紫波町図書館
2016年度 Library of the Year 優秀賞受賞館
(敬称略)
企画展示
いろいろな企画展示がありますね。大変ではないですか?
【工 藤】
そうですね。企画展示は毎月テーマを決めて実施します。そのテーマを決めるとき、情報のつながりを作るということで、常に図書館の外部の人々やグループ、地域の方々と連携をしています。例としては、地域の郷土芸能団体から本を推薦していただくとともに、郷土芸能の道具や衣装をお借りして展示するということをしました。もちろん本を読んでいただきたいというのもありますが、その他に郷土芸能の色々な資料や情報を同時に発信することによって、紫波町に20も郷土芸能があったことを、町民も初めて知ることができます。新住民の方も多いので、町をよく知る機会になるということとに繋がります。郷土芸能を見るチャンスは限られているのでもっと皆さんに知っていただきたいんです。需要と供給がマッチするということが、図書館で出来たのではないかなと思っております。
図書館は本の情報を提供するだけではなく、様々な情報を提供する場に変わりつつあるということでしょうか?
【工 藤】
そうですね。図書資料と言うより、今は情報資料なのだと思います。それはいつも心がけていこうと思っています。つくりものはいつもこだわっています。例えば、掲示物はイラストレーターやフォトショップで作っています。
本当にポスターやチラシのデザインが素晴らしいです。
地域と連携していく
連携の例としてマルシェの野菜販売や盛岡市にある地ビール会社ベアレン醸造酒(ビアフェスト)だったり、かなりユニークな連携事業がありますね。どのようにして、そういった連携が始まったのですか?
【工 藤】
図書館側から色々なところに仕掛けて始まりました。それがいったん回りだすと、「こういうことを一緒にやりませんか」と情報が向こうから来る。オガールプロジェクトを担っているのが企画課の公民連携室で、オガール全体のいろいろな企画を実行しています。そのときに、「これは図書館と連携できるんじゃないか」というかたちで、図書館で企画を受けるということも時々あります。ビアフェストとの連携も、企画課に先に話があり、ビールの本の紹介や展示を図書館で行えば、相乗効果でより面白くなるのではということで動き始めました。ビアフェスト会場の広場には子どもたちも来ますので、そこで本館の司書が読み聞かせをすることを提案しました。ベアレンビアフェストは年に一回行われる恒例イベントになりました。その売り上げの2千円のチケットの中から100円が、図書館への寄付になります。あまり大きな金額ではないと感じるかもしれませんが、そういう仕組みと気持ちが図書館としてみればすごく嬉しい。だからwin-winの関係かなと思っています。
夜のとしょかん
【工 藤】
「夜のとしょかん」というのはトークイベントなのですが、大人の方っていうのは、特に働いている人たちはなかなか図書館に来れないし、来る気もないんですね。どちらかというと本は自分で買って読む。特にビジネス本など、そういう人が多いです。本を読んでいる人の中には「全部自分で買うから図書館はいらない」と言う人もいます。図書館は、住民の身の回りの課題とか疑問に対してレファレンスサービスで対応していますが、そういうことも図書館に実際に来ないと知りようもありません。図書館はただ本を貸しているだけのイメージです。そこでどうにかして図書館に縁遠い大人に、とにかく一回図書館に来ていただく機会を持ちたかったので、閉館後に1時間程度のトークイベントを仕掛けました。
先ほどお話しした、ベアレン醸造所の専務である嶌田さんという方が、『つなぐビール』という本を出版された際には、出演をお願いしました。ベアレンという会社の波瀾万丈な10年間を、「夜のとしょかん」でお話ししてもらいました。入り口のところでビールを販売していて、ビールを飲みながらそのトークイベントを聞くということをやりましたね。トークイベントは毎回5、60人くらい集まっていただき、女性の割合が多いかなと思うんだけど、その時は男性の方が多かったです(笑)
年に何回くらい開かれますか?
【工 藤】
年に4回+αですね。春夏秋冬に、あとはベアレンのような特別企画があったときに。
閲覧室の中でやっているというので、スタジオとかでやっているのとまた違う雰囲気ですよね。
【工 藤】
そうですね。紫波町図書館がいい雰囲気だというのは、たぶん天井の高いフロアがあるからじゃないかなと思うんです。確かに他の図書館でも、木造りで吹き抜けのところもありますが、紫波町ほど天井が高くはないんじゃないかなと。すごくいい雰囲気だと思いますね。
そうすると「本を読むだけではちょっと勿体ないな」とみんなが思い始めるわけです。「夜のとしょかん」の第2回目に、星のお話をしてもらったんですが、その時にジャズシンガーの方が飛び入りで、宮沢賢治の星巡りの歌っていうのを、アカペラで歌ってくださったんです。すごく音響がよくて、紫波町情報交流館には音楽スタジオもあるけど、ここの一般フロアに一番音響効果があることが分かりました。ぜひ音楽イベントも何かできればいいなと思っています。
つながりはどこから
そういう方はどこから見つけているのでしょうか?
【工 藤】
やっぱりそれぞれのつながりですね。司書の企画会議の時に、どんなテーマで「夜のとしょかん」をやろうかという話が浮かんで、だいたいその時の季節にあったものをテーマに選ぼうと試みますが、必ずしもそうならない。予算の都合上、来てくれる人が誰かということになりますので。謝礼はお渡ししていますが、交通費程度です。私が最初に考えたときは、謝礼のいらない役場の部長級とかに行政のお話をもっとざっくばらんにしてもらおうかなと思ったのですが、初回から結構全然違うゲストスピーカーをお招きしました。
そこから様々な繋がりが生まれてきて、農業支援にも取り組まれて、かなり苦労されたのではないでしょうか。
【工 藤】
そうですね。ビジネス支援というものにずっと紫波町も取り組んでいて、そういうことで山崎さんをアドバイザーにというお話だったときいています。ただ実際に初めての図書館ですので、立ち上げるのが精一杯だったんですよ。だから最初からビジネス支援に取り組むっていうのはどうなのか、内部の反対意見もあり、出来るのか出来ないのかっていうところでしたが、半年後は農業支援が始動しました。
ここはベッドタウンですから、82.3%が昼間人口で、盛岡市や花巻市、北上市に通っています。ですが、食料自給率は170%で、周りがずっと田んぼですから農業の町です。なので、農業支援をするということは自然の流れだったと思います。忙しい時期でしたが、その時にやらなかったら、なかなか着手出来なかったと思います。最初は「なんで図書館でそんなことやるの?」という感じでしたが、当時の農林課長から色々アドバイスをいただいたり、隣に紫波マルシェという産直施設がありますよね。そこに200人くらいの組合員さんがいて、そういった農業関係者との交流を通じて、図書館の理解が徐々に生まれてきました。産直マルシェの他に町内には9箇所の産直がありますし、隣にJAいわて中央もあります。そういうところに司書が伺って企画をもちかけることによって、図書館で取り組んでいるということへの理解を少しずつ深めていただきました。