Value Books

本の価値を見つめる会社

2018年度Library of the Year優秀賞を受賞された株式会社バリューブックスさんは、インターネット上での古本売買を授業の柱とする企業です。本業のスケールメリットを生かし、様々な事業を展開しています。本の価値を問い、多様なコミュニティに還元していくことで「知」のエコシステムを構築しようとする取組みが評価されました。分野は異なりますが、図書館と同じく”本”を扱っているバリューブックスさんに、事業に対する思いを伺いました。

取材にご協力いただいた方々

(左)レスキューチーム 広報PR:原 悟氏、(右)代表取締役:中村 大樹氏

Value Booksの、事業に対する思い

古書売買を柱に、できることを少しずつ

会社、事業に対する思いを教えてください。

BOOK BUS PROJECT in オガール(© VALUE BOOKS)

中村:
2007年に起業し、今年で12年目になります。元々は、インターネットで古本を買い取り、販売するというところからスタートしていて、今でもこの事業が柱です。3年目に、「Book Gift Project」という、町の施設や図書スペースに本を寄付する活動を始めました。その翌年には、古本を集めて、NPOや大学のファンドレイジングをお手伝いする寄付プロジェクト「charibon(チャリボン)」を始め、今日までの寄付総額は4億円を超え、寄付先も200団体を超えるまでになりました。7年目には、ネット上の売買だけではなく、本を販売したその先と出会いたいという思いで、実店舗 Books & Cafe「NABO(ネイボ)」をスタートさせました。「BOOK BUS PROJECT」は、昨年から取り組んでいるプロジェクトです。県内にとどまらず、県外にも行っているので、担当者は大変そうです。事業の柱は創業時から変わりませんが、少しづつ、事業の幅を広げています。

幅広く手掛けていらっしゃいますね。

中村:
売上の柱になっている古本の買取り・販売以外のプロジェクトは、会社としてできることをやっていこうという気持ちでやっています。本を送ってくださったお客様に、本の行き先として満足していただけるように、という思いが強くあります。

図書館の場合、整理コストやスペースの問題もあって、寄贈を受け付けられない場合もあります。しかし仰る通り、送った方の思いが本の中に必ずあります。そのマッチングがなかなか難しいことが多いですね。もともとネットで古本屋をやろうと思ったきっかけは何でしょうか?

中村:
当時は、Amazonが身近になり、定着し、広まり、社会に浸透し始めたばかりの頃で、店舗とネットでは、需要と供給にギャップがありました。そのギャップが最も大きかったのが、専門書です。店舗に専門書が並んでいても、たまたまその専門分野の人がそのお店を訪れる、ということはなかなかありません。でも、ネットだと全国の人から買ってもらえます。一番最初は、個人事業としてそういった専門書をせどりしていましたが、会社にするタイミングで、そもそも専門書の流通というものがネットの特性に合っていたので、買取自体もネットを使うことにしました。その頃、インターネットの普及がかなり進んで、専門書の知識がなくても、ネットで調べて価値のある古書かどうかを判断できるようになっていました。そうすると、ジャンルも幅広く扱うことができ、ネットで専門書を高く買い取って販売する、ということができるようになりました。良いタイミングで事業を立ち上げることができたと思っています。

ネットで調べられるといっても、値付けは難しくないでしょうか?

中村:
自社でAmazonのデータを参照するシステムを組んで、バーコードを読み取るだけで買い取り金額が自動で出てくるようにしています。人に依存しない仕組みにするという点と、専門的で価値のある本はきちんとした値付けをするという点、この2点を両立させるように考えています。 今は大体1日2万冊、年間700万冊くらいの本が送られてきますが、本当にいろいろな本が届きます。でも、そのうちのおよそ半分は、ネット上では値段がつかず、廃棄しなければいけません。それがもったいないし、僕たちとしても結構辛いんです。だから、自分たちで店舗販売したり、他社に卸したり、「Book Gift Project」という活動を通して本をプレゼントしたりと、何とか本を廃棄せずに本のまま活用したいという思いで取り組んでいます。ボロボロでどうしても再利用できず、仕方がなく廃棄という場合もありますが、会社としても、なるべくキレイな本は活用したいと思っています。

