新潟県 新潟市立東特別支援学校
学校司書の配置から3か月。”東特別支援学校ならではの図書館教育”が動き出す!
(2017年7月14日 取材)
所在地:〒950-0806 新潟市東区海老ケ瀬31番地
電話:025-271-9117
FAX:025-271-9118
設立:昭和55年4月
E-mail:t201higashitoku@city-niigata.ed.jp
HP:http://www.itiritu.city-niigata.ed.jp/
児童数:小学部 88名
生徒数:中学部 68名
学級数(普通学級・重複学級):小学部 24、中学部 16
教職員数:90名
学校司書:1名(平成29年4月現在)
教育目標
【学校全体】
○自分のことは 自分でしよう
○みんなと なかよくしよう
○じょうぶな 体にしよう
【小学部の目標】
○できることを増やそう
○身近な人となかよくしよう
○元気に体を動かそう
【中学部の目標】
○できることは自分でしよう
○いろいろな人とかかわろう
○進んで体力づくりをしよう
(新潟市立東特別支援学校のホームページで詳しく紹介されている。)
インタビュー
対応いただいた 学校長 中川 一之様
長年、教育行政や学校教育(西特別支援学校にも以前、校長として勤務)に特別支援教育に携わり、学校図書館の環境整備にも尽力されている。
図書館担当主任 渡邉 めぐみ様
学校司書 髙橋 美加子様
東特別支援学校紹介
知的発達に障がいのある児童生徒を教育の対象とした特別支援学校。子どもたちの増加に伴い新潟市では、平成22年に西特別支援学校を開校したが、近年、また増加傾向にあり、校舎を増築。児童生徒数156名、教職員90名。
特別支援学校の図書館整備
新潟市では平成26年度から、特別支援学校の学校図書館整備を検討。関係者での検討会は平成28年まで延べ11回を数え、報告書を作成。市では、学校司書の配置を正式決定して、平成29年4月より市立特別支援学校(東特別支援学校、西特別支援学校)2校に学校司書(非常勤嘱託職員)を配置した。東特別支援学校は中央図書館の学校図書館支援センターが担当。学校司書の髙橋先生は平成29月4月、市立中央図書館から異動。
学校図書館ご案内
―中川校長先生に図書館を案内いただいた。図書館では髙橋先生(学校司書)による小学部1年生への”おはなし会”を見せて頂いた。―
学校図書館はまだ、新設されて3か月目であるが、以前から日常的に行われている”読み聞かせ”は、すでに定着している状況。「図書館のスペースは狭く、蔵書も少ないが子どもたちの居場所にもなってほしい。小学部はまず本への興味をもってもらいたいということと大人から読んでもらう心地よさを感じてほしいということ、そして繰り返しの言葉・おもしろい言葉など、言葉への興味をもってもらいたいということから絵本を多く扱っている。中学部になると本が好きで、自発的に本を読む子もいる。生徒によっては図鑑や写真の多い本を好むなど、読書の幅が広がる。」と校長先生。”読み聞かせ”のポイントを髙橋先生に聞いたところ、①始まりの手遊びなどで「これからおはなし会が始まるよ!」という雰囲気作りをすること。②最初に読む本は、みんなが興味をもてる楽しい本を選ぶこと。③最後まで楽しめるように、絵本の合間にわらべ歌を入れたり、紙芝居など形態の違うおはなしを挟んで飽きないように工夫したりする との3点を挙げてくれた。中学部ではA君が『おおきなかぶ』の読み聞かせを披露。お話の展開が実に感情豊かで、聞いている子どもたち、先生方、取材メンバーらをくぎ付け。聞いていて大変、楽しかった。
学校司書が配置されてから、教材選びや授業の進め方に変化が出ている。例えば、”漢字の勉強”や「このような授業を考えているが・・。」等の教員からの相談に、司書から授業に使えそうな図書の提案がされる。「学校での職務経験はありませんが、子どもたちは素直でかわいい。 子どもたちがどんな本に興味があるか、またこれから、どんな本を提供していくか考えていきたい。」と髙橋先生。「本の専門家がいて、授業と関連する本が用意される。子どもたちはそれぞれに違う。(知的障がい児の)実態に沿った進め方をしています。」と校長先生。「学校図書館へ司書を配置している例は少なく、新潟市の取組は画期的である。」とも話される。一人一人の子どもたちへ寄り添う考えが、ここにはある。
