ウィキペディアタウン

郷土資料で自分の住む街の魅力を再発見!

ウィキペディアタウンは、2017年度にLibrary of the Year優秀賞を見事受賞されました。ウィキペディアタウンとは、郷土資料を駆使して調べ上げた地域の文化財や名所に関する情報を、ウィキペディアに記事として掲載するイベントのことです。取材班は2018年3月11日に大阪市立中央図書館で開催されたウィキペディアタウンに参加しました。(ウィキペディアタウン開催のwebページ)。イベント運営に関わる方々や、実際にイベントに参加した方へのインタビューを通じて、ウィキペディアタウンの醍醐味や可能性に迫りました。
(2018年3月11日取材)

図書館を舞台にウィキペディアタウンを行う醍醐味

イベント運営者である日下九八様にお話を伺いました。

何も知らない人が、資料を駆使して1つの記事を完成させる

日下様がイベント運営者になるきっかけは何だったのでしょうか。

日下:2013年にウィキペディアタウンを横浜で開催する際に、相談を受けたことがきっかけでした。どのような記事を執筆すべきか、図書館にどう協力してもらい、どのような資料を用意してもらうべきか、などについて意見しました。
横浜のイベントは盛況のうちに終わったわけですが、そこでウィキペディアの記事が目の前で作られていくのを目の当たりにして、「これは面白い」と思いました。そこから本格的に協力するようになりましたね。

何が日下様の興味をそこまで引いたのだと思いますか。

まちあるきの様子

日下:一般の方が高いクオリティの記事を書き切ってしまう点でしょうか。
参加者はイベント当日まで、何の記事を書くのか知りません。知識が全くない状態です。そこからスタートして、まちあるきを行い、参加者は図書館に所蔵されている資料を基に高品質な記事を書き上げていく。そこがとてもエキサイティングでした。

地図を参考にまちあるきを行う(例として、土佐稲荷神社を編集)

郷土資料を紐解く楽しさを感じてほしい

確かに、何も知らない方がウィキペディアの記事を書き上げてしまう点は、大変興味深いですね。

日下:それだけではなく、日頃使わない郷土資料と参加者がじっくり向き合っている点も、とても面白いと思いましたね。
郷土資料は、使われることがあまり多くない本かもしれません。そんな資料に参加者がじっくり向き合って、懸命に紐解こうとします。読み解けたとき、参加者は心から「やった」と思うはずだし、もし読み解けない場合でも、図書館のレファレンスにすぐ質問できます。そういった質問は、図書館側からしてみれば「待ってました」という質問であり、図書館員の方々は親身に対応してくれます。
参加する方にとってはもちろん、イベントを開催する図書館にとっても、ウィキペディアタウンは色々な点で刺激を受けるイベントではないでしょうか。

イベント運営者である、
飯田市立川路小学校・三穂小学校の司書 宮澤 優子様にお話を伺いました。

参加者側から運営者側へ

宮澤様がイベント運営に協力するようになったきっかけをお聞かせください。

飯田市立川路小学校・三穂小学校の司書
宮澤 優子様

宮澤:ウィキペディアタウンに一度参加したことがきっかけでした。
誰でも記事を編集できるのが、ウィキペディアの特色だと知ったとき、自分でも記事編集が出来るのではと考えたのですが、ウィキペディアがどんなもので、どう記事を編集するのかを知りません。
そこでイベントに参加してみたのです。イベントに参加し、運営者の日下さんなどとお話をするようになって、ウィキペディアタウンの開催に自然と協力するようになりました。
またウィキペディアタウンに関与するようになったのは、この経験が自分の仕事にも活かせるのではないか、という思いもあったためです。

ご自分のお仕事というと、学校司書ですね。ウィキペディアタウンへの参加経験が、どう活きてくると思ったのでしょうか。

宮澤:本とインターネット双方を駆使して物事を調べられる子どもを育てたい、という思いを持ちながら学校現場で日頃働いていますが、インターネットの情報の扱いに悩んでいました。特に、ウィキペディアは「誰でも編集できるのは、正しい知識を得る上で問題だ」という声も、現場でよく聞きました。
ですが、ウィキペディアタウンに参加してウィキペディアについて説明を受けていく中で、何故情報が日々更新されるのかをキチンと理解できました。私自身は、そう頻繁に新しい記事を立ち上げることはしていませんし、毎日編集作業を行うわけではありませんが、あくまでウィキペディアを使う側として、子どもたちにも情報の信頼性を見極める目を持ってウィキペディアを使ってほしいと思い、イベント運営に積極的に協力しています。

