大阪市立中央図書館

20年間継続しているデジタルアーカイブ事業

2017年度にLibrary of the Year優秀賞を見事受賞した大阪市立中央図書館。1996年から貴重資料のデジタル化と館内公開を、2001年からはWeb上での公開を行い、20年間途切れることなく資料のデジタル化を継続している点が評価され、今回の受賞となりました。 ここまで長く続けるには、相応の努力や難しさがあったはずです。デジタルアーカイブの20年間の足跡やオープンデータとしての活用方法を中心に、図書館の取り組みを伺いました。
(2018年3月12日取材)

資料のデジタルアーカイブ化とオープンデータ化

(左から)館長:三木 信夫様/利用サービス担当課長代理:長谷部 絵理様/利用サービス担当(サービス企画)担当係長:澤谷 晃子様/企画・情報担当(情報システム)担当係長:外丸 須美乃様

思い切ったオープンデータ化を目指して

なぜデジタルアーカイブ化を行おうと考えたのでしょうか。まず、その点をお聞かせください。

貴重資料を保管する書庫

貴重資料を保存するため、また大阪に関する資料をデータベース化してさらに活用していただくためにデジタルアーカイブ化を推進しました。
大阪市立中央図書館では、大阪に関する近世・近代資料を貴重書庫で保管していますが、市民のみなさんが資料を閲覧するには、申込が必要で、かつ、決まったお席でご覧いただくなど、自由に閲覧いただくことが出来ずにいました。大阪の歩みを感じられる貴重資料の利用と保存を両立させるため、資料のデジタル化を目標に据え、準備を進めました。
1996年に図書館システムを全館オンラインいたしましたが、それと同じタイミングでデジタルアーカイブ(イメージ情報)の中央図書館内での公開もスタートしました。

ホームページでの外部公開は2001年から始められたとお聞きしました。どのような考えのもと、外部公開を視野に入れ、2017年のオープンデータ化に至ったのでしょうか。

大阪市立図書館は、自治体最大規模の中央図書館と、比較的小規模の23の地域図書館とで成っています。どの大阪市立図書館でも同等のサービスを市民の皆さんに享受できるように務めており、この考え方は、ハイブリッド型図書館のモデルとなり得る点が評価されたLibrary of the Year 2009 大賞を受賞したことに繋がっているのではと思います。2001年のシステム更新時には、地域図書館でも中央図書館と同じようにデジタルアーカイブを「多機能OMLIS(オムリス)(利用者用検索端末)」で閲覧できるようにし、また、インターネット公開も始めました。その後、公開資料数を充実させていく中で、幸いなことに二次利用申請の数も右肩上がりで増加していきました。そのような現状を見て、「デジタルアーカイブをオープンデータ化すれば申請手続きが不要になり事務の効率化が図られ、さらに利用が増えて貴重資料が活用される場面も多くなるのではないか」という思いが生まれ、デジタルアーカイブのオープンデータ化に向けて動き始めたという経緯です。

オープンデータ化に対して抵抗感はなかったのでしょうか。

当初、オープンデータ化する資料は近世以前の資料の一部のみと考えていました。しかし外部の有識者の方から、

  • デジタルアーカイブのオープンデータ化は公共図書館で初の試みとなる
  • 後続して実施するであろう他図書館の基準となる可能性も高い
  • 古文書等でも個人情報には十分配慮しながら、一定判断したらどうか

というお話がありました。そのお話を受け、「デジタルアーカイブのオープンデータ化を公共図書館が実施することのインパクトの大きさ」を改めて認識し、公開する資料の範囲を近世資料だけではなく、写真や絵はがきといった近代の資料まで広げることに決めました。

当初の想定より、公開する資料の範囲を広める方向に舵を切ったのですね。ご苦労も大変多かったのではと推測されます。

そうですね。オープンデータ化を模索していた頃に、市長会見でのオープンデータ化に関する言及について打診してみたのです。そうしたら、ご了承頂けて。市長が会見で図書館についてお話されることも最近ありませんでしたので、とてもいいタイミングでした。市長会見の日程も決まっていたので、超短期で準備しなければならず、非常に大変でしたが、目標とする日が明確になったので、それはそれでよかったのかなと(笑)。

人から人へ技術を伝承するには

資料のデジタルアーカイブ化を開始してから20年以上経ったとお聞きしています。

20年の時間経過の中で、最も苦労した点が知識の伝承でした。担当者の異動は何度もあったため、人から人へ知識の伝承が欠かせませんでした。これが上手くいかないと、デジタルアーカイブ事業が断絶してしまいます。
当館では、人から人への知識の継承が上手く行われた結果、ある意味「よき伝統」としてデジタルアーカイブ事業が今も続いていると思います。

ズバリお聞きします。人から人へ知識を正確に引き継いでいく秘訣は何だったのでしょうか。

館内の情報共有ツール(共有フォルダや掲示板機能)などを存分に活用し、作業を属人化させることなく、蓄積されていた情報の共有を図れたことがまず大きかったです。
他には、全館休館日には業務研修を実施している点も挙げられます。研修の講師は、基本的に職員(担当者)が持ち回りで担当し、商用データベースなどの電子図書館機能やオープンデータが研修テーマになることもあります。
聴講者がスキルを習得できるのはもちろん、講師となる職員も勉強する必要があるので、高いレベルでの知識共有が行えていたと感じています。

今後の展開について

デジタルアーカイブ化とオープンデータ化を今後、どう展開していきたいとお考えですか。

Twitterでの、とあるつぶやき

現時点(2018年3月12日時点)で約7,100点のオープンデータを提供していますが、オープンデータの資料数を今後も増やしていくことが1つの目標です。
地域と図書館の連携事業に力を入れていますが、そこから発掘される資料もあるはずです。著作権や個人情報の問題がクリアされるのであれば、その発掘資料もデジタル化して公開できればと思っています。最終的には「発掘された資料を誰が保存するのか」といった課題を今後解決する必要がありますが、魅力ある資料が見つかることを期待しています。

またオープンデータ化したデータの認知を広げる情報発信も、今後さらに行っていきたいと考えています。Twitterでのつぶやきもその一端ですが、「こんな資料が二次利用・商用利用できますよ」「許諾なく使用できますよ」といった情報を積極的に発信していきたいですね。