神奈川県 県立津久井浜高等学校&県立武山養護学校津久井浜分教室

武山養護学校津久井浜分教室が連携する図書館・学校司書

県立武山養護学校は津久井浜高等学校に分教室(以降”分教室”と記す)を開設しており、3クラス、40名ほどの生徒が学んでいる。図書館は、分教室の生徒も同様に利用でき、また学校司書も連携している。特別支援学校の図書館環境は全国的に厳しい利用環境下にあるが、軽部氏はその利点を次のように語る。

  1. 図書館そのものがありがたい存在。気軽に利用でき、本を借りられる。
  2. 不登校の子どもは、復帰する際、ダイレクトに教室ではなく、図書館経由策がとれる。
  3. 総合的な学習等で)調べ学習ができ、調理や進路指導等につながるテーマを学べる。
  4. 津浜高生とコラボして、効果的な学習ができる。(例・津久井浜高の紙芝居実演会に参加し、分教室の国語授業とコラボ)
  5. 蔵書点検作業を分教室の生徒も担当することで、”仕事”を体験できる。
    「図書館が発行する情報誌・図書館通信もありがたい。(デジタル社会ではあるが)文字から読み解く力を育みたい」と図書館の大切さを語る。

このように学校現場のさまざまなアイデア、工夫で特別支援教育の環境が整備され、新たな図書館の活用スタイルが生まれている。津久井浜高と分教室の取組は、新たな教育のイノベーションにつながる可能性を秘めている。

学校司書”亀田さん”と図書館通信

人と資料・情報をつなぐ”ハブ役”を務める

学校司書の仕事は多彩だ。日常の図書館運営は言うまでもなく、教職員と連携したTT授業、生徒の学習や図書委員会のフォロー、多様なレファレンスサービスへの対応、他校等の外部機関との折衝、教職員会議での報告・連絡・相談、広報活動誌(図書館通信)の作成・編集・配布、パネル展や実演会などの読書推進事業などなど。仕事の相手先は”人”。資料と情報で、学校運営の一翼を担う。

広報活動誌・図書館通信

月1回のペースで、図書館通信(広報活動誌)を発行している。生徒向けが”津浜生のための図書館通信”、教職員向けが”職員向けの津浜図書館通信”で、教職員向けは分教室にも配布される。

B4の紙面に、極めてコンパクトな記事を編成。新刊案内やその書影とレコメンド、POPやおすすめ本、イベント案内、統計など生徒、職員目線の情報を満載。また、教員の研究や生徒の学習テーマなど、授業と直接関連する記事も充実している。そして、月一回の発行で”鮮度”が高い。確かな情報、タイムリーな発行で、司書の高い専門性・感性を感じる。

学校長へ”図書館活用教育”を伺う

小田校長の略歴

神奈川県出身
神奈川県の県立高校卒業
大学卒業後、神奈川県の県立高校で外国語(英語)の教諭として勤務
平成28年4月 神奈川県立津久井浜高等学校に校長として着任
平成30年4月 神奈川県高等学校文化連盟図書専門部会長に就任

図書館を活用した授業

「司書のいない図書館は想像できないほど司書の存在は大きいです。図書館を活用した授業は、教員には”授業の深化”に、生徒には”やる気”を引き出すきっかけにつながっています。本校では図書館活用が根付いていると思います。」と語る。確かに、主要な教科(前述の国語・歴史・公民・家庭総合)では先生方と司書の関係性やTT授業などで、そのことが頷ける。ごく自然に、当たり前の様に、図書館は活用されている。年間の図書館活用授業時間数は190時間。神奈川県内や全国のデータからずば抜けて高いことにも表れている。アクティブ・ラーニングの取組について尋ねると「本校の図書館を活用した教育活動そのものがアクティブ・ラーニングです。これからも活用が継続するように、使い易い環境を整えていきたいです」と今後の方針を語る。

生徒の皆さんへメッセージ

「ネット社会の今は、スマートフォン1つあれば自分の知りたいことは何でも調べられます。でも、そのことによって、自分にとって興味がないことには目が向かなくなっているのではないでしょうか。図書館に来て知らない本を手に取り、その本に興味を持つ人もいることを知り、世の中には自分と違う考えがあることに気づき、そのことを受け入れられるようになって欲しいです。」

