職員が加わる。児童書、奉仕、物流の観点から学校のニーズを把握し、さらに優れたサービスへと発展していく。

長浦おかのうえ図書館の収蔵庫
セット本も豊富に用意されている

地域住民の交流拠点

長浦おかのうえ図書館は平成9年に開館、住宅街に囲まれた長浦地区にある。館内は、書棚の配置の高さや通路の幅などいたるところにバリアフリーの設計が取り入れられている。また、福祉部門も入る複合施設となっており多くの地域住民が利用する。

バリアフリーの館内
配置、通路の幅が車いす利用に沿った設計
複合施設ならではの配架やイベント情報も充実
(子育て支援関連のコーナー)

まとめ

図書館は地域社会や家庭、学校をつなぐ拠点。袖ケ浦市の図書館は行政と住民(ボランティア、子どもたち、保護者や図書館を活用する市民)、学校などがバランス良く関わりを持った図書館である。このことは、公立図書館サービス指標の高さにきっちり表されている。

取材後記

図書館のロビーに短歌の展示があった。市民の作品のようであるが、心に留まった一首があった。長い間、共に大地を耕してきたトラクターに別れを詠んだ句。さまざまな情景が浮かぶ。自分も年老いて体が動かなくなった。周りの農地は次々と宅地に変わる。若い世代は街に通勤で後継者はいない。相棒のトラクターも少々色あせ、疲れ気味。そろそろこの辺で良かろう。お疲れさま!。良き袖ケ浦市の風景であろう。作者へ思いを寄せながら内房線に一人飛び乗り、帰路についた。

(菅原)

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