神奈川県 県立津久井浜高等学校&県立武山養護学校津久井浜分教室

学校図書館は高等学校教育のハブ(拠点)

(2019年2月6日取材)

学校紹介

横須賀市の南端に位置し、常緑広葉樹の森や野菜畑に囲まれた自然豊かな丘陵地に建つ全日制・普通科の高等学校で、進路先は主に進学。また、武山養護学校の分教室も併設されている。現在耐震工事中で、一時的にプレハブ教室に移動。最寄り駅は京浜急行津久井浜駅で、品川からおおよそ1時間。

所在地:〒239-0843 神奈川県横須賀市津久井4丁目4番1号
電話:046-848-2121(代)/FAX:046-848-8939
設立:昭和51年4月(1976年4月)
HP:https://www.pen-kanagawa.ed.jp/tsukuihama-h/
学科:普通科 19学級(全日制)
職員数:常勤教職員数 55名、非常勤教職員 32名
司書:1名(専任、正規職員)

(2018年5月1日現在)

教育目標

(出典:津久井浜高等学校HP

憲法・教育基本法及び学校教育法の精神にのっとり、調和のとれた人格の形成をめざし、国家及び社会の有為な人材を育成する。

教育方針

(出典:津久井浜高等学校HP

  1. 誠実にして、責任感溢れ、人間味豊かな人格をつくる。
  2. 学問、芸術を愛し、教養を高め、聡明な判断力を身につける。
  3. 知力と体力の向上につとめ、強健な心身を育成し、あわせて健康と安全教育の徹底をはかる。
  4. 個性の開発伸展に努め、進路の適正をはかり、あわせて社会的に広い視野をもつ能力をつちかう。

※以降、神奈川県立津久井浜高等学校は”津久井浜高”、生徒は”津浜高生”と記す。

取材にご協力頂いた方々

(左から)校長/小田 尚美 様、副主幹/亀田 純子 様(学校司書)、県立武山養護学校津久井浜分教室 室長/軽部 誠一 様
(左から)教諭/稲﨑 由依 様(国語)、総括教諭/須藤 智夫 様(地歴・公民)、教諭/吉原 みさき 様(家庭科)
図書委員(生徒)の皆さん

図書館を活用した実践的なチームティーチング(TT)授業を展開

教員・学校司書一体が一体となって進めるTT授業は次の通りだ。

事前協議や相談、授業の展開、まとめ、発表・振り返りまで、教員と学校司書とが終始、一体で取り組む。例として、2年家庭総合では6クラスを教師3名(専任1名+非常勤講師2名)及び学校司書で体制を組み、所定の授業時間(2時間×5回)を進めていく。この間、全体の進み具合や課題のつまずき、次回に向けての対処方法などを相互に確認し、また、使用している資料の見直し案や新たな資料の紹介なども随時、学校司書から教師に提案を行う。まとめではレポート作成に向けて教師が”内容の正しさや理解度の深さ”を指導、学校司書は効果的なとらえ方につながる”資料の選び方”をアドバイス。予備発表では、教師・学校司書が聞き役となって、その内容のブラッシュアップ役を務める。完成したレポートや振り返りの感想などは、学校司書へもフィードバックされ、翌年以降の授業に生かされる。代表的な3教科を以下に紹介する。

国語教諭)稲﨑 由依 様

「教科書にとどまることなく、資料などを使って自分の考えをまとめ、そこから発展させる場所。」と図書館の役割を話す。授業例として紹介されたのが、生徒の誕生日をもとにオリジナルの七十二候をつくる授業。学校司書と相談して、歳時記やビジュアルな写真を集めてもらい、生徒たちが2週間ほど図書館に通って、オリジナル版の七十二候をつくり、発表する。今どきの生徒観がもつおもしろさ、イメージの膨らみ、世界観が表され、現実と想像がクロスする空間を創り出すのだという。 また自身の教材の手助けとして、日本語と英語の訳質の違いなどを図書館で調べ、(教科横断的な)活用も行っている。「(教科担任教諭と学校司書の連携で)図書館を上手に使って、授業のサイクルを組み立てるようにしたい。」と抱負を語る。

