紫波町図書館

2016年度 Library of the Year 優秀賞受賞館

(2017年3月12日 取材)

取材にご対応いただいた工藤館長

インタビュー

(敬称略)

「おはようございます」

【工 藤】

今回、Library of the yearにノミネートされ光栄です。コンセプトとして”4つのつくる”に紫波町図書館は取り組んでいます。

毎朝10時に職員が来館者のお出迎えをして、「おはようございます」という声掛けをすることを3年くらい前から取り組んでいます。最初は利用者の皆さんが恥ずかしがりました(笑)ですが、最近は逆に向こうから「おはようございます」と言ってくれる方もいらっしゃいます。やっぱり図書館ということではなくても、自分たちが地域社会に生きていく上では結局挨拶が基本なんだと思います。ネット社会で、隣同士の席であってもメールでやり取りするような時代ですが、対面での会話が非常に重要なのではないかと考えています。

利用者を出迎える入り口の掲示コーナーでは、
紫波町図書館にまつわる新聞記事が掲示されていた。

それはオガールプロジェクトの一つの理念でもあるのではないかなと思っているんです。単にこざっぱりした施設が出来ているだけでなく、そこから醸し出される空気感というのはその地域に住んでいる、その施設を利用している人々が持っている気持ちが作り出していくのだと思います。

利用者とのコミュニケーション

【工 藤】

開館当初にサインが小さいというご意見をいただきました。

紫波町図書館はデザイン性に優れたサインに富む。

たとえば、産直マルシェは当施設の端に位置していますが、「どうやったらそこに行けるの?」と、図書館の中を通って向こうに買い物に行こうとする方が今でも時々います。「どうして通り抜けられないの?」という感じで、ご意見をいただくこともありますが、そういうことからもコミュニケーションが始まると思っています。何かわからないことがあったら、「私たちスタッフにどうぞ聞いてください。」ということで、そこから会話が始まり、丁寧に対応することを心がける。その成果が最近出てきているように思います。

利用者の方と会話が出来ているということなのですね。

【工 藤】

そうです。そこが重要なのだと思います。私はずっと役場の建設関係の担当だったので、本は好きでしたが、当時は図書館を利用することは少なかったです。そもそも紫波町図書館がなかったですし。本を眺めているのは好きなので、本屋さんにはよく行きました。他の図書館と比較してどうかは全然言えないのですが、図書館施設が明るくても、働いている司書や職員が暗かったりすると利用者の気持ちが萎縮してしまいます。そこで私たちは出来るだけクリアな明るい声で、挨拶や声掛けをすることを心がけています。来館者の方も気持ちいいといいます。

リラックスできる空間に

【工 藤】

この施設、配置が細長いですから、外側が最初に決まりました。140mの長い建物をつくるというのが先にあったので、アドバイザーの山崎さんに加わっていただき、設計・施工に入りました。

返却ポストは大人の背の高さと子どもと車イスの方の高さに合わせた2種類が用意されている。

中身の配置に相当苦労したのではと思います。例えば、子どものフロアは割と壁で囲われているところが一般的に多いと思いますが、紫波町図書館では入り口付近に子どものフロアを持ってきています。にぎやかなフロアを通って、大人の方が一般のフロアに向かうというプロセスを通じて、「紫波町図書館は賑やかな図書館」ということが来館者に自動的にインプットされると思います。更に一般のフロアに行くとBGMが流れているので、ある意味音のギャップがないという、そういうコンセプトにしました。他の図書館ではBGMを流しているところは少ないと思うし、むしろ鉛筆など何か書いている音さえ気にするくらい静かな空間が普通の図書館ですから。

建築の都合上、壁がでっぱる部分が生じたが、壁面に書棚をつくることで、限りあるスペースを有効に活用している。

雰囲気が本屋さんに近い感じですね。子どもたちの姿も多いと思います。

【工 藤】

逆に言うとちょっとくらい音とか出しても「そんなに気にしなくていいよ、もっとリラックスして使えるよ」ということが、市町村の公共図書館の利用形態なんじゃないのかなと思うんです。今、ちょうど中学生の高校受験が終わったばかりで、買い物に行くにもまだ合格発表が終わってないということで、図書館辺りに来るのがちょうどいいみたいですが、「子どもの声がうるさい」といったことは言われたことはありません。自習や読書に集中したい場合は2Fに学習室や読書テラスもあります。

このくらいの感じがいいですね、適度に賑やかなので、利用者も気兼ねなく使いやすそうです。

【工 藤】

そうですね。大学図書館などでは、何人かで対話をしながら本を読むというような、時間とスペースが大切になっています。紫波町も「本のそばでコーヒーなりお茶を飲みながら本の話をしたい」という要望があるんです。本とカフェは、相性がいいのだろうとは思います。

それで飲み物OKなのですね。

【工 藤】

1階のカウンターのところではドリンクはOKだし、2階の読書テラスでは飲食可です。場所は指定されていますが、使い勝手が良いのではと思います。

来館者は人口の7倍

紫波町の人口は何人ですか?

【工 藤】

人口は3万3千人です。

3万3千人でいま20万の来館者というのは、人口の7倍くらい来館していますね。非常に高い来館率ですが、その要因は館長がお話しされたような図書館の雰囲気などもあると思いますが、それ以外にも理由はあるのでしょうか?

【工 藤】

読みたい本があるという声を結構よく聞きます。選書もしっかりと行っていますし、今まで来館したことのない人たちに来ていただけるよう、イベントや企画展示で、町内外のいろんな機関と連携したりしています。図書館の外、地域へ司書が出ていき、地域の情報を得たり、人とつながりをつくったりすることを積極的に行っています。

本の面出しを多くして展示し、利用者の興味を引いている。

分かりやすいですよね。展示も工夫されています。

【工 藤】

本の表紙はできるだけ面出ししていて、特に絵本や児童書関係の本の面出しに力を入れています。子どもたちは背表紙だけだとなかなか中身まで想像できませんので。