おすすめの一冊

「本を勧められているのは私の方です(笑)。おすすめの一冊と好きな一冊は違うと思いますが・・」と前置きして紹介されたのが、『ぼくを探しに 原題:The Missing Piece』(シェル・シルヴァスタイン作、倉橋由美子訳)。教員として大きな影響を受け、ターニングポイントとなった一冊だという。「以前は子どもたちの欠けている点、補うべき点に目がいきがちでしたが、この本と出会ってから、一人ひとりの持っている個性を活かしてやりたいことを後押しすることを大切にするようになりました。シンプルな絵と言葉でストーリーは展開し、結末がまた、示唆に富んでいます。高校生に相応しい一冊ではないでしょうか。」と紹介の言葉。

学校図書館を支える神奈川県の取組

活動・広報誌『NAZEIMA3』-なぜ 今 学校図書館か3-

提供:神奈川県高等学校教職員組合

神奈川県立高校の学校図書館を知るには『NAZEIMA3』が最適だ。県立の高等学校図書館に関わる経緯やその機能と活動、学校司書の役割や実践的な取組などを幅広く掲載しており、全体像が分かる。発行元・問い合わせ先は神奈川県高等学校教職員組合図書館教育小委員会。
(TEL:045-231-2479 http//www.fujidana.com

神奈川県学校図書館員研究会

神奈川県内の学校図書館職員によって構成される県公認の研究団体。主な活動はさまざまなテーマに沿った研究活動、講演会や教育・研修会の開催、KO本大賞(学校司書による生徒への推薦本の選定)などで、よりよい学校図書館の発展や図書館職員の資質向上を目指している。また当研究会は、学校司書同士のコミュニケーション向上を図る場でもあり、日ごろの図書館業務に生かされている。

全国で活用される”かながわ生まれの情報ツール Library NAVI”も研究会発祥の作品。研究会は神奈川県下8つの地区ブロックで構成されているが、それぞれの地区で特色ある活動も行っている。”Library NAVI”は県央地区で生まれ、制作ルールや商標登録がされて、全国の学校図書館等に広まった。

Library NAVI
Library NAVI 中面
Library NAVI 中面2

二系統の情報処理システムと物流システム

県立高等学校には二つの情報処理ネットワークとそれによる図書などの物流システムが備えられている。

①神奈川県内高等学校図書館相互貸借管理システム

県立図書館が提供する学校図書館⇔県立図書館での情報ネットワーク。平成22年12月(2010年12月)稼働。県立図書館及び県立高等学校の総合目録250万件をサーバに配置して、検索―依頼―貸出―返却―返却確認の手続きを一貫して行う。すべての県立高等学校が参加している。

②神奈川県図書館員研究会掲示板&蔵書照会システム

神奈川県図書館員研究会が提供する情報ネットワーク。会員すべてが利用できる「掲示板」と参加校が利用できる「蔵書照会システム」からなる。蔵書照会システムはテーマなどでのレファレンスサービスが特長で、調べ学習などで活用される。また、司書同士が情報を交換、共有するコミュニケーションツールでもある。学校間での相互貸借は「GIVE&TAKE」の方針で運用。2018年3月末現在、143校が参加している。

物流は、県立図書館と県立高等学校及び県立学校間は県が行う逓送便にて、週複数回の集配送が行わる。また、神奈川県図書館員研究会に参加している市立・私立学校には宅配便や郵送が用いられている。

参考情報

図書基本情報

津久井浜高等学校のおすすめ本

図書名著者名レコメンド(簡易な推奨文)お勧めの教科や学年
問いをつくるスパイラル
~考えることから探求学習をはじめよう!~
日本図書館協会図書館利用者教育委員会[編著]2019年度から始まる探求型学習にむけて、担当者から相談を受けた際に紹介した。それをもとに前倒しで3学期にワークシートからテーマ設定を学び、簡単な発表まで行えた。自分でテーマを決める探求型学習を行う際には、テーマ設定が展開の肝となるので様々な機会を捉えて利用できます。

まとめ

教員と学校司書とが連携して行われる実践的なTT授業や校内・校外での自主的な図書委員会活動、学校長や室長(分教室)の図書館に対する見方、考え方などが関係者の図書館に対する意識の高さ、チームワークの良さを表し、津久井浜高等学校の教育を支えている。

取材後記

校長先生の紹介してくれた一冊『ぼくを探しに』。説明のストーリーが進むにつれ、取材を忘れて、読み聞かせの場に変わる。なるほど、読み聞かせをして頂く側はこれほど心地よいものなのだと実感。取材活動を始めて3年有余。本質的なインタビューができていない、視点があやふやな記事など欠点が目につく。全国紙の新聞記事を手本として少しは改善してきたように思うが、道半ば。しかし、分不相応なほどに欠点を克服することは至難の業。自分らしい視点があってもいい。読者がどのように記事を受け止めたかが大切ではないか。これが、『ぼくを探しに』の気づき。

(菅原)