誰でも編集できる点がウィキペディアの強み

老若男女問わず、みんなが楽しめるイベント

Library of the Yearを受賞したとき、宮澤様はどんな感想をお持ちになりましたか。

宮澤:ウィキペディアタウンに協力している方々は、その目的が多様で、図書館のためというのは後付けだったり、結果としてアウトリーチ活動としての評価が得られたり、ということもあり、Library of the Yearの「良い図書館を良いという」趣旨と活動の基盤が少し違うような気がして、はじめは正直違和感もありました。しかし、運営側はもちろん、参加者の方々も知的好奇心を刺激されて楽しんでいただいているそこに、図書館をはじめMALUIの資料が「情報」としてきちんと機能している、それが受賞できた理由なのだと知り、図書館の持つ「機能」と、それをうまく使ったこの活動を評価していただいたことに納得しました。

イベントに参加されている方々を見ると、確かにとても楽しそうです。年齢を問わず皆が楽しめるというのも大きな魅力の一つですね。

宮澤:子どもたちは自分が知りたい情報を見つけたとき、とてもステキな表情をするんですよ。その表情を見るのが、好きです。子どもだけでなく大人にもウィキペディアタウンを通じて、文献を読み解いて情報を見つけたときの嬉しさを感じてほしいです。

目立ちにくい本にもスポットが当たればいい

日下様も仰っていましたが、郷土資料にもスポットライトが当たる点は、ウィキペディアタウンの優れた点かと思います。

宮澤:そうですね。郷土資料のような利用頻度の低い本が、ウィキペディアタウンでは脚光を浴びます。それを図書館司書の方々が見たときに、自分たちが収集している資料の価値を再発見してもらえるかもしれません。そんな点も、ウィキペディアタウンの魅力の一つだと思います。

Library of the Yearを受賞したことで、ウィキペディアタウンの面白さがさらに広がっていくといいですね。

宮澤:ウィキペディアタウンを運営する団体のようなものはないので、どうしてもコンタクトを取りづらい点はあると思います。Library of the Yearの受賞が、ウィキペディアタウンに少しでも興味のある図書館関係者とつながりを持つきっかけになれば、とても嬉しいですね。

ウィキペディアタウンの活用方法

イベント参加者である、川崎市立宮前図書館 舟田 彰様にお話を伺いました。

目で見たことを資料が補強してくれる

ウィキペディアタウンに参加した感想をお聞かせください。

活用された郷土資料

舟田:ウィキペディアタウンについては、何も知らない状態で参加しました。図書館の資料を使うという発想もなかったため、まずそこに驚きを感じました。「こんな風に資料が使われるんだな」といった具合に。郷土資料が活躍しているのを間近で見ているのも、なんだか新鮮でした。

郷土資料を活用して、ウィキペディアを編集していく

郷土資料を紐解いていく作業については、どう思われましたか。

舟田:郷土資料にじっくり向き合うのはエネルギーも必要だし、かなり疲れます(笑)。でもまちあるきの楽しさと資料で調べる楽しさが混じり合って、立体的な楽しみがありました。自分の足で得た情報を、資料が裏付けてくれているような点も非常に面白かったです。
また、ウィキペディアの見方も変わりました。初めは懐疑的な気持ちも若干ありましたが、目の前で記事が編集されていく光景を目の当たりにして、ウィキペディアの信ぴょう性は高まっているなという印象を持ちました。自分たちが調べ上げたものが、記事として残るのも単純に嬉しいですね。

イベント時に編集された土佐稲荷神社の記事

ウィキペディアタウンは市の職員研修に使えるのでは

イベントに参加した経験を、今後どう活かしたいとお考えですか。

舟田:例えば観光資源の乏しい新興のベッドタウンでも、歴史資料を通じて地域の魅力を再発見できるかと思います。
それと同時に、自治体の新人研修や異動で配属されてきた職員への研修として、ウィキペディアタウンが使えるのかもしれないと感じました。

ウィキペディアタウンを研修プログラムとして利用する、といいますと。

舟田:ウィキペディアタウンを行うことで、その地域について知るきっかけをつかむことが出来ると思います。どの地域には、どのような施策をすべきか。その第一印象を知る方法として、職員がその地域を実際に目で見て実情を認識できるウィキペディアタウンは、非常に有効ではないでしょうか。

それは面白い発想です。ウィキペディアタウンを開くことで、地域について学んでいく契機となりそうですね。

舟田:市民のみなさんとの協働で行うことで、「この地域はこんな場所」といった地域の方からの口コミも知ることができると思います。そこにコミュニケーションが生まれますし、お互いがどんな考えを持って、その地域のまちづくりを目指しているのかを知ることができる。行政と市民の関係を良好にすることもできる有効なツールと思います。

皆さま、本日はありがとうございました。