千葉県 袖ケ浦市立昭和小学校
平成30年度第2回授業研究会から
(2018年12月3日(月)図書館活用に関わる授業研究会に参加)
授業は「調べ学習」の発表会形式を取り入れて行われ、他の小中学校の先生方も参観する。また、授業参観終了後、学校図書館活用の協議会が開催され、研究主題に関わる講演や学習指導案の意見交換なども行う。なお、授業研究会は中学校の通学区単位となっており、小中学校の先生方が相互に俯瞰できる優れた仕組みである。
世界に誇る日本の食文化 ~「和食」のすごさを見つけよう~

場所は学校図書館。
日本の食文化を知る・調べることのきっかけ作りのため、学級担任が市内の寿司店で店主にインタビュー。寿司の握り方、食べ方などを取材しオリジナルのDVDを作成し、子どもたちが見て、考えを述べる。DVDはかなりの力作。取材準備、編集などにかなりの時間を要したのは明らか。店主に修業時代の苦労話などもインタビューし、教育的な視点も添える。

また、家庭科で和食の基本である「出汁」のすごさを知る体験。佐藤先生が、かつおぶしを手に取る(触覚)、かつおぶしを削る(聴覚)、出汁から漂う香り(嗅覚)、出汁のうすい飴色(視覚)、そして最後に試飲(味覚)で大きな歓声!出汁のすごさは、豊かな五感も育てる。



たのしくよんで、本をしょうかいしよう 「おはなしどうぶつえん」をつくって、本をしょうかいしよう
動物が出てくる本を読んで、記録カードに記入。友達に紹介したい本を1冊選び、「紹介カード」に書く。教室の壁に動物園の見取り図を張り出しておき、「紹介カード」を読み上げながら、この本に登場する動物の居場所にカードを貼る。動物の本を繰り返し読む、発表することで、選んだ本の理解を深める。

カードを作成

貼り出す

みんなに紹介
未来へはばたけ マイ卒業研究 「未来の袖ケ浦~より魅力ある袖ケ浦市を目指して」
テレビ東京の人気番組”アド街ック天国”で放送された袖ケ浦市を題材。浦安市、成田市と比較して袖ケ浦市の認識度はもう一歩なので、みんなで対策案を検討。市内の人気スポットから分野別(工業や教育、公共施設など)に整理。各自がそれぞれにドーナツチャートにまとめて、魅力あふれる袖ケ浦市の街づくりのテーマを整理し、発表する。(民間放送の番組でも積極的に活用。コマーシャル部分はしっかりカットして再編集)


司書教諭と協力して授業を行う

47都道府県をPRしよう

旅行に行くためのハンドブックを作ることで調べたい県を設定する。(ここまでは、既習済み)学習の場は学校図書館。読書指導員の和田先生が都道府県に関わる最適な本を事前に用意。タブレットPCも10台程度あり、自由にインターネット検索。地方出身の先生(得意とする都道府県名をポスターで掲示)は、良きインタビュー相手。インタビューすることで、より詳しい情報を調べ、整理し、発表につなげる。さまざまな手段を選択することでコミュニケーション力、判断力、表現力などを学ぶ。

調べ方を学ぶ

(学び方ガイド)

“調べる”を応援
校長インタビュー

鴇田校長は学校経営・危機管理を担当。市の学校教育課に長らく勤務。市教委在職中に調べ学習の導入・普及に尽力し、市内全小中学校への導入を図る。その後、学校教育課長から昭和小学校長に転任し、現在に至る。著書や各地での講演多数。
ーー図書館を活用した調べ学習を全学年・全教科で推進しておられますね。
校長:
学校図書館の環境整備を進めると、本好きの子どもたちが集まってきます。また、資料も充実してきますので、これを最大限活用しない手はありません。学校図書館は国語や社会、総合的な学習から活用が始まります。これをさらに進めて、理科や図工、音楽、保健体育などでどのように活用するか、それが課題でした。そこで、先生方に具体例を示しながら、少しずつ、地道に広げてきました。例えば、理科です。天体や人体などは実験や観察よりも学校図書館を活用した調べ学習が向いています。このことを、粘り強く働きかけてきました。現在、調べ学習は”教科的学習”から、”(教科横断の)総合的学習”に発展をしていると思います。
思考力・判断力・表現力・コミュニケーション能力の育成と併せ、大切なテーマとして、読書活動を通じて”思いやりの心を育てる”ことも掲げ、取り組んでいます。
ーー袖ケ浦市では調べ学習に取り組んで、20年ほど経ちます。ここまで、継続・発展してきたことのポイントはどこにありますか。
校長:
やはり、絶対的に必要なのが各学校長の理解です。袖ケ浦市では司書教諭や読書指導員(学校司書)の研修会を定期的に開催していますし、市立総合教育センターや学校図書館支援センターがバックアップしています。常に、現場の先生方を”牽引とフォロー”のバランスで運営してきました。今、先生方の世代交代時期に差し掛かってきていますが、この「袖ケ浦市の特色」をきっちりつないでいかなければなりません。
ーー(調べ学習に取り組んで)子どもたちの変化や成長について、どのような点を上げられますか。
校長:
私どもが育ったころは「調べ学習」という学習はありませんでした。「調べ学習」は、子どもたちが自分の疑問を明確にし、自ら調べる主体的な学習です。そして、レポートにまとめて発表する。この点が40年前とは大きく変わりました。レポーティングに時間を割いていますが、ディベートやディスカッションをもっと多く取り入れ、子どもたちの更なる成長を支えて行きたいと思います。
ーー成長する学校図書館とは、どのような点を指しますか。
校長:
学校図書館は当初、読書センターの役割で良書を中心に置いていました。その後、学習センター、情報センターの役割が求められ、新聞や雑誌,地域資料、インターネットや映像資料などの幅広い資料や道具を取り揃えるようになりました。併せて、専門的な知識をもつ職員を配置しマンパワーの充実を図りながら、資料の蓄積を図ってきています。
ーー(私見ですが)袖ケ浦市では、すでに(調べ学習を通して)アクティブラーニングが実践されていると思います。
校長:
「調べ学習」は思考力・判断力・表現力の育成を目指しています。私どもは学校図書館を核 としたこの取り組みを20年来行ってきました。そしてこの取り組みはアクティブラーニングに相通じるものと考えており、今後もこの取り組みを成長させていきます。
ーー司書教諭や読書指導員(学校司書)の先生にメッセージをお願いします。
校長:
教科担任、学級担任の先生方が授業にきっちり取組んでもらうことが大切です。司書教諭、読書指導員(学校司書)の先生には、是非、地道に遠慮なさらずに、他の先生がたを(学校図書館の)活動に引き込んでください。そうすれば、必ず「助かりました」「ありがとうございました」の言葉になって、返ってきます。
ーー実践に基づく貴重なお話、大変ありがとうございました。
参考情報
図書館基本情報