-図書館担当主任の渡邉先生から具体的な図書館活用策などを伺う。―
平成29年度 学校図書館教育全体計画および学校図書館利用について
司書が配置された29年度は、新しい形での図書館教育のスタートの年である。
学校図書館の組織的・計画的な活用が図られるよう、また教職員が協力して創意工夫ある読書推進活動を進められるように、渡邉先生が中心になって、年度初めに図書館教育全体計画や図書館運営計画、図書館利用計画、読書活動推進計画を作成し、ビジョンをもって具体性のある計画で学校図書館の活用と読書推進活動を進めている。その中で、子どもたちが豊かな読書活動を進めるため、今までも行っている取組で今年度も継続しているものは、以下の4点である。
- 障がい・発達の状況に応じて、選書や環境を工夫したり、大型絵本、人形劇、パネルシアター、エプロンシアター、しかけ絵本、デイジー図書等、おはなしや物語への興味・関心を喚起する多様な教材や支援方法を工夫したりしていること。
- 授業において読み聞かせや自由読書などの読書活動を積極的に取り入れていること。
- 本を身近に感じられるように教室内に図書コーナーを設けていること。
- 新潟市立中央図書館の学校図書館支援センターとの連携として、図書資料の不足を補うために団体貸出を利用したり、読書週間の読み聞かせ講師として図書館司書の方に来ていただいたりしていること。
また、今年度新たに加わった取組としては①気軽に本を楽しめるように、朝、給食準備中、帰りの時間帯に、7か所の教室や廊下のフリースペースを使って自由参加型の「おはなし会(読み聞かせ)」を行っていること。②子どもたちが自由に本に触れる機会を増やすため、また一人で、もしくは友達や司書・担任の先生と一緒に、読書を楽しむことができるように昼休みに図書館を開放していること。③中学部の生徒の図書委員会を新設し、図書の整理・読書啓発などの活動をしていること。④これらの読書活動を教育活動全体を通じて実施していること。の4点である。これらの取組により、子どもたちは昨年度以上により多くの本に触れ、本に親しむ姿が見られるようになったということである
学校司書と確実な情報共有を図るため、司書活動支援依頼書及び司書からの司書活動支援連絡票を用いている。
「学校司書が配置されて、教員のフットワークが良くなった。”子どもたちの見取り”等にも余裕ができつつあり、図書館教育に時間が割け、子どもと一緒に本を楽しむ時間をより多くもつことができるようになった。」と渡邉先生。特別支援学校では、主にスクールバスを利用し子どもたちが登校してくる。15時の下校時刻まで、先生方の緊張感は続く。様々なことが起るため、物事を計画的に進めることもままならない。そのような中で、教員と学校司書が確実に意思を伝えあうことは、大切で重要なこと。文書という記録によって、多忙な時間の中で意思を伝えあうのが、”司書活動支援依頼書”と”司書活動支援連絡票”。とかく、不明瞭になりがちな”連携”との言葉ではなく、具体的な文書を用いて実践する。そして、この文書が蓄積されて、(学校図書館)年間活動計画につながることになる。