地歴・公民 総括教諭)須藤 智夫 様

「逆さま歴史教育(※1)は歴史を見る角度を変え、現代から時代をさかのぼらせたり、地方から発信して中央に向かうなどの思考につながるが、本校では(横須賀・三浦地域の)郷土史学習に取り組んでいる。生徒がそれぞれテーマを見つけ出し、自主的に学習。教師はそれをサポートする役割。」と概要を話す。授業はプロセス重視の学習指導案で進める。資料は県立三浦初声高等学校がもつ多くの郷土資料や、県立図書館、横須賀市立図書館のものも相談して取り寄せ、専用のブックトラックに配架し、生徒からの質問や相談に応じるなどして学習を進める。「授業は図書館でも行うこともあって、司書さんに負担がかかっているのではないかと心配。(笑)。生徒たちは、この地域の史跡や神社、お寺に詳しく、驚き。近現代史のテーマも扱ったことがあるが、やはり充実した資料と司書の協力が大切で、課題解決学習を進めるには図書館は重要な場所。今後も図書館と連携して授業を進めていく」と語る。

「逆さま歴史」の発表は、4人のグループごとに行われます。A3サイズの発表用紙をホワイトボードに掲示して、1人5分間で実施します。発表では、ホワイトボードに書き込んだり、その都度聞き手が質問することもOKです。発表後は生徒それぞれがワークシートに記入し、振り返りを行います。

参考

最初の授業で配布するテーマ決めに使用するワークシート。全10回の授業の中で、毎時間出されるワークシートを完成させながら進めば、レポートも完成できるように作られている。

各自調べた資料を発表用紙に清書させるために配布した資料。

発表前に配布した資料。生徒に発表のイメージを作らせるために配布している。

(※1)神奈川県では、県立高校改革として歴史・伝統文化教育を推進。津久井浜高等学校はその一環である「逆さま歴史教育にかかる研究校」の指定(2016~2017)を受け、「逆さま歴史教育」の研究を学校のミッションとして学校運営にあたっている。

家庭科教諭)吉原 みさき 様

「家庭科は知識を詰め込むだけの学科ではないので、授業の工夫が大切。(教員の)技術力が問われる教科。」と話し、一枚の資料を紹介された。

この資料は、社会保障や法律、保育を調べるテーマ表で、学習方法は次の通り。
4人1グループで一つのテーマを受け持ち、さらに各自がそのテーマ内にある視点事項を担当して学習を進める。無作為な割り当てなので、誰が担当するか分からないが、非常勤講師、学校司書が加わってすすめるTT授業。学校司書は事前に、膨大な資料からテーマに相応しい選書を行ってコーナーに展示し、相談に応じるなどして調べ学習をサポートするが、資料をどのように使うかは生徒次第。

模造紙を使ったポスター発表や
クイズ仕立てにするなど工夫を凝らします。

生徒は図書館にある”紙”の資料を用い、ネットは使わない。その後、各人が1枚のレポートにまとめ教員が幾度か精査・指導をし、完成後各自、一人2分で発表し、討議を行う。学習の総時限数は8時限。ユニークで活発な発表が展開され、クラス全体が大いに盛り上がるのだという。男子生徒は妊娠などのテーマが少々苦手では?との問いに、「まったく関係ありません。本当に楽しい発表会です。」また、発表資料は貴重な学習教材としても活用され、教師にとっても生きた情報源とのこと。その中から、出題することもあるという。「学校司書は本当にありがたい存在です。」と繰り返し、「これからも教科と図書館の連携を大切にしていきたい。」と語る。