昭和小学校のおすすめ本
図書名 | 著者名 | レコメンド(簡易な推奨文) | 主な対象学年 |
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コツがまるわかり! 生き物の飼いかた1~8 | 足立区生物園/監修 | 生き物のエサ、世話のしかた、飼育の準備、観察のしかたが低学年にもわかりやすい | 2年国語 |
食べもの 日本 地図鑑 | 小泉武夫/監修 | 47都道府県の特産品や、野菜・海産物の採れる県を紹介 | 4年社会 |
パラスポーツ ルールブック | 陶山哲夫/監修 | パラリンピックの種目やルールが丁寧に記述されている | 4年総合 |
お米の大研究 イネの生態から文化とのかかわりまで | 丸山清明/監修 | 米の品種、米作りの一年、ご飯の炊き方、いろいろな米料理など、さまざまな情報がある | 5年総合 |
朝日ジュニア 学習年鑑2018 | 朝日新聞出版 生活・文化編集部/編 | 都道府県の特徴を調べる、水産業や自動車工業のデータを調べることに活用できる | 4年社会 5年社会 |
世界の人々に聞いた100通りの平和 1~4 | 伊勢崎賢治 | 紛争をかかえている国々の事情をわかりやすくまとめ、平和への思いを訴える本 | 6年総合 |
昭和小学校から紹介された郷土”袖ケ浦市”のおすすめ本
図書名 | 著者名 | レコメンド(簡易な推奨文) |
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市民のための袖ケ浦の歴史 | 袖ケ浦市教育委員会 | 袖ケ浦市の原始~現代の歴史、人物、社寺、民俗などがわかりやすく紹介された冊子 |
そでがうら観光ガイド袖ケ浦のひみつ | 袖ケ浦市役所 商工観光課 | 袖ケ浦の特産品、観光スポット、魅力を写真とともに紹介したパンフレット |
袖ケ浦市勢要覧2016 | 袖ケ浦市 | 市内6地域の特色と魅力を紹介し、楽しく安心して暮らせるまちをめざした4つの基本目標を提示した冊子 |
まとめ
調べ学習がどのように継続・発展してきたか。大きく四点あげられる。
第一に「学び方ガイド」という分かり易く、より具体的な資料があること。第二に多くの先生方がこのガイドをよりどころとして相互に実践・活用し、絶えず交流しながら改善していること。第三に先生方が異動しても読書指導員が確実に人と人をつないでいること。そして学校図書館支援センター、市立図書館、学校支援ボランティアなどのつながりと図書流通システムが四点目として上げられる。袖ケ浦市は、とにかく子どもたちへの教育環境づくりに熱心である。また、関係者の意識も高い。授業研究会のテーマでもあった「魅力的な袖ケ浦市の街づくり」は、既に学校現場から”人づくり”として展開されている。
取材後記
先生方は週25時限であるが、授業を見せていただいてすぐ気づいた。授業は1時限45分であるが、準備や振り返りなどでその2~3倍の時間を要しているのではないか。また、これにさまざまな校内活動なども加わる。先生方に変形労働時間制を適用する検討もなされているが、そもそもの時限数が多い。先生方の働き方改革は容易ではないが、学校図書館を活用することで、先生方のチームワークによる授業運営が図られ、少しでも多忙感を和らげるのではないかとも思う。
(菅原)