瀬戸内市民図書館

6年の準備期間を経て開館した図書館の魅力

市民参加を積極的に促し、市民と一体になった開館準備が評価された瀬戸内市民図書館(もみわ広場)は、2017年度にLibrary of the Yearの大賞とオーディエンス賞を見事受賞しました。6年の準備期間を経た図書館の魅力に迫るともに、開館までの経緯についてお話を伺いました。
(2018年3月10日取材)

瀬戸内市民図書館を開館するまで

市民とともに図書館を作っていく

図書館の開館に向けて準備を進めていく中で、市民の方々の参加を積極的に促したとお聞きしました。まず、その点についてお聞かせください。

瀬戸内市民図書館 嶋田 学 館長

嶋田館長:図書館の構想を作成していく段階から、市民のみなさんの声を積極的に取り入れ、市民のみなさんに親しみを持ってもらえる図書館を作りたいと考えていました。そこで、市民ワークショップ「としょかん未来ミーティング」を開催し、沢山の方のお話を聞けるように努めました。ワークショップは計12回開催されました。

ワークショップは、どのような流れで展開していったのですか。

嶋田館長:初回は、市民のみなさんに市内の公共施設や他図書館を見学していただき、「ここを改善してもらえると、さらに使いやすい施設になる」といった愛のこもった通信簿を作成していただきました(笑)。その後、図書館づくりのたたき台である基本構想を公表し、市側の図書館に対する思いをお伝えしました。

2回目以降は、基本構想に肉付けする具体的な意見をお聞きしました。例えば「私は図書館で○○を解決したい」をテーマに、参加された方はまず個人で考えをまとめ、グループごとに討議をしていただく。グループで討議することで、個人では考えつかない意見を出していただく狙いがありました。
そうして洗練化された意見を基本設計に盛り込むことで、市民のみなさんの意見を図書館づくりに反映できるように図りました。

第8回 としょかん未来ミーティング《建築デザイン編》の様子

12回のワークショップに参加する方々は、毎回固定だったのですか。

嶋田館長:より多様な意見を取り入れられるように、そのような制限はかけませんでした。ですので、途中から初参加される方も多くいらっしゃいましたよ。

門戸を常に開くことは、幅広い意見を集めていく上でとても重要な点かと思います。ワークショップは、基本設計の作成を終えた段階で終了したのでしょうか。

嶋田館長:基本設計が出来たあとは、建築デザイン編を開催し、図書館の図面に関する意見をいただく段階に移行しました。ソフト面だけでなく、ハード面でも市民のみなさんの意見をお聞きしたかったからです。
例えば図面ができた当初は、1Fに書庫があって、2Fに多目的ルームがある設計図となっていました。ワークショップを経ることで1Fには多目的ルーム、2Fに書庫と図面が変更になりました。設計図に関しても意見を伺うことで、市民目線の使いやすい図書館になる方向性が少しずつ固まっていったのではと思います。

子どもたちにも親しみやすい図書館を

子ども向けのワークショップも開かれていたそうですね。

嶋田館長:これまでにお話ししたワークショップは、大人向けのものでした。しかし子どもたちだって、図書館利用者の立派な一人です。子どもたちにとっても、身近な図書館を作りたいという思いも強くありました。
そこで市内の中高生を対象に、2回のワークショップを開催いたしました。70名ほどが参加して頂けたかと記憶しています。

としょかん未来ミーティング《こども編》企画運営員会の様子
としょかん未来ミーティング《こども編》当日の模様

図書館づくりの基本計画に子どもたちの意見も取り入れるというのは、とても画期的だと思います。その分、難しい点もあったのでは。

嶋田館長:それはもちろんありました(笑)。ある時、中学生から「全校アンケートを取りたい」という意見があがりました。意見を言って頂けるのはとても嬉しいのですが、全校アンケートとなりますと、学校との連携も必要になりますし、時期が秋だったので3年生は受験勉強に忙しい。難しいのではないかとお話ししたのですが、「ぜひやりたい」と熱意を伝えられました。
そこで、市内の中学校を訪問し、校長先生に打診しました。とても好意的に受け止めていただきましたが、校長先生が「一つでもいいから子どもたちの意見を取り入れてほしい」とお話しされていました。
子どもたちが一生懸命考えた案を実現することで、子どもたちに達成感を持ってほしい思いがあったのではないかと思います。その思いを受けて、我々も子どもだちとの関わりに、より一層力を入れるようにしました。

6年の準備期間について思うこと

市民参加のワークショップを主軸に、図書館準備の期間は7年に及びました。その期間は長く感じましたか。

嶋田館長:長いとも短いとも感じず、いいプロセスだったと考えています。大変なことも数多くありましたが、市民のみなさんをはじめ、議会や設計者など多くの人々とコンタクトを取り、話をする機会に恵まれ、勉強になることが多かったです。

設計者の方とも打ち合わせを行うことがあったのですね。

瀬戸内市民図書館 図書館の内観

嶋田館長:設計には、図書館員の意見が必須だと感じていました。例えば書庫だけでなく、お手洗いの位置や壁の色合い、部屋の採光など細かい箇所にも図書館員の意見を取り入れてもらえるよう努めました。図書館員が日々働く場ですし、市民のみなさんがゆったりと長時間過ごせる図書館を作りたかったからです。施工について勉強する必要もあって非常に大変でしたが、図書館の外観から内観の細かい部分まで、図書館員が設計に携われたのはとてもよかったと思います。

関係者との打ち合わせやワークショップ以外に苦労された点はなんでしょうか。

嶋田館長:色々な計画や体制整備などをバランスよく推進していくことが、とても難しかったです。
例えば図書館の開館準備を進めると同時に、移動図書館の整備も行っていました。当時は軽自動車を役場から借りており、移動図書館が十分に機能していなかったのです。本を運ぶための大型車を調達する計画を作成しはじめました。

瀬戸内市民図書館 移動図書館

学校司書への支援制度も、同様に推進しました。
瀬戸内市民図書館の開館年の春から公共図書館と学校図書館をオンラインシステムで結び、毎週資料配送便を巡回させられるように準備を進めました。それと同時に、学校司書の参加する学習会「学校図書館と子どもたちの学び」を毎年開催し、学校司書のスキル向上を図りました。