「家庭総合」発表は、各班ごとにレポートのまとめを7~8分で行います。一括で行う班もあれば、上の写真のように1人1人分担して行う場合もあります。全員のレポートは印刷され、事前に配布されているので発表時に伝えきれないこともそれで補えます。発表後はそれぞれが評価しあいます。

その他のブックリスト

参考

20人足らずの選択科目のため、肯定派と否定派を2つに分け、同じ資料をそれぞれ渡してディベートの準備に使わせたいと事前に相談があった。このブックリストは最初に配布したもので、まだ複数そろっていない状態のものだが、このあと相互賃借を使い、ほとんどの資料を複数用意することができた。

参考

『羅生門』(芥川龍之介著)発展学習として、①題材の古典作品との比較、②『羅生門』以外の王朝物、③平安時代の人々のくらしを班別で調べさせたいとの相談を受け作ったもの。授業2時間を図書館で調べさせ、1時間で発表といったタイトなスケジュールだったことや1年生の6月というまだ資料探索に慣れていない時期だったので、簡単な本の内容も入れたブックリストを作った。③に関しては、庶民の暮らしの材料が足りず、県立図書館からの相互賃借も活用した。

参考

2年生の3学期に毎年行われている授業。環境問題に関して、いくつか指定されたテーマのレポートが5ページ以上課せられる。図書館は、事前に相談があったテーマに沿った資料をそろえ、ブックリストを作成する。授業では、司書もTTで入ってブックリストを使いながら資料の使い方やレポートの書き方のレクチャーを行う。その授業1時間の後は宿題となるため、生徒は自分の空いた時間でレポートを仕上げる。(今年度は授業時間の関係で、図書館での授業は行われなかった)

図書委員会の活動は楽しい!

図書委員の生徒さんに集まってもらい、委員会活動について聞いてみた。「保育園に行って、読み聞かせをした。子どもたちに喜んでもらえた。」「高文連(※2)に参加し、他行の仲間ができた。新たな人の輪でも活動でき楽しい」「近代美術館や文学館の書庫(閉架書庫)を見る機会があり、知る楽しさに出会えた。」「仲間と紙芝居を作り、小学校で読み聞かせを行った。子どもたちの喜ぶ姿がうれしかった。」など。また、進路を見据えて「幼稚園の先生をめざして、入学した。読み聞かせを勉強したくて、委員会活動をしている。」と答える生徒も。一人一人がしっかりした受け答え。また、笑いが絶えず、明るく、楽しく活動していることが伝わった。

(※2)高文連は”神奈川県高等学校文化連盟“の略。神奈川県の文化部や委員会の上部組織に当たる。6年前に図書専門部会が発足し、図書館報コンクールやビブリオバトルをメインとした行事や各種研修会を行っている。他校図書委員と交流できる貴重な機会のため、津久井浜高等学校では生徒委員を務めるなど積極的に参加している。

図書委員による市立津久井保育園での読み聞かせが、長期休業中ごとに行うようになって4年が経ちます。きっかけは文化祭で作った創作紙芝居が好評だったため、外でもやってみたらどうかという声があったことから始まりました。自分たちの紙芝居や読み聞かせの活動が人の役に立つ経験は、生徒の自信にもつながっています。この経験から保育園のボランティア活動を始めたり、進路を決めた生徒も出てきています。

図書委員と学校司書・亀田先生の距離感が程よく、多くの生徒が相談のしやすさを話す。充実した資料と専門職である学校司書の良き関係性が自主・自立的な委員会活動につながっていると感じた。

図書委員会では、広報誌「あおとしょ」を発行している。多くの高等学校で見かける図書館報とは趣が異なり、生徒の自由な取材、編集で発行。”津浜高生”の自由闊達さ、躍動感を感じる。

図書委員会活動での経験は”独り占め”せず、「あおとしょ」で知らせたり、文化祭の発表や地域での読み聞かせなどで実践・共有する。そういった学びや文化の循環が図書館から派生していくことを目指している。こうした開かれた活動が、図書館の活性化につながっていく。