年間活動計画書は図書館の具体的な活用を記した計画書である。「H29各学年図書館教育活動計画調査票」を作成してアンケート調査をし、小学部1年生から中学部3年生までの各学年の読書活動の予定を一目で分かるようにまとめている。H29年度はこの計画がスタートした初年度である。新たに作った様々な計画に基づいて活動を進めているが、年度毎にこの計画がより具体化して実践され、改善を加えて翌年度へ反映し、実践が繰り返されると、その教育的効果は見えてくる。継続的な実践を大いに期待したい。「本に親しむ子ども、読書を楽しむ子ども、ひいては子どもの言葉と豊かな心を育むことを目指して日々読書活動を進めているが、今後取り組んでいきたいことは、余暇活動や将来の社会生活に役立てることを目指した図書館利用(貸出の手続きや図書資料の検索等)についての学習支援である。東特別支援学校ならではのやり方を作っていきたい。」と渡邉先生。特別支援学校での図書館活用事例はあまり情報がない。他の特別支援学校の手本としても期待できる。
マルチメディアDAISY図書などIT化への対応
DAISY図書対応のCD-ROMは、(数は少ないが)既にあり、iPadなども、コミュニケーションツールとして備えている。”見る””聞く”だけではなく、音楽等もあると効果的と考えているが、子供用コンピュータ等のハード・ソフトを整備する必要があるので、今後の検討課題の状況にある。
学校図書館支援センターへの評価・期待
学校図書館支援センターは、特別支援学校の学校図書館整備の検討に深く関わってきた。(同行した中央図書館職員の青野さんもその一人)。また、学校を訪問し、業務相談やおはなし会の実施等で継続的に支援してきた。この点について校長先生に伺うと、「特別支援学校は、とかく特殊なケースととられがちだが、中央図書館(学校図書館支援センター)は、いつでもバックアップしてくれる。学校図書館にない本も、多数貸し出してくれています。学校図書館支援センターは、他市に先駆けた優れた制度であると思います。」と高く評価。特別支援学校への支援は、今後、さらなる発展・充実が期待される。
-以上―
図書基本情報
東特別支援学校からのおすすめ本(小学部・中学部)
図書名 | 著作者 | レコメンド(簡易な推奨文) | 主な対象学年 | |
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1 | さつまいもの絵本 | たけだひでゆき にしなさちこ | さつまいもの栽培をする際に、育て方や収穫のイメージをつかむために役立っている。 | 中学部 |
2 | ばばばあちゃんのなんでもおこのみやき | さとうわきこ | 授業でお好み焼きを焼く時に、楽しくイメージ作りができた。 | 小学部(高) |
3 | だるまさんが | かがくいひろし | だるまさんと一緒に体を揺らして楽しんでいる。 | 小学部 |
4 | はらぺこあおむし | エリック・カール | 歌に合わせて読むと、子供たちも親しみをもって一緒に歌ったり、読んだりして楽しむことができる。 | 全学年 |
5 | おべんとうバス | 真珠まりこ | 食べ物や乗り物が好きな子供が多いので、その両方が出てくるこの本は、とても喜ばれる。 | 小学部 |
6 | サンドイッチサンドイッチ | こにしえいこ | リアルな絵がとてもおいしそうで、作っている時からできあがりまで、子どもたちがとてもウキウキして見ているのがわかる。 | 小学部 |
取材後記
特別支援学校の取材は初めてである。「このようなことを聞こう。その時はこのような順序で。言葉の使い方は慎重に。」など、あれこれ思いをめぐらしていたが、要らぬ心配であった。学校の紹介をされた後、校長先生が自ら、図書館や中学部の教室などを分かり易く、丁寧に案内いただいた。また、髙橋先生の読み聞かせ授業も見せていただいた。その中で幾度か、子どもたちとの触れ合いの場面にも接した。また、最も混雑する子どもたちの下校(5台のスクールバスの乗車・見送り、放課後デイサービスの方や保護者の方への引き継ぎ・引き渡し)を終えた渡邉先生が校長室に駆けつけ、図書館教育の方針、計画、具体策などを説明していただいた。今回の取材を通して、強く感じ取れたことは「一人一人の子どもに沿った教育」の有り様。筆者は教育分野に造詣があるわけではないが、思うに「教育の基本は特別支援学校」にあるのではないかということ。「教育」の見方がさらに深まった取材であった。
(菅原)