寄付事業に対する思い

寄付事業にかける思いを教えてください。

中村:
「Book Gift Project」は、買取の件数が増えていく中で、捨てなきゃいけない本がだんだん増えてきてもったいないという思いのほかに、インターネットを介して商売をしているとお客様の顔が見えなかったりするので、自分たちの地域の目の行き届くところに自分たちの会社で本棚をつくっていくということが、従業員のやりがいにつながるかな、と思ってやっています。ただ、この活動は、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)という部分が強く、うちは大きな会社ではないので、忙しくなると事業の中で優先順位が下がってしまう、という課題を感じていました。実際、余裕がないとだんだんやらなくなってしまうということが起きていました。会社の判断としては間違っていませんが、なんとか事業の優先度が一番高いところに関連付けた、社会に影響を与える仕組みをつくれないかな、と考えたのが「charibon(チャリボン)」です。

中村:
僕たちの会社は、どんなに忙しくても、優先度は本の仕入れが一番高いんです。その点で「charibon」は、会社として本の仕入れにつながる仕組みになっているので、優先度を高く継続できます。NPOにとっても、本を直接もらうのは嬉しいけど、最重要か?と言われるとそうではないと思います。それが寄付(金)であれば、サービス提供のための資金集めという観点から、優先度を高く設定できるはずです。うちとしても仕入れになって、NPOからすると資金集めになることから、お互い優先度の高い取組みとして、この活動を一生懸命広げようとする。CSR・企業の社会的責任というより、どちらかというとCSV(Creating Shared Value:共通価値の創造)という考え方に移っていきましょう、というのが「charibon」の事業ですね。

原:
こういった取り組みが、バリューブックスを選んでもらえる理由のひとつになっていると思います。僕は「BOOK BUS PROJECT」のツアーで知り合ったおじいさんがすごく印象に残っています。その方は、奥さんと二人で読んできたたくさんの本を、奥さんが亡くなった後、一度は処分しようと思ったけれど、結局処分することができなかったそうです。でも、こういう活動をしている僕たちのことを知ってくれて、「処分する気になれた」と言ってくれました。実際、ブックバスツアーの最中、一部の本を僕たちに託してくれました。僕自身は本への思い入れが特別に強いわけではなく、この会社に入るまで、自分にはそういう感覚はありませんでした。でもこの時、その人にとっての特別な一冊って、こういう感覚なんだ、と少し分かった気がしました。うちに買取でも寄付でも本を託してくれる方々の理由として大きいのが、「Book Gift Project」とか「charibon」という取り組みだと思っています。実際に市場価値がなかったとしても、その人にとってはものすごく価値のあると思っている本が、買い取りに出して100円だってなると、皆さん手放すことを躊躇するんだと思います。同じ100円でも、バリューブックスだったら新しい次の読み手に繋いでくれるかもしれない、そういう部分に納得感があるんだと思います。

© VALUE BOOKS

本好きの人は、自分が持っていた本の価値を理解してくれる人にあげたいと考えていると思います。
今後の展望について、聞かせてください。

中村:
やりたいことはいろいろあります。本の世界の中でやれることをやっていきたいとは考えています。今やってることを継続したいですし、店舗ももう少し規模の大きなものをつくりたい。アメリカのパウエルズブックスみたいな、新刊も中古も一緒に売っている書店がいいなと思っています。ネットのサービスも、もう少し本を売ったり買ったり簡単にできる場所をつくりたいし、もう少しこうなった方がいいなと思うサービスを展開していきたいです。今はISBNのある本が対象ですが、ISBNのない古書の目録もAmazonで充実してきているので、今後検討してみたいと思っています。

原:
会社のミッションとして、「日本及び世界中の人々が本を自由に読み学び楽しむ環境を整える」ということを掲げています。どうしたらそういう環境をつくれるか?と考えたとき、新刊か古本かは関係ありません。10周年を機にスタートした「VALUE BOOKS ECOSYSTEM」は、古本が売れたときも出版社に売上を還元するプロジェクトです。長く読み継がれる本をつくっている人たちに売上を還元すれば、また良い本をつくってもらえるんじゃないか、そう考えています。